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JAL今期最終減益見通し燃油高と円安が収益計画を揺らす本格局面

by 野村 康平
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はじめに

日本航空の2026年3月期決算は、一見すると非常に強い内容です。売上収益は再上場後の最高となり、EBITも過去最高を更新しました。それでも会社が示した2027年3月期の純利益見通しは1100億円で、前期比20.1%の減益です。増収なのに減益というねじれは、足元の航空業界が需要不足ではなく、燃油高と為替、そして国内線の採算構造に直面していることを示しています。

特に今回は、単なる企業決算の読み解きにとどまりません。中東情勢によるジェット燃料高騰、円建てコストの重さ、訪日需要の強さ、貨物ネットワーク拡張、さらに国内線の構造改革までが一つの決算に集約されています。この記事では、JALの決算資料と経営ビジョン、観光・航空統計、IATAの需給データを基に、今期減益予想の中身を整理します。

過去最高益の着地と今期減益予想の中身

最高益を支えた国際線と非航空収益

JALグループの2026年3月期売上収益は2兆125億円で前期比9.1%増、EBITは2180億円で同26.4%増、純利益は1376億円で同28.6%増でした。会社側はこれを再上場後の最高収益、過去最高益と位置づけています。EBITマージンは10.8%、ROICは9.5%、EPSは306円となり、2021年度から2025年度の中期経営計画で掲げた財務目標もすべて達成しました。

増益の中心は、フルサービスキャリア事業の改善です。セグメント実績では売上収益が1兆5874億円で前期比9.3%増、EBITは1450億円で同30.5%増となりました。国際旅客は旺盛なインバウンド需要と日本発ビジネス需要の回復を取り込み、旅客数が5.6%増、旅客収入が9.1%増でした。国内旅客もレベニューマネジメントが奏功し、旅客数5.8%増、旅客収入6.6%増と堅調です。貨物郵便収入も16.3%増えており、旅客と貨物の両輪が業績を押し上げました。

見逃せないのは、非航空収益の厚みです。マイル・金融・コマース事業は売上収益2222億円、EBIT455億円と着実に拡大しました。決算説明資料では、同事業はEBITマージン約20%の高収益モデルと位置づけられています。航空事業は外部ショックに振れやすい一方、マイルや金融は景気循環に対する耐性が比較的高く、JALが事業ポートフォリオ改革を急ぐ理由もここにあります。市場が今回の決算で見ているのは、最高益そのものより、利益の源泉がどれだけ変動費ショックに耐えられるかという点です。

増収でも利益が減る2027年3月期の構図

もっとも、会社計画はすでに次の局面を見ています。2027年3月期の売上収益予想は2兆950億円で4.1%増ですが、EBITは1800億円で17.4%減、純利益は1100億円で20.1%減です。フルサービスキャリア事業のEBITは1450億円から1040億円へ28.3%減る一方、LCCは130億円、マイル・金融・コマースは510億円へ増える見通しです。つまり、JALは航空本体の採算悪化を、LCCと非航空の増益で一部埋める構図を描いています。

費用面では、営業費用が1兆9420億円と前期比5.9%増える計画です。中でも燃油費は3954億円から4170億円へ215億円増えます。説明資料の利益増減表では、今期のEBIT押し下げ要因として、燃油費のほか、整備費232億円増、機材費93億円増、人件費155億円増、その他収支125億円減が並びます。収入面では国際旅客199億円増、国内旅客99億円増、貨物郵便192億円増、非航空関連64億円増が見込まれているものの、費用増を吸収しきれません。

ここで重要なのは、JALが需要鈍化を主因に減益を見込んでいるわけではないことです。2027年3月期の旅客計画を見ると、国内旅客収入は6190億円で1.5%増、国際旅客収入は7800億円で2.4%増です。一方で、有償旅客数は国内が2.0%減、国際が3.2%減、座席利用率も国内外ともに1.5ポイント低下を想定しています。代わりに単価は国内で3.6%上昇、国際で5.7%上昇を見込んでいます。つまり、今期は「多く運ぶ」より「高く売る」計画です。数量の拡大より単価改善で利益を守る局面に入ったことが、減益予想の核心です。

