AIインフラ関連株、出遅れグロース市場のツルハシ成長株選別術
生成AI相場のAIツルハシ選別軸
生成AI相場の物色は、チャットボットやアプリの表層から、GPU、データセンター、電力、冷却、業務実装を支える「AI・ツルハシ」へ重心を移しています。金を掘る人より、金を掘るための道具を売る企業が安定して稼ぎやすいという見方です。
ただし、AI関連という看板だけで買われる局面は長続きしません。重要なのは、需要の源泉が設備投資なのか、ソフトウェア利用なのか、顧客企業の業務変革なのかを分けることです。本稿では、IEA、経済産業省、NTTグループ、上場各社の開示を基に、グロース市場で狙うべきAIツルハシ株の条件を整理します。
AIインフラ相場を動かす需要の本質
電力と冷却がつくる参入障壁
AIインフラ相場の土台は、計算資源そのものの不足です。IEAは、世界のデータセンター電力消費を2024年時点で約415TWh、世界電力消費の約1.5%と推計しています。さらにベースケースでは、2030年に約945TWhへ倍増し、年率約15%で増える見通しを示しました。
この数字が重要なのは、AI需要が単なるソフトウェア契約ではなく、電力系統、建屋、冷却設備、通信回線、GPU調達を巻き込む資本集約型のテーマだからです。IEAは、アクセラレーテッドサーバーの電力消費がAI採用を主因に年率約30%で増えるとも見ています。サーバーは近代的なデータセンターの電力需要の約60%を占め、冷却は効率的なハイパースケール型で約7%、効率の低いエンタープライズ型では30%超になる場合があります。
日本でも、需要の立ち上がりは国内計算資源の整備と不可分です。NTTデータグループなどが発表したAIネイティブインフラ「AIOWN」では、国内データセンターのIT電力容量を現状の約300MWから2033年度に約1GWへ拡張する計画が示されました。液冷方式では空冷方式に比べ、冷却用消費電力を最大60%削減できるとされます。
ここから見える投資論点は明確です。AIアプリは流行の変化が速い一方、電力、冷却、GPU、運用基盤は一度需要が発生すると数年単位の投資計画になりやすい領域です。株式市場で「ツルハシ」と評価される企業は、この長い投資サイクルに入り込める企業です。
政策支援が生む国内計算資源の価値
AIインフラは、民間需要だけでなく政策テーマでもあります。経済産業省とNEDOは、生成AI開発力を国内に形成するため、GENIACで計算資源の提供支援を続けています。2024年2月開始の第1期で10件、第2期で20件、第3期で24件の基盤モデル開発テーマを支援した流れは、国内AI企業にとって追い風です。
この政策面の意味は、補助金の有無だけではありません。日本語、医療、製造、ロボティクス、防衛、公共分野など、海外の大規模AIだけでは最適化しにくい領域に国内AIの出番が広がる点にあります。計算資源を確保し、業務データを扱い、顧客の現場に実装できる企業は、AIモデルそのものの競争とは別の収益機会を持ちます。
そのため、グロース株を見る際は「自社でGPUを持っているか」だけに注目すると視野が狭くなります。データセンターに近い企業、クラウドを設計できる企業、顧客データを使ってAIを業務に埋め込む企業、AIの信頼性や運用を担う企業も、広い意味でツルハシです。
グロース株で見るAIツルハシの候補群
さくらインターネットを物差しにした設備投資の読み方
グロース市場の銘柄を選ぶ前に、AIインフラ投資の物差しとして、プライム市場のさくらインターネットを確認しておく価値があります。同社は2026年3月期の決算説明資料で、AIインフラ市場やクラウド市場の拡大を中長期の企業価値向上につながる局面と位置付け、AI・クラウド分野への大規模投資を進める方針を示しました。
同資料では、生成AI需要拡大に伴う計算資源と設備拡大、環境配慮の両立が課題とされています。石狩データセンターでは、直接液体冷却方式を採用したコンテナ型データセンターを設置し、再生可能エネルギー100%運用の生成AI向け設備が2025年6月に稼働開始したと説明されています。
さくらインターネットは市場区分こそグロースではありませんが、AIツルハシ相場の本質を示す代表例です。売上の伸びだけでなく、減価償却、電力契約、稼働率、冷却効率、資金調達力が株価評価に直結します。グロース銘柄を選ぶ場合も、この設備投資型の重さを理解しておく必要があります。
ABEJAとLaboro.AIの実装基盤
グロース市場の中心候補としてまず見るべきは、AIを業務に実装する企業です。ABEJAは2026年8月期第2四半期決算説明資料で、事業名称を「エンタープライズプラットフォーム事業」に変更しました。Physical AIへの取り組みによって、デジタル領域から現場・リアル空間へ事業領域が広がっているためです。
同社の上期累計は売上高23億5100万円、営業利益3億8400万円で、前年同期比では売上高が30.0%増、営業利益が32.6%増でした。上期進捗を踏まえ、通期予想も売上高45億円、営業利益6億円へ上方修正しています。2Q単独ではLLM案件が主軸となり、構成割合が約80%と説明されています。
