決算発表シーズン到来、AI半導体・増配・株主還元の注目テーマ
はじめに
2026年3月期の決算発表シーズンが本格化しています。日本経済新聞の報道によれば、上場企業全体で5年連続の過去最高益更新が見込まれており、当初の減益予想から一転して増益に転じる見通しです。AI投資の拡大や非中核事業の売却による資本効率の改善が、全体の利益水準を押し上げています。
4月下旬にはアドバンテストやファナック、アステラス製薬、きんでんなど多くの企業が好決算を発表しました。同時に、ティラドの異例の大幅増配に代表されるように、株主還元の強化も一段と鮮明になっています。
本記事では、決算シーズン序盤に浮上した「AI半導体」「増配サプライズ」「自社株買い」の3つの投資テーマを軸に、注目銘柄の決算内容を点検します。5月に控える総合商社やトヨタ自動車の本決算に備え、いま押さえておくべきポイントを整理します。
AI・テクノロジー関連企業の好決算
アドバンテスト:売上高1兆円突破と営業利益の倍増超え
半導体テスタ大手のアドバンテスト(6857)は、2026年3月期の連結売上高が1兆1,286億円(前期比44.7%増)と、初の1兆円超えを果たしました。営業利益は4,991億円(同118.8%増)、当期利益は3,754億円(同132.9%増)と、いずれも過去最高を大幅に更新しています。
成長の原動力はAI関連の高性能半導体向けテスタ需要です。セグメント別では主力のテストシステム事業が売上高1兆194億円(同49.3%増)に達し、セグメント利益も5,188億円(同97.9%増)と圧倒的な伸びを記録しました。
AI半導体は演算性能の向上に比例して検査工程が複雑化するため、テスタ需要は構造的に拡大基調にあります。2027年3月期も売上高1兆4,200億円(同25.8%増)、営業利益6,275億円(同25.7%増)と高い成長を見込んでおり、AI半導体サイクルの恩恵が続く見通しです。
投資家目線で注目すべきは、単なる「AI関連銘柄」を超え、業績が実際に利益に直結している点です。テーマ株は期待先行で株価が動くケースが多い中、アドバンテストは実需に裏打ちされた成長を示しています。
ファナック:ロボット部門が牽引し一転増益
産業用ロボット大手のファナック(6954)は、2026年3月期の売上高が8,578億円(前期比7.6%増)、経常利益が2,274億円(同15.6%増)、純利益が1,665億円(同12.9%増)となりました。当初の減益予想を覆しての増益確保です。
部門別ではロボット部門の売上高が3,786億円(同14.9%増)と特に好調でした。米国を中心としたロボット受注の拡大が主因です。一方、FA(ファクトリーオートメーション)部門は2,084億円(同7.0%増)と堅調だったものの、ロボマシン部門は1,296億円(同5.8%減)と減収でした。
2027年3月期は売上高9,096億円(同6.0%増)、純利益1,849億円(同11.0%増)を見込んでいます。ロボット部門の勢いが持続するかが、今後の業績のカギとなります。
野村総合研究所:2027年3月期に2期ぶり最高益を予想
野村総合研究所(4307)は4月24日に2026年3月期の決算を発表しました。注目すべきは来期の見通しで、2027年3月期は最終利益が大幅に拡大し、2期ぶりの最高益更新を予想しています。DX(デジタルトランスフォーメーション)関連のコンサルティング・システム開発需要を取り込み、ITサービス企業としての成長軌道に再び乗る構図です。
増配サプライズと際立つ株主還元姿勢
ティラド:配当4年で10倍、利回り9.8%のインパクト
4月下旬に最も市場を驚かせたのが、ラジエーターメーカーのティラド(7236)です。同社は2027年3月期の年間配当予想を800円(前期比240円増)と発表し、配当利回りが一時9.8%に達しました。
2023年3月期の年間配当はわずか80円でした。それがわずか4年間で10倍に急増するという異例のペースです。2024年3月期から4期連続増配を達成する見通しで、累進配当も導入しています。PTS(私設取引)では発表後に株価が18.5%上昇する場面もありました。
こうした大幅増配の背景には、東京証券取引所が推進する「資本コストや株価を意識した経営」への対応があります。PBR1倍割れ企業への是正圧力が強まる中、配当政策を積極化する企業が増加しています。ティラドのようなサプライズ増配は、中小型株の材料として特に大きなインパクトを持ちます。
アステラス製薬:純利益5.7倍増で7年ぶり最高益
アステラス製薬(4503)は2026年3月期の純利益が2,915億円(前期比5.7倍)と7年ぶりに最高益を更新しました。売上収益は2兆1,392億円(同11.9%増)と初の2兆円台に到達し、コア営業利益は5,557億円(同41.6%増)となっています。
