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トランプ政権の好戦性が揺さぶる国際分業体制と日本の経常収支構造

by 野村 康平
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はじめに

トランプ米政権がイランへの軍事作戦を本格化させ、国際秩序の地殻変動が加速しています。欧州同盟国との亀裂が深まる一方、対中政策では経済的互恵関係を重視する「平和共存」路線へのシフトが進み、米国の外交姿勢には明らかな矛盾が生じています。

こうした地政学的な変動は、国際分業体制の再編を通じて各国の国際収支構造に直接的な影響を及ぼします。日本の経常収支は第一次所得収支の急拡大により過去最高を更新し続けており、「貿易で稼ぐ国」から「投資で稼ぐ国」への構造転換が鮮明です。本記事では、米国の好戦性がもたらす同盟関係の再編と国際分業の変容が、マクロ経済と資本フローにどのような影響を与えているかを読み解きます。

トランプ政権の好戦性と揺らぐ大西洋同盟

イラン軍事作戦がもたらした欧州との亀裂

2026年3月以降、トランプ政権はイランに対する大規模な軍事作戦を展開しました。ホルムズ海峡の事実上の封鎖を伴うこの作戦は、エネルギー供給網を直撃し世界経済に大きな波紋を広げています。

問題を深刻化させたのは、この軍事行動に対する欧州諸国の反応です。フランスのマクロン大統領は艦船派遣を拒否し、スペインのサンチェス首相は「イラン攻撃は違法」として自国基地や領空の使用を認めない姿勢を明確にしました。トランプ大統領はこうした対応に激怒し、マクロン大統領の作戦参加拒否を「絶対に忘れない」と非難するとともに、NATO脱退の検討にまで言及しています。

3月27日の演説でトランプ大統領は「NATOはひどい間違いを犯した。とても失望した」と述べ、同盟関係の見直しを示唆しました。「我々が世界のためにイランに対処していると認識しなかった」という発言には、米国主導の安全保障秩序に対する不満が凝縮されています。

駐留米軍削減という「報復」の波紋

トランプ大統領の不満は具体的な行動に転じています。2026年4月29日にはドイツ駐留米軍の削減を示唆し、翌30日にはイタリアとスペインからの撤収検討にも言及しました。2025年12月時点でドイツには約3万6,400人、イタリアには約1万2,700人、スペインには約3,800人の米兵が駐留しており、これらの削減は欧州の安全保障体制に根本的な変化をもたらしかねません。

トランプ大統領は「イタリアは何の助けにもならなかった。スペインはひどい」と述べ、対イラン作戦への非協力を理由に同盟国への圧力を強めています。さらにNATO加盟国に対してGDP比5%への防衛費増額を求めるなど、従来の同盟の枠組みを根本から問い直す動きが加速しています。

為替市場の観点からは、欧州の安全保障コスト増大がユーロ圏の財政負担を重くし、長期的にはユーロの下押し要因となる可能性があります。欧州主要国が防衛費を大幅に引き上げれば、財政規律との両立が困難になり、欧州債券市場にも構造的な変化をもたらすことが見込まれます。

対中「平和共存」と多極化する国際秩序

好戦性と平和共存が同居する矛盾

イランや欧州に対して攻撃的な姿勢をとる一方、トランプ政権の対中政策は大きく異なる方向に舵を切っています。国家安全保障戦略では中国との互恵的な経済関係が重視され、米中G2体制への言及も見られます。

実際の通商面でも緊張緩和は進んでいます。2025年の米中貿易交渉では、米国が対中関税率を145%から30%へ引き下げ、中国も対米関税率を125%から10%に引き下げることで合意しました。さらに、フェンタニル関連の追加関税10%分が撤廃され、相互関税率は2026年11月まで10%に維持される枠組みが成立しています。

この「好戦性と平和共存の同居」は、トランプ政権の外交が理念ではなく経済的利益の最大化を軸にしていることを如実に示しています。中国との経済的紐帯は米国企業にとって不可欠であり、全面的なデカップリングは米国自身の経済を毀損しかねないという現実的な判断が背景にあります。

グローバルサウスの台頭と分業構造の多極化

米欧同盟の動揺は、グローバルサウス諸国の存在感をさらに高めています。BRICSの拡大に象徴されるように、新興国・途上国は既存の西側主導の国際秩序に対するオルタナティブを模索しており、中国はその「擁護者」を自任しています。