ABEJAの魅力は、単発のAI開発ではなく、ABEJA Platform上で導入支援、運用、人とAIの協調を一体化しようとしている点です。AI版EMSという説明は、顧客ごとの製造ラインをAI基盤上に構築し、運用と改善まで担うイメージに近いです。テーマ株としての派手さだけでなく、継続運用にどれだけ移行できるかが評価の分かれ目です。
Laboro.AIも、AIの業務実装に近い候補です。2026年9月期第1四半期の連結業績は、売上高6億3000万円、営業利益1億1300万円、当期純利益8800万円でした。売上の大宗を占めるカスタムAIソリューション事業は、売上高6億1500万円で前年同期比20%増となり、過去最高水準の売上を達成したと説明されています。
同社の特徴は、生成AIや最適化領域を強みに、オーダーメイドで企業のコア業務にAIを入れる点です。AI需要が汎用ツールの導入から、企業固有のデータ、業務手順、判断基準に合わせた実装へ進むほど、Laboro.AIのようなカスタムAI企業には追い風が吹きます。一方で、人材稼働型の要素も残るため、粗利率と採用ペースのバランスが重要です。
pluszeroとFusicの業務特化型ツルハシ
pluszeroは、生成AIの「もっともらしいが間違う」問題に対し、独自ブランドのAEIを前面に出しています。2026年10月期第1四半期決算説明資料では、AEI関連サービスの立ち上がりが本格化し、AEI売上が前年対比178%成長、AEI売上比率が34%まで上がったと説明されました。
業績面では、1Q売上高が3億9100万円、営業利益が1億2600万円、当期純利益が8400万円でした。売上総利益率は60.5%で、営業利益率は32.4%です。AIオペレーターについては、導入準備中企業が7社、そのうちプライム上場企業が4社とされ、AI商談シミュレーター「Brain Plus for Sales」も販売を開始しています。
pluszeroを見る際の焦点は、AEIがプロジェクト型売上からサービス型売上へどこまで転換できるかです。コールセンター、営業、IT運用保守のように、信頼性と説明責任が求められる領域にAIを入れられれば、単なるAI受託ではなく、業務代替のプラットフォームとして評価される可能性があります。
Fusicは、クラウド、AI・機械学習、IoT、プロダクトを横断する企業です。2026年6月期第2四半期累計の売上高は10億9300万円で前年同期比16.9%増、営業利益は9700万円で21.0%減でした。減益の主因は採用強化や成長投資で、会社側は2026年6月期を非連続成長に向けた「投資の年」と位置付けています。
サービス別では、クロステクノロジーが14.6%増、MSPが19.4%増、プロダクトが19.8%増と、全サービスで前年同期を上回りました。MSPはAWSリセールを含むクラウド運用のストック性があり、AI導入の前段階となるクラウド設計、データ基盤、運用保守に接続します。FusicはAIそのものより、AIを使うためのクラウド実装力に注目する銘柄です。
HPCシステムズが示すGPU周辺需要
HPCシステムズは、グロース市場の中心候補とは別に、AIツルハシ需要の周辺銘柄として押さえたい企業です。同社サイトでは、HPC、AI、研究開発、科学技術計算に適した高性能計算機、GPU、ソフトウェアを提供すると説明されています。研究機関や企業の技術計算を支える色彩が強く、AIデータセンターの大規模投資とは異なる角度でGPU需要に接続します。
AI投資が広がると、巨大クラウドだけでなく、研究所、製造業、材料開発、創薬、ローカルLLM、シミュレーションにも計算需要が波及します。HPCシステムズのような企業は、顧客の研究開発現場に近い位置で、ハードウェア、ソフトウェア、導入支援を組み合わせる役割を担えます。
銘柄選別では、単にGPUを売っているかではなく、顧客が継続的に保守、更新、ソフトウェア利用を必要とするかが重要です。GPUサーバーは需給が緩むと価格競争に巻き込まれるため、技術支援や用途特化のノウハウが利益率を左右します。
銘柄選別で重視したい五つの条件
売上の再現性と案件の大型化
AI関連株は、材料発表で短期的に急騰しやすい一方、決算で伸びが確認できなければ評価が剥落しやすい特徴があります。最初に見るべきは、AI案件が単発の実証実験で終わっていないかです。ABEJAは上期で売上高と営業利益が高進捗となり、通期予想を上方修正しました。Laboro.AIはカスタムAIソリューションが過去最高水準の売上となりました。
このように、開示資料の中で「LLM案件」「生成AI」「AIオペレーター」「クラウド」「MSP」などが、実際の売上や利益にどれだけ結びついているかを見る必要があります。テーマ名だけでなく、売上高、粗利率、営業利益、受注状況、継続利用の有無をセットで確認することが基本です。
