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ホンダ今期最終黒字予想、EV損失後の再建策と二輪収益を徹底分析

by 前田 千尋
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EV損失で赤字転落したホンダ決算の焦点

ホンダ(7267)が発表した2026年3月期決算は、見出しだけなら「最終赤字転落」という厳しい内容です。ただし、株式市場が注目したのは、赤字そのものよりも、EV関連損失を一括して処理した後に2027年3月期の黒字浮上を見込んだ点です。

連結売上収益は21兆7966億円と小幅増収でしたが、営業損益は4143億円の赤字、親会社の所有者に帰属する当期損益は4239億円の赤字となりました。前期は8358億円の黒字だったため、変化幅は非常に大きいです。

本稿では、赤字の中身をEV関連損失、四輪事業の採算、二輪・金融事業の下支えに分解します。そのうえで、今期最終黒字予想がどこまで実力を伴うのか、投資家が追うべき指標を整理します。

最終赤字を生んだEV関連損失の会計構造

1兆5778億円に膨らんだEV関連損失

今回の決算で最も重要なのは、赤字の大部分がEV戦略の見直しに伴う損失である点です。ホンダの決算説明資料によると、2026年3月期のEV関連損失は合計1兆5778億円でした。このうち営業利益への影響が1兆4536億円、持分法投資損益への影響が1241億円です。

内訳を見ると、北米で生産を予定していたEVモデルの開発・販売計画の中止、関連する有形・無形資産の減損、開発中止に伴う追加費用、中国での競争激化を踏まえた持分法投資の減損が主な要因です。3月時点でホンダは、Honda 0 SUV、Honda 0 Saloon、Acura RSXの開発・市場投入を取りやめる方針を示していました。

ここで注意したいのは、赤字が通常の販売不振だけで発生したわけではないことです。将来の回収可能性を見直し、過去に積み上げた投資を損失として処理したため、会計上の打撃が一気に表面化しました。言い換えれば、今期以降の損益を評価する際には、この一過性要素をどこまで切り分けるかが重要です。

調整後利益が示す基礎収益力

ホンダはEV関連損失を除く調整後営業利益を1兆393億円と示しています。営業損益は赤字でも、二輪、金融サービス、既存の四輪事業を含む基礎的な収益力はなお1兆円規模を保っている、という会社側の説明です。

もちろん、調整後利益だけで安心はできません。EV損失を除いた四輪事業の調整後営業利益は黒字を維持したものの、四輪の連結売上台数は271万1000台で前期から12万9000台減りました。四輪事業の営業損益は1兆4111億円の赤字で、EV関連損失を除いても利益率は低い水準にとどまります。

一方で、全社のキャッシュ創出力は崩れていません。金融サービス事業を除く事業会社ベースのフリーキャッシュフローは1兆580億円、R&D調整後営業キャッシュフローは2兆6579億円でした。損益計算書では赤字でも、営業キャッシュフローと手元流動性が配当維持の根拠になっています。

二輪・金融が支える損失吸収力

セグメント別では、ホンダの収益構造の強弱がはっきり表れました。二輪事業は売上収益4兆188億円、営業利益7319億円、営業利益率18.2%です。アジアや南米で販売台数を伸ばし、グループ販売台数は2210万1000台まで拡大しました。

金融サービス事業も営業利益2755億円を確保し、四輪の落ち込みを緩和しました。二輪と金融だけで1兆円規模の利益を生む構造は、今回のような巨額減損時にも財務の安定性を保つうえで大きな意味を持ちます。

ただし、二輪の好調が四輪の構造問題を完全に覆い隠すわけではありません。四輪は売上規模が14兆円を超える中核事業です。EV投資の減損で過去の負担を処理しても、北米・中国・アジアで商品力とコスト競争力を回復できなければ、黒字化は一時的な反動にとどまります。

黒字浮上予想を支える二輪とハイブリッド回帰

今期営業利益5000億円計画の前提

2027年3月期の会社予想は、売上収益23兆1500億円、営業利益5000億円、親会社の所有者に帰属する当期利益2600億円です。最終赤字4239億円から一転して黒字に戻る計画で、想定為替レートは1ドル145円です。

営業利益の増減要因では、前期に計上したEV関連損失1兆4536億円の反動が大きく効きます。一方で、今期もEV関連損失として5000億円を織り込んでいます。つまり、黒字浮上は「EV損失が消える」前提ではなく、追加損失を見込みながらも、販売影響や固定費削減、二輪の伸長で吸収する設計です。

会社側は、EV関連損失を除く調整後営業利益を1兆円と見ています。これは前期の調整後営業利益1兆393億円と大きく変わりません。投資家にとっては、5000億円の営業利益そのものより、調整後で1兆円水準を維持できるかが実力判断の軸になります。

