再上方修正候補を見抜く日本株決算進捗率と業種別焦点の実践整理
はじめに
2026年3月期の本決算発表を前に、日本株では「第3四半期で上方修正した企業が、なお通期予想を超えて着地するのではないか」という見方が強まっています。背景にあるのは、単なる思惑ではありません。東証が資本コストや株価を意識した経営の開示を継続的に求めるなか、企業は見通しの精度と説明責任をこれまで以上に問われています。一方で、外部環境の不確実性が大きい局面では、会社側がやや保守的な数字を残すことも少なくありません。
本稿では、Kabutan本体の記事には依拠せず、東証の制度資料、野村證券の市場集計、そして各社の第3四半期決算短信と業績修正開示だけを使って、再上方修正が起きやすい条件を整理します。結論を先に言えば、有力候補は「第3四半期累計の利益進捗率が高い」企業ですが、それだけでは不十分です。利益の質、修正理由、為替や特需の有無まで切り分けて初めて、実戦的な見方になります。
再上方修正を生む市場構造
東証改革と保守的ガイダンス
東証は2023年3月に、プライム市場とスタンダード市場の全上場会社に対し、「資本コストや株価を意識した経営」の実践を要請しました。2024年1月からは開示企業一覧の公表を始め、2026年4月15日時点でも毎月更新を続けています。JPXの説明では、自社株買いや増配だけでなく、資本収益性を継続的に改善する抜本的な取り組みが求められています。つまり、利益計画の信頼性が以前より重要になっているということです。
ただし、この流れは常に強気ガイダンスを意味しません。企業側にとっては、未達リスクを避けながら説明責任も果たす必要があります。原材料高、為替、労務費、地政学要因が入り乱れる2026年3月期は、なおさらです。東証改革で「資本効率」が強調されても、会社予想そのものは慎重に置かれやすい。その結果、第3四半期までの進捗が大きく積み上がり、本決算直前に再度の上方修正余地が意識される構図が生まれます。
進捗率を見るときの計算式
第3四半期時点の再上方修正候補を探すうえで、もっとも分かりやすい指標は「第3四半期累計利益 ÷ 修正後通期予想」です。本稿では主として各社の経常利益ベースで見ています。たとえば、矢作建設工業は第3四半期累計の経常利益が119.57億円、2月9日に修正した通期計画が114億円で、進捗率は104.9%に達します。戸田建設は330.79億円に対して357億円で92.7%、TREホールディングスは185.36億円に対して205億円で90.4%です。いずれもかなり高い水準です。
もっとも、進捗率は単独では使えません。業種ごとの季節性があるからです。建設会社は第4四半期に売上や利益が偏ることが多く、80%台でも高水準とみなせる場合があります。逆に、為替差益や有価証券売却益が第3四半期までに集中している企業では、100%を超えていてもそのまま再上方修正とはなりません。数字の高さと同時に、「その利益が本業で積み上がったのか」を確認する必要があります。
市場全体で上方修正が優勢な地合い
個別企業だけでなく、地合いも追い風です。野村證券が2026年2月3日までに公表されたTOPIX構成企業462社の1-3Q決算を集計したところ、金融・公益・ソフトバンクグループを除くベースで、売上高は前年同期比4.3%増、経常利益は同9.9%増でした。会社予想の修正状況も上方修正が優勢と整理されています。全体の利益モメンタムが悪くない局面では、個別企業の「保守的すぎる通期予想」が修正されやすくなります。
この点は重要です。再上方修正は個社固有の材料だけで起きるわけではありません。市場全体の企業利益が上向き、投資家が「上振れを拾う相場」になっていることが前提です。2026年春は、その条件がかなりそろっていると見てよさそうです。
有力候補が多い業種と背景
建設・設備工事に集中する理由
今回、公開IRを追うと再上方修正候補が最も厚いのは建設と設備工事です。理由は明快で、利益改善の中身が比較的読みやすいからです。矢作建設工業は、2月9日の修正開示で、建設工事の採算性向上、変更協議による請負金の増額、不動産販売利益の積み増しを修正理由に挙げました。戸田建設も2月13日の修正で、国内建築事業の手持ち工事の採算性向上を主因としています。ダイダンは同じく2月6日、売上予想は据え置いたまま、工事の利益改善を理由に営業利益と経常利益を引き上げました。
