2026年後半の東京市場展望と勝ち筋を探る
はじめに
2026年の東京株式市場は、年初から力強い上昇を見せました。1月14日に日経平均が5万4,000円台で取引時間中の最高値を更新すると、2月の衆院選で自民党が圧勝したことを受けた「高市トレード」が加速。4月27日には終値ベースで初めて6万円台に乗せ、60,537円36銭の史上最高値を記録しました。年初来の上昇率は実に2割近くに達しています。
しかし、3月には米国・イスラエルによるイラン攻撃を受けて日経平均が3営業日で7.8%急落し、3月31日には年初来安値の50,558円91銭まで売り込まれる場面もありました。6万円大台を回復した今、後半相場は「大相場の序奏」となるのか、それとも調整局面が待ち受けるのか。テクニカルとファンダメンタルの両面から、2026年後半の勝ち筋を探ります。
6万円突破を支えた4つのエンジン
AI・半導体需要の構造的拡大
今回の上昇を最も強力にけん引したのが、AI関連株の急騰です。世界的にデータセンター投資が拡大し、GPU・HBM(高帯域幅メモリ)・先端パッケージ技術を中心とした半導体需要は構造的な成長局面に入っています。日本企業は半導体製造装置や素材分野で世界トップクラスのシェアを握っており、グローバルなAI投資拡大の恩恵を直接的に受ける構図が鮮明です。
第一ライフ資産運用経済研究所のレポートでは、AI需要が株高をどこまで支えるかが後半の焦点とされています。「フィジカルAI」と呼ばれるロボティクス・産業自動化分野が次の成長ドライバーとして注目を集めており、安川電機や富士通など関連銘柄への資金流入が続いています。
企業業績の5年連続最高益更新
2026年3月期の上場企業の純利益は、従来の前期比2%減予想から一転し、1%増と5年連続の過去最高益更新が見込まれています。金融・ソフトバンクグループを除くベースでは、営業利益が前年度比13.5%増、純利益が14.6%増と2ケタの増益が予想されています。
東証のPBR改革要請から3年が経過し、プライム市場の93%が資本効率改善に向けた開示を行っています。非中核事業の売却やROE向上への取り組みが利益率を押し上げ、プライム市場上場企業の約6割がROE10%以上を達成しました。自社株買いも過去最高水準で推移しており、株主還元の厚みが株価の下支え要因として機能しています。
海外投資家の大規模買い越し
2026年年初から海外投資家は6週連続で現物株を買い越し、累計額は約3.9兆円に達しました。特に衆院選後の2月第2週には単週で1.2兆円の買い越しを記録しています。東証プライム市場における海外投資家の売買シェアは67.4%と圧倒的で、彼らの動向が相場の方向性を左右する構図は変わりません。
日本企業のガバナンス改革や資本効率改善への取り組みが海外から評価され、「脱デフレ」の転換点が鮮明になったことが、中長期マネーの流入を促しています。
高市政権の積極財政と成長戦略
高市政権が掲げる「責任ある積極財政」は、拡張的な財政政策と産業政策の同時推進を軸としています。衆院選での自民党圧勝により政策の実行力に対する期待が高まり、いわゆる「高市トレード」が株価を押し上げる要因となりました。防衛・エネルギー・半導体などの国策関連分野への政策的な後押しは、後半相場でも注目テーマとなる見通しです。
テクニカル指標が示す後半相場の方向性
中期トレンドと移動平均線の読み方
5月第1週時点で日経平均は59,513円付近に位置し、4週ぶりの下落で目先の過熱感を解消する動きに入りました。TOPIXは13週移動平均線を割り込みそうな場面を見せており、短期的な調整余地は残っています。
ただし、長期的な視点では25日移動平均線の上昇トレンドが維持されている限り、押し目買いの好機と捉える市場参加者は多いとみられます。3月の急落局面でも50,500円台で下値を固め、その後わずか1カ月で1万円幅の反発を見せた回復力は特筆に値します。
ボリンジャーバンドとRSIから見る過熱・冷却のサイクル
4月下旬の6万円突破局面では、ボリンジャーバンドの+2σに接近し、RSI(相対力指数)も短期的な過熱シグナルを点灯させました。こうした高値警戒感がゴールデンウィーク前の利益確定売りを誘発し、5月1日時点では59,500円付近まで調整しています。
過去のパターンでは、日経平均が急騰後に5~8%程度の調整を入れた後、業績発表シーズンの好決算をきっかけに再び上値を追う展開が繰り返されてきました。後半相場でもこのリズムが継続するかどうかが注目点です。
後半相場の3大リスクシナリオ
中東情勢とエネルギー価格の波乱
3月の急落の引き金となった中東リスクは、依然として最大の不確定要因です。ホルムズ海峡の実質封鎖懸念が浮上し、原油価格が急騰した際には日経平均が3営業日で約2,000円安を記録しました。日本は原油の99.7%を海外から輸入し、そのうち約95%を中東に依存しています。エネルギー価格の高止まりは企業収益を直接圧迫するため、中東の地政学リスクには引き続き警戒が必要です。
トランプ大統領がイランとの停戦延長を表明したことで一時的に安心感が広がりましたが、情勢は流動的です。供給制約が長期化すれば、インフレ再燃リスクも高まります。
日銀の追加利上げと円高リスク
