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島根銀行59.8億円赤字転落、有価証券売却と100億円増資の焦点

by 前田 千尋
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59.8億円赤字修正が示す財務再構築の全体像

島根銀行は2027年3月期の連結最終損益予想を、2億7,000万円の黒字から59億8,000万円の赤字へ引き下げました。ただし、今回の修正を本業の急失速だけで説明するのは適切ではありません。主因は、評価損を抱える有価証券約600億円を売却し、約65億円の損失を一括処理する計画です。

同時にSBI新生銀行から100億円の資本を受け入れ、売却資金を利回りの高い国債や地元企業向け融資へ振り向けます。巨額赤字を計上しながら規制上の自己資本比率を引き上げる、いわば「損失確定と資本注入を組み合わせた財務再構築」です。投資家には赤字額だけでなく、その後の収益回復力を見極める視点が求められます。

約65億円の有価証券売却損と赤字転落の構造

黒字予想から一転した通期計画

修正後の連結業績予想を従来計画と比較すると、経常収益は増える一方、利益だけが大幅な赤字へ転落します。

2027年3月期連結予想従来予想修正予想増減額
経常収益121億6,000万円136億円14億4,000万円
経常損益3億3,000万円の黒字59億6,000万円の赤字62億9,000万円減
最終損益2億7,000万円の黒字59億8,000万円の赤字62億5,000万円減
1株当たり損益18円13銭750円45銭の赤字―

経常収益は従来予想比11.8%増ですが、有価証券の売却損が利益を押し下げます。同行は2027年1~3月に、簿価ではなく売却金額ベースで約600億円の有価証券を処分し、約65億円の損失を計上する予定です。売却損は売却額の約10.8%に相当します。

2026年3月末時点の「その他有価証券」の時価は1,229億5,700万円でした。売却予定額は、単純比較でその半分近い規模です。小規模な損切りではなく、有価証券ポートフォリオの構成を大きく変える取引と位置付ける必要があります。

「純資産48%」を額面通りに読めない理由

2026年3月末の連結純資産は123億7,400万円でした。修正後の最終赤字59億8,000万円をこの金額で割ると約48.3%となるため、「純資産の48%に相当する赤字」という見方ができます。

もっとも、59億8,000万円が同額の現金流出や新たな経済損失を意味するわけではありません。その他有価証券は時価評価され、その評価差額が純資産に反映される仕組みです。島根銀行では、その他有価証券の評価差額が2026年3月末に126億600万円のマイナス、同年6月末には130億2,300万円のマイナスとなっていました。

したがって、今回の売却損には、すでに純資産へ反映されていた含み損を損益計算書上で確定させる部分が含まれます。売却時の価格変動や税効果などは残るものの、65億円の売却損が純資産をもう一度65億円減らすと単純計算することはできません。

一方、損失を確定すれば将来の金利変動リスクを縮小できる反面、含み損の回復を待つ選択肢は失われます。同行がどの銘柄や年限の商品を売却するのか、売却価格が想定からどの程度ずれるのかは、最終的な財務効果を左右する重要事項です。

上期黒字と通期巨額赤字の時間差

2026年9月中間期の連結予想は、経常収益が59億2,000万円から72億円、経常利益が1億5,000万円から2億6,000万円へ引き上げられました。一方、中間純利益は1億2,000万円から1億円へ引き下げられています。

中間期には、339億円の貸出債権流動化による8億5,000万円の譲渡益が寄与します。有価証券利息配当金や役務取引等収益も計画を上回り、経費は下振れる見込みです。しかし、与信関連費用の増加が最終利益を圧迫します。

約65億円の有価証券売却損は2027年1~3月に計上される予定です。このため、上期は黒字でも通期では巨額赤字になるという時間差が生じます。中間決算だけを見て通期下方修正の影響が軽いと判断しないことが重要です。

100億円の優先株増資と収益再建の実効性

自己資本比率8.5%を支える資本注入

島根銀行はSBI新生銀行を引受先として、C種優先株式1,000万株を1株1,000円で発行し、総額100億円を調達します。発行費用を控除した手取概算額は99億1,320万円で、地元企業を中心とする事業性貸出金へ充当する計画です。

同行の単体自己資本比率は2026年3月末時点で7.09%でした。有価証券売却と資本注入後の2027年3月末には約8.5%、中期経営計画の最終年度である2028年3月末には約9%を目指します。国内基準行に求められる最低水準は4%ですが、規制値を上回っていることと、十分な経営余力があることは同義ではありません。

ここで注意したいのは、決算書上の純資産を総資産で割る比率と、リスクアセットを基準に計算する規制上の自己資本比率が別の指標である点です。「純資産の48%相当の赤字」と「自己資本比率8.5%への改善」は矛盾しません。優先株がコア資本へ算入され、有価証券売却で金利リスクも圧縮されるためです。