ここから見えるのは、売上数量より採算改善が主役になっていることです。建設業界では、資材高や人件費上昇を受けて不採算案件の精査が進み、受注残の質が改善しやすい局面にあります。追加工事の獲得や価格転嫁が進んだ企業は、第3四半期までに利益率が大きく改善し、その勢いが第4四半期にも残りやすい。だからこそ、建設株の高進捗は単なる一過性ではなく、再修正の有力シグナルになりやすいのです。
資源循環株に残る特殊要因
建設以外で注目したいのが、資源循環やリサイクル関連です。TREホールディングスは2月13日に通期売上高を下方修正しながら、営業利益と経常利益は引き上げました。理由として会社は、2024年の能登半島地震に伴う復旧・復興支援事業が想定を上回って進展したことを挙げています。第3四半期決算短信でも、災害廃棄物処理支援の進捗、公費解体の進行、非鉄価格の上昇が利益を押し上げたと説明しています。
このタイプは見方が少し難しいです。利益の勢いは強い一方、災害対応や市況上昇は永続しません。とはいえ、売上を引き下げても利益を引き上げる修正を出した事実は重く、会社が第4四半期の採算にかなり自信を持っていることを示しています。進捗率だけでなく、修正の方向が「減収・増益」なのか「増収・増益」なのかを見ることも、候補を絞るうえで有効です。
個別銘柄に共通する上振れシグナル
主要5社の進捗率比較
以下は、各社の第3四半期累計利益と、同日に修正した通期利益計画から筆者計算した進捗率です。単位は億円です。
| 企業名 | 第3四半期累計経常利益 | 修正後通期経常利益 | 進捗率 | 主な修正理由 |
|---|---|---|---|---|
| 矢作建設工業 | 119.57 | 114.00 | 104.9% | 採算性向上、請負金増額、不動産販売利益 |
| 戸田建設 | 330.79 | 357.00 | 92.7% | 国内建築の手持ち工事の採算改善 |
| TREホールディングス | 185.36 | 205.00 | 90.4% | 復旧・復興支援事業、非鉄価格の上昇 |
| ダイダン | 275.53 | 323.00 | 85.3% | 工事利益の改善 |
| 奥村組 | 219.57 | 176.00 | 124.8% | 追加工事、原価低減、為替要因を含む |
この表だけを見ると、矢作建設工業と奥村組が突出しています。ただし、強さの質はかなり違います。矢作建設工業は、建設採算と不動産販売利益の積み増しが主因で、修正後計画を第3四半期時点で既に上回りました。第4四半期に従業員向け株式付与費用などの計上余地はありますが、公開資料の範囲ではなお保守的に見えます。純粋な再上方修正候補として最も分かりやすい銘柄の一つです。
戸田建設も、かなり実戦的な候補です。進捗率は92.7%で、売上は据え置きながら利益だけを引き上げています。これは数量の上振れではなく、案件採算の改善を織り込んだ修正であり、利益率の上振れが継続していることを示します。第4四半期に大型損失案件がなければ、なお上に触れる余地が残ります。
ダイダン・TRE・奥村組の差異
ダイダンの進捗率85.3%は、建設株の中では十分高水準です。しかも売上高予想と受注高予想を据え置きながら利益だけを引き上げているため、案件ミックスや原価改善の質が良いことがうかがえます。第4四半期の完成工事計上が例年大きい業種であることを踏まえると、この数字は軽視できません。派手さは矢作建設に及ばなくても、再上振れ余地という点ではなお有力圏です。
TREホールディングスは少し異なります。売上高は前回予想を下回る一方で、利益は上振れています。豪雨で搬入路が使えない北陸環境サービスや、鉄スクラップ価格の弱さといった逆風があるなかで、復旧・復興支援事業や非鉄市況が利益を補った構図です。第4四半期も同じ勢いが続くかは慎重に見る必要がありますが、少なくとも第3四半期時点の利益水準は強く、再修正の可能性を完全には捨てにくい銘柄です。