配当予想は年70円で前期実績と同額です。最終赤字決算でも減配しない姿勢は、DOE3%を目安とする安定配当方針と、二輪・金融によるキャッシュ創出力への自信を反映しています。市場が発表直後に株価を買いで反応した背景にも、黒字予想と配当維持の組み合わせがあります。

次世代ハイブリッド15モデルの戦略

同日に公表されたビジネスアップデートでは、四輪事業の再構築策が具体化されました。ホンダは今後3年間を四輪事業の体質改善に集中する期間とし、2029年3月期に営業利益1兆4000億円以上を目指すとしています。

中心に置かれたのは、EVからハイブリッド車への経営資源の再配分です。2027年から次世代ハイブリッドモデルの投入を始め、2029年度までにグローバルで15モデルを展開する計画です。北米ではDセグメント以上の大型ハイブリッドモデルも投入する方針です。

次世代ハイブリッドシステムでは、2023年モデル比で30%以上のコスト低減を目指します。次世代プラットフォームと新開発の電動AWDユニットを組み合わせ、燃費も10%以上改善させる計画です。価格競争が激しいEV一本足ではなく、需要が現実に強いHEVで収益を取りに行く戦略へ軸足を移した形です。

生産面でも、米国オハイオ工場の余剰能力をICE・ハイブリッド車に振り向け、北米全工場でハイブリッド車を生産できる体制を整えます。LGエナジーソリューションとの合弁L-H Batteryでは、EV用バッテリーラインの一部をハイブリッド車向けに転用する方針です。

インドと二輪成長を取り込む再配分

再建計画は四輪だけではありません。ホンダはインドを二輪・四輪の重点地域と位置づけ、二輪事業では同国の年産能力を現在の625万台から2028年に約800万台へ拡大する計画です。世界の二輪市場は2030年に6000万台規模へ広がると会社側は見ています。

二輪事業は単なる利益源にとどまりません。インドでは、二輪保有者が四輪へステップアップする需要を取り込む構想も示されています。デジタルプラットフォーム会社やキャプティブファイナンスの活用により、販売接点と金融機能を組み合わせる狙いです。

資本配分では、2029年3月期までの3年間でEV投資を0.8兆円規模に抑え、ソフトウェアに1兆円、ICE・ハイブリッド車に4.4兆円を投じます。合計6.2兆円の資源投入を、EV偏重から収益化しやすい領域へ組み替える点が今回の再建策の核心です。

投資家が見落とせない為替・関税・実行リスク

黒字浮上シナリオには、いくつかの確認すべきリスクがあります。第一に為替です。2027年3月期の想定為替は1ドル145円で、前期平均の151円より円高です。円高は外貨建て収益の円換算を押し下げるため、会社側も為替影響を営業利益の減益要因として織り込んでいます。

第二に関税と材料価格です。米国の政策変更は、ICE・ハイブリッド車の採算にも影響します。ホンダは現地調達率の引き上げや北米生産体制の見直しで吸収を図りますが、関税負担や中東情勢に伴う材料価格の高騰は、今期の利益計画に対する下振れ要因です。

第三に、四輪再建の実行スピードです。開発費、開発期間、開発工数を2025年比で半減させる「トリプルハーフ」は効果が大きい一方、開発プロセス改革としては難度も高いです。標準部品の活用や外部リソースの取り込みが遅れれば、コスト低減効果は計画より後ずれします。

カナダの包括的EVバリューチェーン構築プロジェクトを無期限凍結したことも、短期的には投資規律の強化として評価できます。ただし、将来EV需要が再加速した場合に、どの時点で再投資へ戻るのかは不透明です。EVを完全に捨てるのではなく、需要を見ながら準備を続けるという姿勢は、柔軟性と迷いの両面を持ちます。

ホンダ株を読むための確認指標

今回の決算は、単純な赤字決算ではなく、EV戦略の失敗を処理し、ハイブリッドと二輪で再建に踏み出す転換点です。投資家が最初に確認すべきなのは、2027年3月期の営業利益5000億円ではなく、EV関連損失を除いた調整後営業利益1兆円の達成度です。

次に見るべきは、四輪事業の利益率です。二輪・金融が強くても、四輪の赤字体質が残れば全社評価の上限は重くなります。北米でのハイブリッド販売、インドでの四輪拡大、中国でのコスト競争力回復が、四半期ごとの注目点になります。

最後に、配当70円維持の持続性です。DOE3%方針とR&D調整後キャッシュフローが配当を支えますが、追加のEV損失や為替悪化が重なれば余裕は縮みます。ホンダ株は、赤字からの反動だけでなく、再建策が実際の利益率に変わるかを見極める局面に入っています。

参考資料:

前田 千尋

企業決算・財務分析

企業決算を読み解き、業績の変化点をいち早く察知する。財務諸表の行間から企業の「次の一手」を導き出す決算分析の専門家。

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