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海外勢2兆円売り越しが示す中東リスク下の日本株需給の変調全体像

by 柴田 慎一
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はじめに

2026年3月第4週の日本株は、日経平均が週末時点で前週比ほぼ横ばいにとどまった一方、投資部門別の数字では海外投資家の売り越しが急拡大しました。各社の集計では、現物と先物を合わせた海外勢の売り越しは約2.1兆円に達し、4週連続の売り越しとなっています。指数だけを見ると「持ちこたえた週」に見えますが、需給の中身はかなり重かったということです。

重要なのは、今回の売り越しが単なる利益確定ではなく、中東情勢に伴う原油高、日本の輸入コスト上昇、円安進行、そして企業収益見通しへの警戒が重なった結果として表れている点です。この記事では、3月23日から27日にかけての値動きと投資主体別の動向を重ね、海外勢が何を嫌気し、誰が売りを受け止めたのかを整理します。

売り越し額の中身

現物1.5兆円と先物売りの重なり

東京証券取引所の投資部門別売買状況と大阪取引所の投資部門別取引状況によれば、3月第4週は株式と先物の双方で海外投資家の売りが優勢でした。みんかぶ配信の記事では、海外投資家の現物売り越し額は1兆5090億円、日経225先物とTOPIX先物などを合算した先物売り越しは6182億円、現先合算では2兆1273億円とされています。別の市場解説でも、東証プライム株式と主要先物の合算で2兆1323億円の売り越しとされており、定義差はあるものの「約2.1兆円」という大勢は一致しています。

ここで見落としにくいのは、売りが現物だけに偏っていないことです。海外勢が現物を売り、同時に先物でも下方向のポジションを積み増したなら、それは短期的なリスク回避姿勢がかなり強かったことを意味します。指数が崩れ切らなかったのは、海外勢の見方が間違っていたからではなく、国内の別の主体が売りを吸収したためとみる方が自然です。

実際、同じ集計では個人投資家は小幅の売り越しに転じた一方、証券自己や投資信託には買い越しが見られました。需給構図としては、海外勢が下押し圧力をかけ、国内の短期資金や機械的な買い主体がそれを受け止めた週だったと言えます。

乱高下しても週末は横ばいという相場の正体

日経平均の日次サマリーを見ると、この週の値動きはかなり荒かったことが分かります。3月23日は前営業日比1857円安の5万1515円49銭まで急落し、翌24日は736円高、25日は1497円高と大きく切り返しました。その後は小幅な続落となり、27日の週末終値は5万3373円07銭でした。3月13日終値の5万3819円61銭と比べると、週単位ではほぼ横ばいです。

ただし、この「ほぼ横ばい」は安心材料ではありません。週初にリスク回避で大きく売られ、その後に自律反発と買い戻しが入った結果として帳尻が合っただけだからです。特に23日から25日にかけては、下げと戻りの両方が大きく、売り方も買い方も短期資金主導で動いたことがうかがえます。海外勢の現先合算売り越しが膨らんだのは、こうした乱高下局面で戻り売りを徹底したためと考えると理解しやすくなります。

指数が下がらなければ需給は悪くない、という見方はこの週には当てはまりません。むしろ、週初の急落を完全には打ち消せないまま、海外勢の売りが積み上がったことにこそ注意が必要です。見かけの終値より、相場の中で誰が何をしていたかを追う方が実態に近づけます。

海外勢が売った背景

原油高と日本の中東依存

もっとも大きい背景は、中東情勢の悪化が日本株の利益見通しに直結しやすいことです。資源エネルギー庁の2025年版エネルギー動向によれば、日本の2023年度の原油輸入に占める中東依存度は94.7%でした。日本は原油の調達先が中東に極めて偏っており、ホルムズ海峡を含む地域の緊張が高まると、エネルギー価格上昇の影響をほぼ正面から受けます。

日本株にとって厄介なのは、原油高が資源株の追い風になる場面はあっても、相場全体では輸入コスト上昇、物流費上昇、消費マインド悪化を通じて企業収益を圧迫しやすい点です。海外投資家が指数全体を売る局面では、この「日本全体のコストショック」をまず織り込みに行く傾向があります。

3月第4週に海外勢が戻り局面でも売りを重ねたのは、停戦期待で一時的に戻っても、エネルギー供給不安そのものは解消していないと見ていたためでしょう。日経平均が反発した25日にも、海外勢は現物を大きく買い戻したわけではありません。相場の上昇を信じるより、戻りを利用してエクスポージャーを落とす判断が優勢だったと読む方が整合的です。

円安と短観が映した収益不安

もうひとつの材料は、円安と企業マインドの先行きです。日銀短観の3月調査では、大企業製造業の業況判断DIはプラス17と前回の16からわずかに改善しましたが、6月調査の見通しは14へ低下しています。非製造業も現状は36と高水準を維持した一方、先行きは29への悪化見通しでした。足元はまだ崩れていないものの、先行きには企業自身が慎重になっている構図です。

同時にロイターは、円相場が1ドル160円近辺まで下落し、日本政府が介入警戒を強めていると報じました。円安は輸出株の支えにもなりますが、今回のように原油高と同時進行すると、日本では輸入インフレの悪影響が前面に出やすくなります。海外投資家から見れば、円安メリットよりもコスト増と政策不確実性の方が目立ちやすい局面です。

このため、3月第4週の海外勢売りは「日本企業の体力を否定した」というより、「足元の見通しに対してリスクプレミアムを上乗せした」と捉えるのが適切です。短観の先行き悪化、原油高、円安、利上げや為替介入の思惑が同時に走れば、海外マネーが一度ポジションを軽くするのは自然な反応です。

注意点・展望

このテーマで誤解されやすいのは、海外勢の売り越し額が大きいと、すぐに日本株全体の長期弱気を意味すると考えてしまうことです。実際には、投資部門別データは週次のフローであり、短期的なヘッジやイベント回避の影響を強く受けます。特に先物売りが大きい週は、中長期の見通し悪化と短期のリスク管理が混ざっている場合があります。

そのうえで今後の焦点は明確です。第1に、中東情勢がホルムズ海峡の物流不安をさらに強めるのか。第2に、原油高と円安が企業の価格転嫁余地を超えて収益を圧迫するのか。第3に、日銀が物価上振れリスクにどう反応するのかです。これらが悪い方向に重なるなら、海外勢の売り越しは一時的な週次現象で終わらず、4月以降の日本株バリュエーションの見直しにつながる可能性があります。

逆に言えば、中東リスクの沈静化や原油価格の落ち着きが見えれば、海外勢の売り圧力は思ったより早く巻き戻る余地もあります。3月第4週の数字は、日本株の基調が直ちに壊れたことより、相場が地政学と資源価格に強く支配される局面へ入ったことを示したと受け止めるべきでしょう。

まとめ

3月第4週の海外投資家による現先合算約2.1兆円の売り越しは、単なる大口売りではなく、中東情勢を起点とする原油高、日本の高い中東依存、円安、企業収益への先行き警戒が一つに重なった結果でした。日経平均が週末にほぼ横ばいだったため見えにくいものの、需給の中身はかなり悪化していました。

今後の日本株を見るうえでは、指数の終値だけでなく、海外勢が売り続けるのか、国内資金がどこまで受け止めるのかを合わせて確認する必要があります。中東ニュース、原油、ドル円、日銀短観の先行き判断をセットで追うことが、4月相場の解像度を大きく高めるはずです。

参考資料:

柴田 慎一

海外市場・米国株

米国株・欧州株を中心に海外市場の動向を分析。グローバルな資金フローと各国の金融政策が日本市場に与える影響を追う。

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