増資は2026年12月24日の臨時株主総会などでの承認が条件で、払込日は翌25日の予定です。資本注入が成立しなければ、有価証券売却と財務再構築の前提も大きく変わるため、株主総会の結果は重要な確認事項となります。

金利上昇が突きつけたALM管理の課題

日本銀行は2026年9月、無担保コール翌日物金利を1.25%程度で推移させる方針を決定しました。金利上昇は銀行にとって、貸出金利や再投資利回りの改善につながる一方、既に保有している固定利付債券の価格を押し下げます。

島根銀行では、その他有価証券のうち債券の評価差額が2026年3月末の72億500万円のマイナスから、6月末には81億3,300万円のマイナスへ拡大しました。満期保有目的債券にも6月末時点で5億200万円の含み損がありましたが、こちらは当時の業績予想に影響しないと説明されていました。

同行は売却後、国債などを中心に運用期間を短期化し、SBI新生銀行からALMとリスク管理の知見を受ける方針です。短期化すれば追加利上げ時の価格下落に対する耐性は高まりますが、売却資金を急いで再投資すれば、金利水準や商品選定によって新たなリスクを抱える可能性もあります。

日本銀行の金融システムレポートも、金融機関全体では円債残高の削減や運用期間の短期化が進む一方、相場変動を想定したポートフォリオ管理が必要だと指摘しています。今回の処理は、島根銀行固有の問題であると同時に、金利正常化が地域金融機関の有価証券運用へ与える影響を象徴する事例です。

本業収益と信用コストの二つの宿題

2027年3月期第1四半期は、連結経常収益が前年同期比14.8%増の29億5,500万円となった一方、7億9,400万円の最終赤字でした。取引先である決済代行会社・全東信の破産に伴い、保全されていない貸出金8億円を引当処理したことが大きく響きました。

単体の信用コストは前年同期の400万円から10億300万円へ急増し、金融再生法開示債権の割合も2026年3月末の2.34%から6月末には2.53%へ上昇しました。今回の通期赤字は有価証券売却損が主因ですが、信用コストにも目を配る必要があります。

本業面では、第1四半期の貸出金利息が前年同期比1億7,000万円増えた一方、預金利息も1億8,100万円増加しました。コア業務純益は2億2,500万円から1億4,000万円へ減少しており、金利上昇による収益改善が直ちに利益へ直結しているとはいえません。

中期経営計画では2028年3月期の当期純利益目標を6億円から12億円へ引き上げる一方、コア業務純益目標は22億円から17億円へ引き下げました。最終利益の回復計画は、有価証券損失の前倒し処理と再運用効果への依存度が高く、本業の基礎収益力については従来計画より慎重な見方へ変わったと読めます。

普通株主が警戒すべき希薄化と再建シナリオ

C種優先株式には議決権がなく、発行後5年間は普通株式への転換請求ができません。ただし、2031年12月25日以降は転換請求が可能となります。下限取得価額407円で全株が普通株式へ転換された場合、交付される議決権数は現在の普通株式の議決権総数に対して約294%に達します。

直ちに約294%の希薄化が起きるわけではありません。同行は発行から10年後の2036年12月25日以降、現金による優先株の取得を進め、普通株への転換を極力避ける方針です。しかし、そのためには内部留保を積み上げ、100億円規模の償還原資を確保する必要があります。

優先配当率は原則として12カ月物日本円TIBORに1%を加え、上限8%、下限1%となります。金利が上がれば資本調達コストも増える設計であり、普通株主への利益配分より優先株配当が先行します。年間10円の普通株配当予想は据え置かれましたが、今後は配当維持そのものより、優先株配当後の利益と資本蓄積を確認すべきです。

再建の成否は、損失処理後の有価証券利回り、貸出金利と預金金利の差、信用コスト、優先株の償還計画という四つの要素で決まります。SBIグループとの連携は資本と運用ノウハウを補いますが、収益回復が遅れれば、長期的な希薄化リスクと資本コストが重く残ります。

次回決算までに確認したい四つの財務指標

投資家がまず確認すべきなのは、有価証券の実際の売却額と売却損が計画の600億円、65億円から大きくずれないかです。次に、資本注入後の単体自己資本比率が約8.5%へ改善するか、信用コストが第1四半期をピークに低下するかを見極める必要があります。

さらに、貸出金利息の増加が預金利息と経費の上昇を上回り、コア業務純益が回復するかが重要です。最後に、2028年3月期の純利益12億円という目標だけでなく、優先株配当後に普通株主へ残る利益と内部留保の積み上がりを確認すべきです。

59億8,000万円の赤字は大きいものの、財務の実態を判断する分岐点は損失計上時ではありません。損切り後の運用収益と本業利益が計画通り改善するかが、今回の財務再構築を「将来利益のための一過性処理」にできるかどうかを決めます。

参考資料:

前
前田 千尋

企業決算・財務分析

企業決算を読み解き、業績の変化点をいち早く察知する。財務諸表の行間から企業の「次の一手」を導き出す決算分析の専門家。

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