案件の大型化も重要です。AIを業務に入れるには、データ整理、業務設計、システム接続、権限管理、監査対応が必要です。ここまで深く入り込む案件は受注まで時間がかかりますが、一度採用されると横展開や追加開発につながりやすくなります。
粗利率と先行投資の質
AI銘柄は成長投資を理由に利益が伸びない時期があります。問題は、投資が将来の売上につながる採用、開発、プロダクト化、販売体制の強化なのか、単なるコスト増なのかです。Fusicは通期営業利益をゼロに近い計画としながら、生成AI、宇宙、プロダクトを重点投資領域にしています。短期利益だけを見ると魅力が薄く見えますが、投資の中身を追う価値があります。
一方、pluszeroのように高い営業利益率を維持しながらAEI関連売上を伸ばしている企業は、収益性の面で市場の評価を受けやすいです。ただし、サービス立ち上げ期は導入企業数や利用継続率が限られるため、利益率だけで将来性を判断するのは危険です。
粗利率は、AI企業の競争力を測る有効な指標です。人月型の受託に偏ると、売上拡大に人員増が必要になり、利益率が伸びにくくなります。逆に、プラットフォーム、ライセンス、運用、クラウド利用料のように再現性のある売上が増えれば、評価倍率は上がりやすくなります。
政策と顧客基盤への接続度
AIインフラは安全保障、公共、医療、製造、教育と接続するため、政策と顧客基盤が大きな意味を持ちます。GENIACのような支援策は、国内AI開発の計算資源不足を補うだけでなく、有望テーマを市場に可視化する効果があります。公的プロジェクトに関与する企業は、技術力の証明や大企業との協業につながる場合があります。
ただし、政策テーマは補助期間が終わった後の収益化が課題です。研究開発で採択された事実と、商用サービスとして利益を出せる事実は別です。投資家は、補助金や採択ニュースを入口にしつつ、その後の顧客獲得、売上計上、継続利用、利益率を追う必要があります。
顧客基盤では、大企業、金融、自治体、公共セクター、研究機関との接点が評価材料です。pluszeroはAIオペレーターでプライム上場企業を含む導入準備先を開示し、Fusicはパブリックセクター向けAWSリセールや自治体向けプロダクトを持ちます。顧客の信用度は、AIサービスの導入障壁を超える力になります。
推論シフト後のAI売上開示焦点
AIツルハシ株で避けたい誤解は、インフラ需要が伸びれば関連銘柄がすべて上がるという単純化です。GPUやデータセンター需要が強くても、企業ごとの調達力、価格転嫁、稼働率、営業力、開発人材、資金繰りで業績差は大きく開きます。特にグロース株は流動性が小さい銘柄もあり、材料が出た直後の高値掴みに注意が必要です。
もう一つの注意点は、AIの主戦場が学習から推論へ移ることです。大規模学習向けの一括需要だけでなく、企業ごとの常時利用、エッジ処理、業務アプリ連携、監査対応が増えます。これはデータセンターだけでなく、ABEJA、Laboro.AI、pluszero、Fusicのような実装企業にとっても機会です。
今後は、決算説明資料でAI関連売上の内訳がどこまで開示されるかが焦点になります。AIという言葉の頻度より、具体的な売上額、導入社数、継続率、粗利率、案件単価、受注残を確認する局面です。テーマ株の勢いに乗るより、四半期ごとの数字で仮説を更新する姿勢が求められます。
ABEJAなど業務実装株の選別条件
AI・ツルハシ銘柄の本質は、生成AIブームの裏側で増える計算資源、電力、冷却、クラウド、業務実装を支える企業を見つけることです。設備投資型の代表例としてさくらインターネットを見ながら、グロース市場ではABEJA、Laboro.AI、pluszero、Fusicのように、AIを顧客業務に埋め込む企業が候補になります。
狙い目は、AI関連売上が実際の決算に表れ、粗利率と継続性を維持し、政策や大企業顧客と接続できる企業です。材料名ではなく、どの工程で「道具」を売っているのかを分解することが、AIインフラ相場で次の成長株を選ぶ近道です。
参考資料:
- Energy demand from AI - IEA
- 生成AIの開発力強化に向けたGENIAC採択発表 - 経済産業省
- AIネイティブインフラ「AIOWN」の展開 - NTTデータグループ
- 決算短信・決算説明資料 - さくらインターネット
- 2026年3月期 決算説明資料 - さくらインターネット
- IR - 株式会社ABEJA
- 2026年8月期 第2四半期決算説明資料 - ABEJA
- IRライブラリ - Laboro.AI
- 2026年9月期 第1四半期決算説明資料 - Laboro.AI
- IRニュース - pluszero
- 2026年10月期 第1四半期決算説明資料 - pluszero
- 決算資料 - Fusic
- 2026年6月期 第2四半期決算補足説明資料 - Fusic
- HPCシステムズ株式会社
- IRニュース - HPCシステムズ
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