宇宙開発テーマ株が年後半相場の本命に浮上する理由
はじめに
2026年の株式市場は波乱含みの展開が続いています。2月末に米国・イスラエルがイランへの軍事攻撃を開始し、ホルムズ海峡の事実上の封鎖で原油価格が急騰。北海ブレント原油は1バレル72ドルから110ドルまで跳ね上がり、エネルギー不安が相場全体を圧迫しました。
こうした地政学リスクが高まる中で、逆風に強いテーマとして改めて浮上しているのが「宇宙開発」です。日本政府は宇宙基本計画で2030年代早期に宇宙産業の市場規模を8兆円へ倍増させる目標を掲げ、JAXAには10年間で1兆円規模の宇宙戦略基金を設置。さらに防衛省は2,831億円の衛星コンステレーション整備事業を始動させました。国策としての後押しに加え、民間企業の技術革新も加速しており、年後半の相場をリードする有力テーマとして存在感を増しています。
本記事では、宇宙開発を取り巻く政策動向と市場環境を整理し、投資家目線で注目すべき有望銘柄を分野別に掘り下げます。
国策が牽引する宇宙産業の全体像
宇宙戦略基金と政府の本気度
日本政府が宇宙開発に注ぐ資金規模は、ここ数年で大きく変化しました。2024年にJAXAへ設置された「宇宙戦略基金」は、令和5年度補正予算だけで3,000億円が計上され、10年間で1兆円規模の資金を民間企業や大学に供給する枠組みです。
この基金は「輸送」「衛星等」「探査等」の3分野を柱とし、「市場の拡大」「社会課題解決」「フロンティア開拓」という3つの出口に向けた技術開発を支援しています。すでに第一期として全22の技術開発テーマに対し52の実施機関が選定され、各機関で研究開発が進行中です。
株式市場の観点から重要なのは、この基金が最大10年間にわたる複数年度の支援を可能にしている点です。従来の単年度予算では難しかった大型の研究開発投資が、民間企業にとって計画しやすくなりました。宇宙関連事業を手がける上場企業にとって、安定した受注の下地が整いつつあるといえます。
防衛省の衛星コンステレーション:2,831億円の大型案件
2026年2月、防衛省は特別目的会社「トライサット・コンステレーション」と衛星コンステレーション整備・運営等事業の契約を締結しました。契約金額は総額2,831億円、事業期間は2031年3月までの約5年間です。
トライサットは三菱電機、スカパーJSAT、三井物産が設立した特別目的会社で、これにSynspective、QPS研究所(現QPSホールディングス)、アクセルスペース、三井物産エアロスペースの計7社が参画しています。大手からベンチャーまでを巻き込んだ官民連携の大型プロジェクトです。
事業は2段階で進行します。2026年4月から2028年3月が段階的運用期間、2028年3月から2031年3月が本格的運用期間です。スタンド・オフ防衛能力の実効性確保に必要な画像情報を安定取得する体制の構築が目的であり、安全保障環境の変化を背景に宇宙空間の軍事的活用が本格化していることを示しています。
ロケット開発分野の注目銘柄
三菱重工業(7011):H3ロケットの商業化が焦点
宇宙関連の本命格として外せないのが三菱重工業です。同社はJAXAと共同でH3ロケットを開発するプライムコントラクタであり、日本の宇宙輸送の根幹を担っています。
H3ロケットは従来のH-IIAの後継機で、打ち上げコストをH-IIAの半額程度に抑えることを目指しています。商業衛星打ち上げ市場での国際競争力を高めるうえで、このコスト削減は不可欠です。ただし、コストを半減できる30形態の開発は現在難航が伝えられており、スケジュールの遅延リスクには留意が必要です。
三菱重工は防衛事業でも存在感が大きく、防衛費増額の恩恵を受ける銘柄として評価されています。宇宙と防衛の両輪で業績拡大が見込める点が、テーマ株としての安定感につながっています。
IHI(7013):エンジン技術で存在感
IHIはH3ロケットにおいて、IHIエアロスペースを通じて新型固体ブースタやLE-9エンジンのターボポンプ設計・製造を担当しています。ロケットの心臓部ともいえるエンジン関連技術を握る点が強みです。
