AI半導体株「ピースラリー」の全貌とIntelの逆襲
ピースラリーで急騰するAI半導体株
2026年4月、世界の半導体関連株が歴史的な上昇局面を迎えています。米国とイランの停戦合意を契機に発生した「ピースラリー(戦争終結相場)」がハイテクセクターへの資金回帰を促し、フィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)は4月10日に史上最高値となる8,926ポイントを記録しました。日経平均株価も4月16日に5万9,518円まで上昇し、過去最高値を更新しています。
この上昇相場の中心にいるのが、長年低迷を続けてきたIntelです。18Aプロセスの量産開始、イーロン・マスク氏が主導するTerafabプロジェクトへの参画、Googleとの大型提携と、矢継ぎ早に発表された施策が投資家の期待を一変させました。本記事では、ピースラリーの背景からIntelの復活戦略、そして日本の半導体関連株への波及効果まで、2026年春の半導体市場を多角的に解説します。
「ピースラリー」発生の背景と市場インパクト
中東停戦合意がもたらした潮目の変化
2026年4月8日、パキスタンの仲介により米国・イスラエルとイランの間で「2週間の期間限定停戦」が合意されました。それまでホルムズ海峡の封鎖リスクや機雷敷設の懸念から原油価格は北海ブレント基準で1バレル100ドルを突破し、VIX指数(恐怖指数)も一時35を超える高水準に達していました。
停戦合意が報じられた同日、日経平均株価の上げ幅は前日比2,800円超と歴代3位の大きさを記録しました。米国市場でもNASDAQ 100指数が週間で4.45%、S&P 500が3.56%上昇し、地政学リスクの後退を織り込む「ピースラリー」が一気に加速しました。
イランのアラグチ外相がホルムズ海峡の安全な通航を保証する姿勢を見せたことも、エネルギー供給リスクの軽減として市場に好感されました。原油価格は一時90ドル台前半まで落ち着きを取り戻し、コスト高を嫌気していた製造業やハイテクセクターに資金が還流する流れが生まれています。
SOX指数が史上最高値を更新した意味
4月10日、SOX指数は終値8,926.08ポイントを記録し、史上最高値を更新しました。この記録はAI半導体市場が投機的な初期段階を脱し、「産業化フェーズ」に移行したことを象徴するものとされています。
NVIDIAは4月だけで株価が21%上昇し、AMDも週間で13%の上昇を見せました。Broadcomも7%を超える上昇率です。しかし最も市場の注目を集めたのは、年初来76%上昇という驚異的なパフォーマンスを見せたIntelでした。
Intelの逆襲――3つの成長エンジン
18Aプロセスの量産開始とファウンドリ戦略
Intelは2026年初頭、18A(1.8ナノメートル級)プロセスが「量産体制に入った」と発表しました。18Aは、配線層の背面から電力を供給する「PowerVia」技術と、次世代トランジスタ構造「RibbonFET(ゲート・オール・アラウンド)」を組み合わせたもので、米国で製造される最先端の半導体プロセスです。
このプロセスを使った最初の製品として、Panther Lake(Core Ultra 300シリーズ)が発表されており、前世代比でCPU・GPU性能が50%向上したとIntelは主張しています。歩留まり率は60%を超える水準に達しており、2026年末までにコスト目標を達成し、2027年には業界標準の歩留まりに到達する見通しです。
ファウンドリ事業においても、大手モバイルインフラ企業とクラウドハイパースケーラーの2社を新規顧客として獲得しました。さらに、Appleが2027年からローエンドMシリーズプロセッサの製造を18Aプロセスで評価中との報道もあり、「アジアのファウンドリに代わる西側の選択肢」としてのIntelの存在感が高まっています。
Terafabプロジェクトへの参画
Intelの株価を最も大きく動かしたのが、イーロン・マスク氏が主導するTerafab(テラファブ)プロジェクトへの参画です。Terafabは2026年3月21日にテキサス州オースティンの旧シーホルム発電所で発表された、年間1テラワット(1兆ワット)のAIコンピューティング能力の生産を目指す巨大半導体工場構想です。
SpaceX、Tesla、xAIが共同で推進するこのプロジェクトに、Intelは4月7日に正式参画を表明しました。総投資額は200億〜250億ドル(約3兆〜3.8兆円)規模で、テキサス州オースティンのギガテキサス北キャンパスにパイロット施設が建設される計画です。2ナノメートルプロセス技術を採用し、月間10万枚のウエハ生産を初期目標としています。
TeslaのAI5チップが最初の製品として予定されており、2026年中に少量生産を開始し、2027年に量産へ移行する計画です。長期的には月間100万枚のウエハ生産、年間1,000億〜2,000億個のカスタムAI・メモリチップの製造を目指すとマスク氏は語っています。
Googleとの複数世代にわたるパートナーシップ
4月9日には、IntelとGoogleがAI・クラウドインフラストラクチャの次世代開発に向けた複数年にわたる協業を発表しました。この提携は、複数世代のIntel XeonプロセッサをGoogle のグローバルデータセンターに展開するものです。
注目すべきは、2022年から共同開発してきたインフラストラクチャ・プロセッシング・ユニット(IPU)の深化です。IPUはネットワーキング、ストレージ、セキュリティ機能をホストCPUからオフロードするプログラマブル・アクセラレータで、AIシステムの効率化に不可欠な技術とされています。
この提携は、AI時代においてもCPUとIPUが「GPU補助の脇役」ではなく、ヘテロジニアス(異種混合)AIシステムの重要な構成要素であるという戦略的メッセージを市場に発信するものとなりました。