燃油高と円建てコストが迫る収益構造の転換

燃油費と為替感応度の大きさ

JALの2026年3月期実績における平均燃料前提は、シンガポール・ケロシンが1バレル85.4ドル、ドバイ原油が67.1ドル、為替が1ドル150.0円でした。ところが2027年3月期計画の前提は、2026年3月2日時点でシンガポール・ケロシン90ドル、為替150円ですら慎重に見える水準でした。4月30日の決算説明資料では、シンガポール・ケロシンが200ドル、為替が160円になった場合、燃油費は計画から月当たり約280億円増えると示しています。

ただし、ここでそのまま月280億円が利益を吹き飛ばすわけではありません。JALは同じ資料で、激変緩和措置や燃油サーチャージ、需要増によって利益マイナス影響を実質的に吸収できると説明しています。ロイターによると、4月から6月期は中東情勢に伴う燃油市況・為替変動でEBITに月平均110億円の影響を見込み、7月以降は国際線燃油サーチャージの引き上げなどで月20億円程度まで縮小する想定です。燃油高は重いものの、JALは価格転嫁と政府支援を組み合わせてショックを平準化しようとしているわけです。

国際線の燃油特別付加運賃もすでに大きく見直されています。JALは2026年5月から6月発券分で、適用開始を翌々月から翌月へ前倒しし、ゾーンPからRまでを新設しました。2026年2月から3月のシンガポールケロシン平均は146.99ドル、為替平均は156.99円で、円貨換算額は2万3076円でした。これは従来条件表の上限を超える水準であり、燃油高が単なるコスト要因ではなく、運賃制度そのものの変更を迫っていることが分かります。

国内線改革と価格転嫁の限界

国際線ではサーチャージで一定の転嫁ができますが、国内線は事情が異なります。JALの経営ビジョン2035では、国内路線事業について2028年度から2030年度にEBIT600億円以上、利益率10%以上を確実に達成し維持する目標を掲げました。その柱として、2027年4月からの燃油サーチャージ導入計画、インバウンド需要の取り込み、新機材・新サービス、DXと生産性向上、ANAとの空港協業などを挙げています。国内線は社会インフラである半面、燃料高や円安、物価高をそのまま運賃に転嫁しにくく、構造改革なしでは採算が不安定になりやすい事業です。

実際、国土交通省の2025年分航空輸送統計速報では、国内定期航空の旅客数は1億1147万人と前年比4.2%増でした。市場全体の需要は戻っています。それでもJAL自身の2027年3月期計画では、国内有償旅客数を3745万人と前期比2.0%減で見込み、座席利用率も82.5%へ低下する前提です。需要があるのに数量を慎重に置くのは、採算重視へ舵を切っているためです。4月の運賃値上げ後も需要は底堅く、第1四半期の旅客数は計画を上回る見通しとしていますが、それでも会社が国内線の構造改革を前面に出すのは、価格転嫁余地に限界があるからです。

この視点で見ると、今期減益予想は短期の燃油ショックだけではありません。国内線の採算構造を見直し、変動費の高い航空本体から、マイル・金融・コマースやインフラ受託、貨物といった収益源へ重心を移す移行期のコストも織り込まれています。JALは4月30日に2000億円の社債型種類株式発行を決めましたが、これは普通株希薄化を避けつつ、成長投資資金を確保するためです。利益の水準より、どこへ資本を配るかが次の評価軸になっています。

需要と貨物に残る追い風と相殺しきれない外部ショック

訪日需要と国際線単価の支え

需要面には依然として追い風があります。JNTOによると、2026年3月の訪日外客数は361万8900人で、3月として過去最高でした。韓国、台湾、マレーシアなど13市場で3月としての過去最高を記録しており、JALが強みを持つアジア線や北米・欧州接続の需要基盤はなお厚いといえます。IATAの2026年3月データでも、世界全体の国際需要は中東キャリア急減の影響で0.6%減でしたが、アジア太平洋キャリアの需要は11.5%増、ロードファクターは91.2%まで上昇しました。中東ハブ経由便の混乱が、日本を含むアジア太平洋キャリアの相対的な追い風になった側面もあります。