日銀は政策金利を0.75%まで引き上げており、これは約30年ぶりの水準です。市場では6月会合での追加利上げ観測もくすぶっています。野村證券の後藤祐二朗氏は、「6月も利上げ見送り」観測が強まれば円安長期化リスクが拡大すると指摘しています。
後半にかけて日銀が利上げに踏み切った場合、円高が進行して輸出企業の業績見通しに下方圧力がかかる可能性があります。一方で利上げ見送りが続けば円安がさらに進み、輸入インフレを通じて消費を冷やすリスクもあり、金融政策の舵取りは極めて難しい局面です。
丙午アノマリーと「午尻下がり」の警告
2026年は干支で「丙午(ひのえうま)」にあたります。相場格言では「午尻下がり」と言われ、過去6回の午年における日経平均の平均騰落率はマイナス5%と、十二支の中で最も低いパフォーマンスを記録しています。1990年のバブル崩壊(マイナス38.4%)や2002年のITバブル後(マイナス21.1%)など、大幅下落の年も含まれています。
もっとも、2014年はアベノミクス本格化でプラス9.7%、1966年はいざなぎ景気の起点でプラス1.5%と、上昇した年もあります。アノマリーはあくまで統計的な傾向であり、ファンダメンタルズの裏付けがある今回は「午尻下がり」を跳ね返す可能性も十分にあります。
後半相場で注目すべき5つのセクター
AI・半導体製造装置
半導体は「景気循環型セクター」から構造的成長分野へと変貌を遂げています。GPU、HBM、先端パッケージ技術が市場成長の中心であり、日本企業は製造装置・素材で世界的な競争優位を持っています。後工程を含むサプライチェーン全体の重要性が再評価される局面です。
防衛関連
高市政権の安全保障政策の強化を背景に、防衛予算の拡大が続いています。防衛装備品のサプライチェーンに組み込まれた企業群は、中長期的な受注増が見込まれる分野です。
銀行・金融
日銀の利上げサイクルは銀行の利ざや改善に直結します。金利上昇局面では貸出金利と預金金利の差が拡大しやすく、メガバンクから地方銀行まで幅広く恩恵が及ぶ見通しです。
エネルギー・電力インフラ
データセンターの急増に伴う電力需要の拡大が追い風となっています。再生可能エネルギーや次世代送電網への投資拡大も、関連企業の成長機会を広げています。
建設・資材
積極財政による公共投資の拡大に加え、都市再開発やインフラ更新需要が底堅く推移しています。資材価格の安定と受注残の積み上がりが業績を下支えする構図です。
7万円へのロードマップと注意点
上値突破の3条件
野村證券は2026年末の日経平均を60,000円、2027年末を63,000円と予想しています。一方、より強気な見方では年内7万円到達の可能性を指摘する声もあります。7万円に到達するための条件として、以下の3点が挙げられます。
第一に、企業業績の上方修正が広がること。第二に、海外投資家の継続的な買い越しが維持されること。第三に、米国株高が持続し、グローバルなリスクオンの環境が続くことです。
AI関連投資が実際のビジネス収益に結びつき、「AIバブル」の懸念を払拭できるかどうかも重要な分岐点となります。
見落としがちな下振れ要因
楽観シナリオの裏側にはいくつかの落とし穴があります。トランプ関税の影響は約7割の日本企業に及んでおり、サプライチェーンの見直しコストが業績を圧迫する可能性があります。また、台湾海峡の緊張が高まれば、世界の先端半導体供給の大部分を担う台湾からの供給途絶リスクが顕在化し、日本のハイテク産業に甚大な影響を与えかねません。
NRI(野村総合研究所)の木内登英氏は、高市政権と日銀の間に政策運営を巡る軋轢が続いていると指摘しており、マクロ政策の失敗による急激な金利上昇は下振れシナリオの一つとして意識しておく必要があります。
まとめ
2026年後半の東京株式市場は、企業業績の拡大・AI関連需要の構造的成長・海外マネーの流入という3つの追い風を受けて、上値追いの基調が続く公算が大きいといえます。テクニカル的には、3月の急落を経て下値の堅さが確認されており、押し目買いの有効性が示された格好です。
ただし、中東の地政学リスク、日銀の利上げ動向、丙午アノマリーといった不確実性も軽視できません。後半相場の勝ち筋は、AI・半導体・防衛・金融など構造的な成長が見込めるセクターに軸足を置きつつ、テクニカル指標を活用して過熱・冷却のサイクルを見極めることにあるでしょう。6万円台の定着から7万円への挑戦へ、東京市場の地力が試される局面が続きます。
参考資料:
- 日経平均株価初の6万円、崩れぬ企業増益期待
- 日経平均6万円時代、AI需要は株高をどこまで支えるのか
- 2026年末の日本株見通しを日経平均株価60,000円に上方修正 - 野村證券
- 日経平均「7万円」の条件 6万円突破はただの通過点
- 中東情勢不透明でも、日経平均株価2026年末60,000円見通しを維持 - 野村證券
- 日銀「6月も利上げ見送り」観測が強まれば、円安長期化リスクが拡大 - 野村證券
- 2026年の年初から日本株を大きく買い越している投資主体とは - 三井住友DSアセットマネジメント
- 上場企業5年連続最高益 2026年3月期 - 日本経済新聞
- PBR1倍割れ最後通牒!2026年決算で試される資本効率と銘柄選別の極意
- 午年相場の株価アノマリー 兜町の重鎮に聞く - 日本経済新聞
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