同社は防衛・宇宙事業を成長ドライバーのひとつと位置づけており、航空エンジンと合わせた「空」の領域での競争力が評価されています。宇宙戦略基金による技術開発テーマの採択状況次第では、さらなる受注拡大も期待できます。
スペースワン:民間ロケットの旗手
非上場ながら注目すべきはスペースワンです。キヤノン電子、IHIエアロスペース、清水建設、日本政策投資銀行が出資し、和歌山県串本町に専用射場「スペースポート紀伊」を保有しています。
小型ロケット「カイロス」は2024年3月の初号機こそ失敗しましたが、2026年2月には3号機の打ち上げに挑戦。「契約から打ち上げまで12カ月以内」という短いリードタイムを武器に、2020年代中に年20回の打ち上げを目標としています。宇宙戦略基金の採択事業にも選定されており、上場企業としてはキヤノン電子(7739)や清水建設(1803)を通じた間接的な投資が可能です。
衛星・宇宙サービス分野の有望株
スカパーJSAT(9412):宇宙事業が業績を牽引
衛星通信の老舗であるスカパーJSATは、宇宙事業の好調が業績を押し上げています。2026年3月期の営業利益は前年同期比で20%を超える大幅増益を達成し、通期予想も上方修正されました。
同社は防衛省の衛星コンステレーション事業をトライサットを通じて受注しており、官需の取り込みが進んでいます。また、欧州SES社との通信衛星容量提供契約やSpaceXとの打ち上げサービス契約など、海外パートナーとの連携も活発です。一部衛星の償却終了に伴う減価償却費の減少も利益を押し上げる要因となっており、安定した収益基盤を持つ点がテーマ株の中では異色の存在です。
QPSホールディングス(旧QPS研究所・5595):SAR衛星の量産体制
QPSホールディングスは小型SAR(合成開口レーダー)衛星の開発・運用を手がけるベンチャーです。2023年12月に東証グロース市場へ上場し、2025年末には純粋持株会社体制へ移行しました。
2026年4月時点で稼働衛星数は9機に到達。最終目標である36機体制が実現すれば、平均10分間隔の準リアルタイム観測が可能になります。防衛省の衛星コンステレーション事業にも参画しており、安全保障需要の取り込みが成長を加速させる可能性があります。
SAR衛星は天候に左右されず地表を観測できるため、防災・農業・インフラ監視など幅広い用途が見込まれます。ただし、ベンチャー特有の先行投資負担が大きく、黒字化の時期が投資判断の鍵を握ります。
三菱電機(6503):衛星製造の実績
三菱電機は通信衛星、気象衛星、地球観測衛星など約70機の衛星製造実績を持ち、同社の衛星搭載機器は世界500機以上の衛星に搭載されています。標準衛星バス「DS2000」による高品質・低コスト・短納期の衛星製造体制が強みです。
防衛省の衛星コンステレーション事業ではトライサットの中核企業として参画しており、今後5年間にわたる安定的な受注が見込まれます。宇宙事業単体では目立ちにくいものの、防衛・社会インフラを含む総合力での評価が妥当でしょう。
月面探査・デブリ除去の最前線
ispace(9348):月面着陸への三度目の挑戦
月面探査ベンチャーのispaceは、これまで2度の月面着陸に挑戦し、いずれも成功には至っていません。しかし、2027年に予定される3度目の挑戦に向けて準備が進んでいます。売上高は前年同期比で63.5%増と伸びているものの、依然として純損失を計上している段階です。
NASAのアルテミス計画では、2026年4月にアルテミスIIが打ち上げに成功し、4名の宇宙飛行士が月を周回するミッションを完遂しました。2028年にはアルテミスIVで有人月面着陸が予定されており、月面経済圏の構築に向けた機運が高まっています。ispaceの月面輸送サービスは、こうした流れの中で商業的な価値を持つ可能性がありますが、技術リスクの高さは十分に認識しておく必要があります。
アストロスケールホールディングス(186A):スペースデブリという新市場