JAL自身も、2026年度の国際線運航便数を前年比101%とする計画をすでに公表しています。成田=デリー、那覇=台北の新規就航に加え、ホノルル線では大型機投入を増やします。2027年3月期の国際旅客収入計画が2.4%増にとどまる一方、単価が5.7%上昇する想定なのは、需給逼迫を背景に価格決定力を高められるとみているからです。今期のJALは、座席を増やして売るのではなく、限られた供給を高単価市場へ配分して収益性を維持する戦略を取っています。

貨物と非航空の下支えでも残る不確実性

貨物も同じ方向です。JALは2026年度上期、KALITTA航空とのコードシェア貨物便を成田=シカゴ線で週6便に増やしました。4月1日からはカーゴルクス航空との提携強化で成田=ルクセンブルク線のコードシェアも始めています。決算実績では貨物郵便収入が前期比16.3%増、会社計画でも2027年3月期は2080億円と9.6%増を見込みます。IATAの3月貨物統計では世界需要が4.8%減となりましたが、アジア太平洋キャリアの需要は5.4%増でした。中東ハブ機能の低下で、アジアから北米・欧州への直行・代替ルート需要を取り込みやすい環境が続いています。

それでも、追い風だけでは減益を覆せません。IATAのFuel Price Monitorでは、直近週の世界平均ジェット燃料価格は1バレル197.83ドルでした。さらにIATAは4月17日、アジアの一部ではすでに燃料不足が起きており、5月末までに欧州でも欠航リスクが出る可能性があると警告しています。日本政府は3月19日から航空機燃料も対象にした激変緩和措置を始め、4月23日以降の支給単価を1リットル当たり12.3円としましたが、これで問題が解決するわけではありません。補助はショックの緩和策であって、需給逼迫や精製マージン上昇そのものを消すものではないからです。

注意点・展望

今回の決算で最も注意したいのは、「今期20%減益」をそのまま需要悪化と受け取らないことです。JALの2027年3月期計画は、売上収益がなお4.1%伸び、国際・国内の旅客収入、貨物、非航空がそろって増収を見込む内容です。問題はトップラインではなく、燃油、為替、人件費、整備費が同時に膨らむコスト構造です。景気敏感株としての航空株を見るときも、旅客数の強弱だけでは不十分で、単価と費用吸収力を同時に追う必要があります。

もう一つの注意点は、JALが今期を守りの一年としているわけではないことです。2000億円の社債型種類株式発行、国内線の構造改革、貨物ネットワーク拡張、マイル・金融領域の拡大は、いずれも次の成長局面を見据えた布石です。短期利益だけを追えば投資抑制も選べますが、会社はむしろ逆を選んでいます。このため、今後の焦点は減益幅の大小より、投資先の利益貢献がどのタイミングで表れるかに移ります。

見通しとしては、第一に燃油価格と為替です。JALの資料では、シンガポール・ケロシン200ドル、160円のケースは十分に意識されています。第二に、訪日需要が夏場以降も単価を支え続けるかです。第三に、国内線改革が想定通り進み、燃油サーチャージ導入や供給見直しに社会的な受容が得られるかです。特に国内線は公共性が高いため、採算改善の論理だけでは進みにくく、制度面の調整も必要になります。

まとめ

JALの2027年3月期純利益1100億円予想は、過去最高益の反動というより、航空会社の利益構造が燃油高と円建てコストの圧力を正面から受けていることを示す数字です。売上収益は伸び、訪日需要も貨物もなお追い風ですが、燃油費4170億円、人件費や整備費の増加がそれを上回ります。

一方で、JALは単なる耐久戦に入ったわけではありません。国際線の単価改善、貨物の増強、マイル・金融・コマースの拡大、国内線の構造改革を同時に進めています。今期の減益見通しは弱さの表れというより、航空本体依存から外部環境に強い収益構成へ移る過程で生じる痛みです。投資家や読者が見るべきなのは、四半期ごとの旅客数以上に、燃油と為替の吸収力、そして非航空収益の成長速度だといえます。

参考資料:

野村 康平

マクロ経済・為替・債券

為替・債券・コモディティ市場を横断的にウォッチし、マクロ経済の変動が株式市場に与えるインパクトを分析する。

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