中国は「多極化が世界に広がっている」というメッセージを発信し続けており、グローバルサウスとの連帯を「大国外交」の柱に据えています。米国のイラン軍事作戦に対するグローバルサウスの反発は、こうした中国の外交攻勢に追い風を与える形となっています。

国際分業体制への影響という観点では、サプライチェーンの多元化が顕著です。企業がリスク分散を図る中、ASEAN、インド、中東を中心とするグローバルサウス諸国への投資が拡大しています。新規調達先の選定にあたって「地政学リスクの低さ」を重視する企業は52.1%に上り、地理的近接性(48.6%)を上回る最大の考慮要因となっています。

日本の国際収支が映す分業体制の構造転換

経常収支過去最高更新と第一次所得収支の急拡大

日本の国際収支構造は、国際分業体制の変容を最も端的に映し出しています。2024年の経常収支は約29兆円の黒字と過去最高を記録し、2025年度は約32兆円へとさらに黒字幅が拡大する見通しです。

この記録的な経常黒字を支えているのは、第一次所得収支の急拡大です。2024年の第一次所得収支は約40兆円の黒字に達し、過去最高であった2023年からさらに黒字幅を広げました。直接投資収益は2020年時点の10兆円弱から直近3年間では25兆円近傍へと倍増以上の伸びを見せています。

こうした構造変化の背景には、日本企業の海外事業展開の加速があります。2024年度の海外生産比率は36.1%、海外売上高比率は40.9%と上昇基調を維持し、海外売上高比率は2年連続で過去最高水準を更新しました。企業の海外直接投資(FDI)関連収入は2024年に23兆円まで拡大し、インバウンド消費の8兆円を大きく上回る外需獲得の柱となっています。

「貿易立国」から「投資立国」への不可逆的転換

日本の国際分業における位置づけは、明らかに「輸出で稼ぐ」から「投資で稼ぐ」へと転換しています。通関貿易収支は2021年度以降5年連続の赤字が続いており、デジタル関連サービスの対外支払い増加(いわゆる「デジタル赤字」)も拡大傾向にあります。

一方で、有望事業展開先としてインドが4年連続首位、米国が2位に浮上するなど、投資先の地理的多角化も進行中です。米中対立や地政学的緊張を受けたサプライチェーン再編は、日本企業にとって追加コストであると同時に、新たな投資機会でもあります。

為替市場との関連では、経常黒字の構成変化が円相場に与える影響も変質しています。貿易黒字はリアルタイムで為替フローに反映されやすいのに対し、所得収支黒字は海外に再投資される割合が高く、必ずしも円買いに直結しません。経常黒字が過去最高でも円安が続く構造的な要因の一つがここにあります。

注意点・投資家が見るべきポイント

第一に注意すべきは、米欧関係の悪化が不可逆的なものになるかどうかです。駐留米軍の削減は単なる「脅し」にとどまらず実行に移される可能性があり、その場合、欧州の防衛産業には追い風となる一方、米国の欧州におけるプレゼンス低下は地政学リスクプレミアムの再評価を迫ります。

第二に、米中の「平和共存」路線がどこまで持続するかという点です。経済面での緊張緩和が進む一方、台湾問題や先端技術の覇権争いは本質的に解決しておらず、中間選挙を控えるトランプ政権が対中姿勢を急変させるリスクは残ります。

第三に、日本の国際収支構造の変化が為替・金利に与える影響です。所得収支主導の経常黒字は円の実需買いに結びつきにくく、日本銀行の金融政策と合わせて円相場の方向性を左右する構造要因として注視が必要です。

まとめ

トランプ政権の好戦的な軍事姿勢は大西洋同盟に前例のない亀裂をもたらし、国際分業体制の再編を加速させています。対中政策での「平和共存」シフトとの矛盾は、米国の外交が経済的実利を最優先する姿勢を鮮明にしています。

日本の経常収支は第一次所得収支の急拡大により過去最高を更新し続けていますが、その中身は「貿易立国」から「投資立国」への不可逆的な転換を示しています。こうした構造変化を的確に捉え、為替リスクや地政学リスクを組み込んだ資産配分が、今後の投資判断において一層重要になるといえます。

参考資料:

野村 康平

マクロ経済・為替・債券

為替・債券・コモディティ市場を横断的にウォッチし、マクロ経済の変動が株式市場に与えるインパクトを分析する。

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