アストロスケールはスペースデブリ(宇宙ゴミ)の除去サービスや軌道上サービスを開発する企業です。衛星コンステレーションの急増に伴い、デブリ問題は深刻化しており、除去技術への需要は今後さらに高まるとみられています。
2025年4月には米国子会社が米国宇宙軍から受注していた燃料補給衛星「APS-R」の契約金額が増額されるなど、海外での事業展開も前進しています。デブリ除去は競合が少なく、先行者利益を享受しやすい分野です。ただし、市場自体がまだ黎明期であり、収益化までの道のりには不確実性が伴います。
投資にあたっての注意点と展望
テーマ株投資のリスク管理
宇宙開発テーマへの投資では、いくつかの点に注意が必要です。まず、宇宙ベンチャーの多くは先行投資段階にあり、赤字が続いている企業が少なくありません。ispace、アストロスケール、QPSホールディングスなどは成長期待で買われていますが、業績の裏付けが伴わない場合、株価のボラティリティが大きくなりがちです。
次に、ロケット打ち上げの失敗や技術的障壁は、一夜にして株価を急落させるリスクを内包しています。H3ロケットの30形態開発の遅延やispaceの月面着陸失敗の例が示すとおり、宇宙事業は計画どおりに進まないことが常態ともいえます。
一方で、三菱重工やスカパーJSATのように宇宙以外の事業基盤を持つ企業であれば、テーマ株としての値動きの恩恵を受けつつ、下値のリスクを限定できる可能性があります。ポートフォリオの中でベンチャーと大型株をどう配分するかが、テーマ投資の成否を分けるポイントです。
年後半に向けた3つのカタリスト
年後半の宇宙開発テーマを動かし得る材料として、以下の3点が挙げられます。
第一に、SpaceXのStarship Version 3の飛行試験です。2026年5月にも予定される次世代機の試験飛行が成功すれば、世界的に宇宙開発への関心が再燃し、日本の関連銘柄にも買いが波及する展開が考えられます。
第二に、防衛省衛星コンステレーション事業の段階的運用開始です。2026年4月から始まった運用フェーズで、参画企業の具体的な受注内容や進捗が明らかになれば、業績への寄与度を織り込む動きが出てくるでしょう。
第三に、宇宙戦略基金の追加採択です。第一期で22テーマ・52機関が選定されていますが、今後の追加公募で新たな企業が採択されれば、個別銘柄の材料として機能します。
まとめ
宇宙開発は、10年1兆円規模の宇宙戦略基金、防衛省の2,831億円衛星コンステレーション事業、そしてアルテミス計画の進展など、官民双方から強力な追い風が吹いているテーマです。中東情勢の混乱でマーケット全体が揺れる中でも、国策として予算が確保されている分野は相対的に底堅い展開が期待できます。
銘柄選びでは、三菱重工やスカパーJSATのように業績の裏付けがある大型株をコアに据えつつ、QPSホールディングスやアストロスケールといった成長性の高いベンチャーをサテライト的に組み合わせる戦略が有効でしょう。ロケット打ち上げの成否や基金の採択動向など、年後半に控えるイベントを注視しながら、テーマの盛り上がりを捉えていきたいところです。
参考資料:
- JAXA宇宙戦略基金
- 宇宙戦略基金事業:文部科学省
- 三菱電機ら7社参画の衛星コンステレーション事業契約、防衛省が公表 総額2831億円
- QPS、Synspective、アクセルスペースに注目!防衛省による5年で2,831億円という大規模衛星コンステレーション事業の3つのポイント
- スカパーJSATが大幅増益で上方修正。メディア事業の「コスト削減」と好調な「宇宙事業」が牽引
- NASA「アルテミスⅡ」打上げ成功!宇宙飛行士4名が月を回る飛行へ
- カイロスロケット打ち上げ全記録 — スペースワンの成功・失敗と次の予定【2026年】
- 2026年は「空」を制する者が勝つ? IHI(7013)が描く防衛・宇宙ビジネスの成長シナリオ
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