一方、奥村組は進捗率124.8%という強烈な数字ですが、最も慎重に読むべき事例です。同社は修正開示で、第3四半期に計上した為替差益と連結子会社の為替予約評価益を、今後の変動可能性が大きいとして通期業績予想の営業外収益に織り込んでいないと明記しています。つまり、見かけ上は通期経常利益を大きく超過していても、そのまま再上方修正に結びつくとは限りません。高進捗そのものより、会社が何を予想に入れ、何を外したかを見るべき典型例です。
注意点・展望
もっとも多い誤解は、「進捗率が90%を超えたら必ず再上方修正」と考えることです。実際には、進捗率の中身を見ないと判断を誤ります。奥村組のように為替要因を予想に織り込まないケースもあれば、TREホールディングスのように災害復旧や市況要因が利益を押し上げるケースもあります。第3四半期の利益が本業の採算改善によるものか、外生要因によるものかで、再現性は大きく変わります。
もう一つの注意点は、会計基準や利益指標の違いです。日本基準の建設会社は経常利益が見やすい一方、IFRS企業では営業利益や税引前利益を使うことが多く、単純比較は危険です。たとえばマキタは1月29日に通期売上収益と営業利益を上方修正しましたが、その理由として会社は需要環境の厳しさを認めつつ、為替前提を1ドル150円へ見直したことを挙げています。こうした輸出株は、建設株のような案件採算改善型とは違い、為替前提の修正が再上方修正余地を左右します。
今後の焦点は、5月の本決算でどこまで「保守的修正」が実績に追いつかれるかです。東証の要請は、短期的な増配や自社株買いだけでなく、継続的な資本収益性改善を求めています。そのため企業は、単に通期利益を引き上げるだけでなく、その利益が持続的かどうかも説明しなければなりません。再上方修正の候補を探すときも、投資家は数字の大きさと同じくらい、説明可能性と再現性を見にいく局面に入っています。
まとめ
2026年3月期の再上方修正候補を公開情報だけで整理すると、最も分かりやすいのは建設・設備工事セクターです。矢作建設工業、戸田建設、ダイダンは、いずれも工事採算の改善を背景に高い進捗率を示しました。TREホールディングスは災害復旧と資源価格の追い風があり、建設株とは別のロジックで有力候補に残ります。
一方で、奥村組やマキタが示すように、為替や一過性要因を含む企業は、見かけの高進捗をそのまま信じるべきではありません。再上方修正を見抜くカギは、進捗率、修正理由、そして会社が通期予想に織り込んでいない要素の三つを並べて読むことです。第3四半期決算の数字を一段深く読むだけで、単なる人気テーマではなく、上振れの質まで見えてきます。
参考資料:
- 資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応(プライム・スタンダード市場)|日本取引所グループ
- 高値圏の日本株、決算中盤戦の焦点と「年度末の売り圧力」への備え 野村證券ストラテジストが解説|NOMURA ウェルスタイル
- 2026年3月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)|矢作建設工業
- 通期連結業績予想の修正に関するお知らせ|矢作建設工業
- 2026年3月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)|ダイダン
- 2026年3月期業績予想及び配当予想の修正(増配)に関するお知らせ|ダイダン
- 2026年3月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)|戸田建設
- 業績予想の修正及び配当予想の修正(増配)に関するお知らせ|戸田建設
- 2026年3月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)|奥村組
- 業績予想及び配当予想の修正に関するお知らせ|奥村組
- 2026年3月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)|TREホールディングス
- 業績予想の修正に関するお知らせ|TREホールディングス
- 業績予想の修正に関するお知らせ|マキタ
- 2026年3月期 第3四半期決算短信〔IFRS〕(連結)|マキタ
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