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古野電気の防衛売上拡大報道を読む、ソナー技術の成長余地と課題

by 斎藤 裕也
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はじめに

古野電気の株価が4月8日に急伸しました。きっかけは、防衛装備品事業の売上高を2029年2月期に70億円へ引き上げる方針と伝わったことです。市場はこの数字を単なる思惑ではなく、すでに動き始めている防衛需要の延長線上で受け止めたとみられます。

実際、公開資料を確認すると、古野電気の防衛装備品事業はすでに拡大局面に入っています。2025年2月期の防衛装備品売上高は45億円、2026年2月期予想は47億円です。さらに統合報告書では、USVやUUV向けを視野に入れた水中音響技術の小型軽量化や低消費電力化に取り組んでいることも示されています。この記事では、4月8日の報道をどう評価すべきか、会社の実力と政策追い風、そして投資家が見落としやすい論点を整理します。

報道で意識された数字と足元の実態

70億円目標報道の位置づけ

4月8日付のみんかぶ記事によると、古野電気は2029年2月期に防衛装備品事業売上高を2026年2月期推定比1.5倍の70億円へ引き上げると報じられました。同記事では、漁船向けソナーで培った水中探知技術を生かし、UUVやUSV向け製品の開発を進める方向や、3月1日付で航空・防衛事業部に品質保証部を新設したことも紹介されています。

ここで重要なのは、この70億円という数値自体は4月8日時点では報道ベースだという点です。一方で、その前提となる事業拡大の流れは会社の公開IRでかなり確認できます。つまり、株価が反応した理由は新しい数字のインパクトだけではなく、その数字に一定の現実味があると市場が判断したことにあります。

IRで確認できる防衛事業の伸び

古野電気の2025年2月期通期決算説明資料では、防衛装備品売上高は45億円で前年同期比29.0%増とされています。2026年2月期予想でも47億円へ増加する見通しで、防衛予算の増額が背景にあると会社自身が説明しています。2023年2月期は23億円、2024年2月期は35億円、2025年2月期は45億円と、公開資料だけでも右肩上がりが読み取れます。

この点は投資判断でも重要です。防衛事業がまだ「将来の芽」だけなら株価反応は一時的になりやすいですが、古野電気の場合はすでに一定規模の売上が立っています。産業用事業全体の増収要因としても、防衛装備品と時刻同期製品の伸びが明示されており、会社全体の数字に影響を与える段階に入りつつあります。

成長を支える技術と政策環境

水中音響技術の横展開

統合報告書2025で古野電気は、防衛装備品事業について「防衛技術で人と社会を護り、国民の安全・安心に貢献します」と位置づけています。その中核が水中音響関連技術です。資料では、USV無人水上艇やUUV無人潜水艦への搭載を視野に、低消費電力化、小型軽量化、送受波器の高耐圧化に取り組み、取得できた技術から順次製品展開を進めると説明しています。

この構図は古野電気らしい強みでもあります。もともと同社は魚群探知機やソナーで水中を可視化する技術を磨いてきました。防衛分野では、水中で電波が使いにくいという制約があるため、超音波や音響処理のノウハウがそのまま価値を持ちやすいのです。新規参入企業よりも、既存の海洋センサー企業が優位に立ちやすい領域だといえます。

加えて、古野電気は統合報告書でGNSSや航空機向け装置の継続受注、新艦艇向けブリッジシステムの採用獲得も掲げています。つまり防衛事業は単一製品ではなく、水中音響、航法、通信、表示系を含む複合ポートフォリオとして広がる可能性があります。これが単発案件依存を和らげる余地になります。

防衛予算増額と国内基盤強化の追い風

防衛白書によると、2025年度防衛関係費は歳出ベースで8兆4,748億円と、前年度比9.7%増でした。重点分野には無人アセット防衛能力が含まれています。令和6年版防衛白書でも、水中領域でのUSV研究を2024年度から開始すると明記されており、無人化・省人化は一過性の話題ではなく中期計画の柱です。

さらに、防衛生産基盤強化法と基本方針では、防衛生産・技術基盤を国内に維持・強化する必要性が高まっているとし、サプライチェーン強靱化、製造工程効率化、サイバーセキュリティ強化、人材育成などへの支援枠組みを整えています。2024年度には計121件、約234億円の認定実績が示されました。古野電気のように既存の海洋・通信技術を持つ企業には、需要面だけでなく制度面でも参入しやすい環境が整ってきたと言えます。

注意点・展望

まず注意したいのは、70億円到達が自動的に高収益化を意味しないことです。防衛案件は品質、コスト、納期の要求が極めて厳しく、会社自身もQCD改善と組織力強化を課題に挙げています。3月1日付の品質保証部新設も、成長余地の裏返しとして品質管理負荷が増していることを示しています。

次に、防衛需要の拡大と実際の出荷タイミングにはズレがあります。政府予算が増えても、研究開発、認証、採用、量産までには時間がかかります。とくにUUVやUSV向け機器は、実証段階から本格装備化までの工程が長く、売上計上は案件ごとに振れやすいはずです。

一方で、追い風は明確です。国際エネルギー機関によると、ホルムズ海峡では2025年に日量2000万バレルの原油・石油製品が輸送されました。海洋安全保障の重要性が高まるほど、監視・探知・航法を担う海洋電子機器の価値も見直されます。古野電気は民生由来の海洋技術を防衛へ横展開できる位置におり、この強みは短期的な材料株物色だけでは片づけにくいものです。

今後の焦点は三つです。第一に、2026年2月期の47億円予想をどこまで上振れできるか。第二に、USVやUUV向け製品が試作段階から継続受注へ移れるか。第三に、防衛が舶用主力事業を補完する安定収益源に育つかです。報道で出た70億円はゴールというより、その進捗を測るための中間指標として見るのが妥当です。

まとめ

古野電気株の急伸は、4月8日の報道だけで突然生まれた期待ではありません。会社のIRを追うと、防衛装備品売上高は2023年2月期23億円から2025年2月期45億円へ伸び、2026年2月期も47億円を見込んでいます。そのうえで、水中音響技術をUSVやUUVへ展開し、防衛予算増額と国内基盤強化策の追い風を受ける構図が見えてきます。

したがって投資家が見るべき点は、見出しの「70億円」そのものより、古野電気が防衛案件で継続受注と品質管理を両立できるかです。海洋テック企業としての強みが防衛収益へどこまで転化するのか。そこが今後の株価持続力を左右する本質的な論点です。

参考資料:

斎藤 裕也

テーマ株・材料分析

テーマ株・材料株の発掘と分析を得意とする。企業の IR 情報と業界動向を結びつけ、投資家目線で銘柄の「次の一手」を読む。

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