TSMCの好決算が裏付けるAI半導体需要の持続
第1四半期の記録的業績
世界最大の半導体受託製造企業TSMCは、2026年第1四半期に純利益5,724億台湾ドルを計上し、前年同期比58%増を達成しました。4四半期連続の過去最高益更新であり、売上高も1兆1,340億台湾ドル(約350億ドル)と市場予想を上回っています。
粗利益率は66.2%と半導体業界でも突出した水準に達しています。先端チップがウエハ売上の約75%を占めており、AI向け需要が製造能力の限界を超える状態が続いていることを如実に示しています。
2026年の成長見通し
TSMCは2026年通期で前年比30%超の売上成長を見込んでおり、第2四半期の売上予想を390億〜402億ドルと提示しました。台湾・台南への新たな先端チップ製造工場の建設も決定しており、AI需要の持続性に対する自信を示しています。
NVIDIAがTSMCの最大顧客となり、AI学習・推論チップの複数年にわたる受注残が、TSMCに前例のない収益の可視性を提供している構図です。
日本の半導体関連株への波及効果
日経平均の最高値更新と半導体銘柄の貢献
4月16日、日経平均株価は前日比1,384円(2.38%)高の5万9,518円で取引を終え、2月27日の5万8,850円を上回る過去最高値を更新しました。この上昇を牽引したのが、東京エレクトロン、アドバンテスト、ディスコ、キオクシアホールディングス、レーザーテック、スクリーンホールディングスといった半導体関連銘柄です。
4月8日の停戦合意直後には、これらの主力銘柄が一斉に買い気配でスタートし、ショートカバー(売り方の買い戻し)も加わって大幅上昇を記録しました。米・イラン情勢の改善期待を背景に投資家のリスク許容度が高まり、AI・半導体関連に資金が集中する構図が鮮明になっています。
半導体製造装置セクターの中長期見通し
日本の半導体製造装置メーカーには、より構造的な追い風が吹いています。2025年後半からの2ナノメートル量産開始、2026年後半からの1.6ナノメートル量産開始に伴う設備投資の拡大が見込まれています。さらにHBM4(High Bandwidth Memory第4世代)の量産が2026年に始まることで、メモリ関連の設備需要も加速する見通しです。
東京エレクトロンやアドバンテストは、これらの先端プロセスに不可欠な製造装置やテスト装置で高い世界シェアを持っており、半導体スーパーサイクルの恩恵を最も受けやすい銘柄群とされています。
2週間停戦とIntel期待先行リスク
停戦合意の不確実性
市場を支える「ピースラリー」の土台は、あくまで2週間の期間限定停戦です。その後の米・イラン協議では決裂が報じられる局面もあり、株式市場は乱高下を繰り返しています。停戦の恒久化に向けた道筋が見えない限り、地政学リスクの再燃はいつでも起こり得る状況です。
原油価格の動向も引き続き注視が必要です。ホルムズ海峡の安定的な通航が確保されなければ、エネルギーコストの再上昇が製造業全体のコスト構造を圧迫し、ハイテクセクターの利益見通しにも影響を及ぼす可能性があります。
Intelの課題とアナリストの慎重姿勢
Intelの株価は急騰していますが、アナリストのコンセンサスとは乖離が生じています。Intelをカバーする30人のアナリストの評価は「ホールド」が中心で、目標株価の中央値は46.97ドルです。4月中旬の株価61.72ドルは、この目標値を約31%上回っている状態です。
18Aプロセスの歩留まりが業界標準に達するのは2027年の見通しであり、Terafabプロジェクトの量産も同年以降です。市場の期待が先行しすぎるリスクには注意が必要です。また、AMDがMetaとの6ギガワット規模の複数年契約を発表するなど、競合他社も着実にAIインフラ分野での地位を固めており、Intelの競争環境は依然として厳しいものがあります。
SOX最高値とIntel逆襲の見極め
中東停戦合意をきっかけに発生した「ピースラリー」は、SOX指数の史上最高値更新、日経平均の過去最高値更新という形で、半導体セクターに歴史的な上昇をもたらしました。その中心でIntelが18Aプロセス量産、Terafabプロジェクト、Google提携という三本柱で「逆襲の狼煙」を上げたことは、AI半導体市場の勢力図に大きな変化が訪れつつあることを示唆しています。
ただし、停戦の持続性やIntelの実行力にはまだ不確実性が残ります。TSMCの好決算が示すようにAI需要そのものは堅調ですが、地政学リスクの再燃や割高感への警戒は怠れません。投資家にとっては、短期的な熱狂に流されず、各企業の実行力と業績の裏付けを冷静に見極める姿勢が求められる局面です。
参考資料:
- TSMC first-quarter profit rises 58%, beats estimates as AI demand fuels record run
- Intel signs on to Elon Musk’s Terafab chips project
- Intel, Google Deepen Collaboration to Advance AI Infrastructure
- Intel INTC Stock Soars to Five-Year High Heading to $70 as Terafab Project and Foundry Push Comeback
- 日経平均終値5万9518円、最高値更新 「米イラン和平」に前のめり
- 米国・イラン停戦合意を受けた市場見通しと投資戦略
- Terafab - Wikipedia
- Is Intel Stock a Buy Ahead of Earnings?
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