好調の主因は、前立腺がん治療薬「イクスタンジ」の販売が想定を上回ったことです。ただし、同薬の特許期限が迫りつつあるため、次の主力薬の育成状況が中長期の焦点となります。2027年3月期は売上収益2兆2,200億円(同3.8%増)、コア営業利益6,200億円(同11.6%増)と2期連続最高益を目指す計画です。
きんでん:営業利益48%増の大幅増益
総合設備工事大手のきんでん(1944)は、2026年3月期の完成工事高が7,507億円(前期比6.5%増)、営業利益が902億円(同48.0%増)と大幅な増収増益を達成しました。データセンターや再生可能エネルギー関連施設の建設需要が、電気工事セクター全体を押し上げています。
受注工事高も7,221億円(同16.6%増)、手持工事高は5,817億円(同23.2%増)に拡大しており、来期以降の売上の下支えとなる見込みです。AI・データセンター投資の拡大が、半導体だけでなく設備工事にも波及している好例です。
自社株買い拡大と5月の本決算ピーク
自社株買い:22兆円規模の過去最高水準
個別銘柄の好決算に加え、上場企業全体で株主還元姿勢が一段と強まっています。第一生命経済研究所のレポートによれば、日本企業の自社株買いは22兆円規模に達する見通しで、過去最高を大幅に更新する勢いです。
金融を除く3月期決算企業の手元資金は101兆円を超える水準にあり、潤沢な財務余力を背景に自社株買いが広がっています。東証のPBR1倍割れ企業に対する是正要請も、資本効率改善の追い風となっています。
増配と自社株買いの合計である総還元額の拡大は、日本株全体のバリュエーション向上にも寄与します。企業が稼いだ利益をどう活用するかは、個別銘柄の選定においても重要な判断材料です。
5月1日:総合商社6社の一斉発表
5月1日には三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅、双日の総合商社6社が、2026年3月期の本決算を一斉に発表する予定です。資源価格の動向に加え、非資源分野の収益力や株主還元方針のアップデートが焦点となります。
商社セクターは過去数年にわたり好業績と積極的な還元策で投資家の支持を集めてきました。今回の決算では、2027年3月期の業績見通しと中期経営計画の進捗が注目されます。
5月8日:トヨタ・ソニー・任天堂の大型決算
5月8日にはトヨタ自動車(7203)とソニーグループ(6758)、任天堂の決算発表が控えています。トヨタは近社長によるオンライン説明会も予定されており、米国関税政策の業績への影響と今後の対応策が最大の注目点です。
第一生命ホールディングス(8750)も決算シーズンの注目銘柄です。2026年3月期の第3四半期累計で経常利益が5,977億円(前期同期比7.2%増)と堅調に推移し、配当性向を45%に引き上げる方針を打ち出しています。生保セクターの還元拡大は、金融株全体への波及効果も期待されます。
好決算の裏に潜むリスク要因
米国関税政策と為替変動への警戒
好調な決算が続く中でも、警戒を怠れない材料があります。日立建機(6305)は2026年3月期の売上収益が1兆4,054億円(前期比2.5%増)と増収を確保したものの、調整後営業利益は1,329億円(同8.3%減)と減益に転落しました。米国関税の影響や成長投資に伴うコスト増が利益を圧迫した格好です。
グローバルに事業を展開する企業にとって、関税コストの転嫁力や生産拠点の分散状況が2027年3月期の業績を左右する重要なポイントとなります。好決算の銘柄でも、来期予想の前提となる為替レートや原材料価格の設定には十分な精査が必要です。
最高益の「質」を見極める姿勢
5年連続の最高益更新が見込まれる一方で、その中身を冷静に見極めることも大切です。非中核事業の売却益や一時的な為替差益が利益を押し上げているケースもあります。本業の収益力が着実に向上しているのか、一過性の要因に依存していないかを確認する視点が求められます。
まとめ
2026年3月期の決算シーズン序盤は、アドバンテストのAI半導体需要による過去最高益、アステラス製薬の7年ぶり最高益、ティラドの配当10倍増額サプライズなど、投資テーマとして明確な材料が揃う展開となりました。上場企業全体でも5年連続の最高益更新が視野に入っています。
5月に入ると総合商社6社やトヨタ自動車、ソニーグループなどの大型決算が本格化します。AI・半導体テーマの持続力、増配や自社株買いによる株主還元の方向性、米国関税政策の影響という3つの軸から各企業の決算を精査し、テーマの「次の一手」を見定めることが重要です。
参考資料:
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