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第二次高市政権の使命、AI投資と円金利が映す日本株再評価の転機

by 野村 康平
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AI投資国家への転換を担う第二次高市政権

第二次高市政権の経済政策を読むうえで、焦点は単なる財政拡張ではありません。政府が掲げる「責任ある積極財政」は、AI、半導体、防衛、エネルギー、量子、宇宙、バイオなどを軸に、国内投資を長期的に引き出す産業政策です。

市場が注目するのは、その投資が一時的な需要刺激で終わるのか、潜在成長率を押し上げる供給力強化につながるのかです。日銀は2026年9月、政策金利を1.25%程度へ引き上げました。金利のある世界で積極財政を進める以上、政権には成長戦略と財政規律を同時に示す力が求められます。

責任ある積極財政が市場に問う成長実現力

370兆円超ロードマップの政策含意

内閣府の骨太方針2026は、2027年度を「責任ある積極財政元年」と位置付け、2027年度から2040年度までの中長期経済財政計画を掲げています。柱は、危機管理投資と成長投資です。政府は17の戦略分野と62の主要製品・技術を示し、2040年度まで累計370兆円超の官民投資を想定しています。

この数字の重みは、財政支出そのものよりも、民間企業の投資判断を変える点にあります。半導体、フィジカルAI、データセンター、オール光ネットワーク、次世代エネルギー、防災、コンテンツなどは、短期の景気対策ではなく、複数年の設備投資と研究開発を必要とします。予算の予見可能性が高まれば、企業は工場、人材、電力、サプライチェーンに先行投資しやすくなります。

一方で、政府が勝ち筋を選ぶ政策には失敗リスクもあります。市場は、支援額の大きさだけでなく、投資採算、需要創出、規制改革、国際標準化、電力供給まで含めて実行力を見ます。投資テーマが広すぎれば、資源配分は薄まり、財政拡張だけが残ります。高市政権の使命は「投資する政府」をつくることではなく、民間資本が自走する制度設計をつくることです。

民間投資250兆円目標との接続

経団連は、2040年度に国内民間設備投資額を250兆円へ拡大する目標を掲げています。さらに、官民の研究開発投資を対GDP比5%、2040年に年間50兆円へ高めるべきだとしています。政府の成長戦略と経済界の投資目標が同じ方向を向き始めた点は、日本株にとって重要です。

日本企業は長く、手元資金を厚く持つ一方で、国内設備投資には慎重でした。デフレ期には合理的だった保守姿勢も、インフレと人手不足の時代には競争力低下の原因になります。AI需要が世界的に拡大し、半導体製造装置、素材、電力設備、冷却技術、ロボット、産業ソフトウェアへの需要が増える局面では、国内投資を先送りするコストは大きくなります。

ただし、投資主導経済への転換は、株式市場に均一な恩恵をもたらすわけではありません。恩恵を受けやすいのは、AIと半導体の設備投資、電力、素材、防衛、建設、データセンター、工場自動化、人材再訓練に結びつく企業です。逆に、金利上昇で資本コストが上がる企業や、価格転嫁力の弱い内需企業には逆風も残ります。

日銀利上げ局面で試される株式再評価

金利正常化と円安が映す政策余地

日銀は2026年9月18日の金融政策決定会合で、無担保コール翌日物金利を1.25%程度で推移するよう促す方針を決めました。決定は7対2で、反対意見もありました。公表文では、AI関連需要の増加、政府施策、雇用・所得環境の改善が景気を支える一方、中東情勢、為替相場、AI需要の変動をリスクとして挙げています。

ここで重要なのは、利上げ後も日銀が金融環境をなお緩和的とみている点です。実質金利が低いままなら、企業の投資意欲は維持されやすく、政府の成長投資とも両立します。しかし、円安が物価を押し上げ、長期金利が上昇すれば、財政運営への市場の視線は厳しくなります。

財政拡張と利上げが同時に進む局面では、為替と国債市場が政策の採点者になります。円安は輸出企業の採算を支える一方、エネルギーや半導体関連部材の輸入価格を押し上げます。長期金利の上昇は、金融株に追い風となる面がある一方、成長株のバリュエーションや政府の利払い費には重荷です。高市政権の積極財政は、日銀の正常化と衝突しない範囲で設計されなければなりません。

賃金と物価の循環を測る足元指標

足元のマクロ指標は、政策運営に一定の追い風を示しています。内閣府によると、2026年4-6月期の実質GDP成長率は前期比0.4%、名目GDP成長率は1.3%でした。名目GDPは689.2兆円に達しており、税収の自然増を期待しやすい環境です。

総務省の2026年8月全国消費者物価指数は、総合が前年比1.9%上昇、生鮮食品を除く総合が1.7%上昇でした。日銀の2%目標に近い水準ですが、エネルギー、為替、半導体価格の影響を受けやすい局面でもあります。物価が落ち着けば実質所得に追い風ですが、円安と原油高が重なれば生活防衛色が強まります。

賃金面では、厚生労働省の2026年7月毎月勤労統計で、現金給与総額は43万6401円、前年同月比4.7%増でした。持家の帰属家賃を除く総合指数で実質化した実質賃金も2.4%増となっています。名目賃金と実質賃金がともに伸びる局面は、消費と企業収益の好循環に近づくサインです。

ただ、賃金上昇が持続するには、生産性の向上が欠かせません。人手不足だけで賃金が上がる場合、企業利益は圧迫されます。AI、ロボット、デジタル化、省力化投資が労働制約を補い、価格転嫁と利益率を両立できるかが、政権の成長戦略の成否を左右します。

財政拡張シナリオを揺らす三つの市場制約

第一の制約は国債市場です。骨太方針2026は、債務残高対GDP比の安定的低下を財政目標の中核に置いています。これは、積極財政を掲げながらも、市場の信認を失わないための最低条件です。成長投資の名目で歳出が膨らみ、民間投資誘発効果が確認できなければ、長期金利は財政リスクを織り込みやすくなります。

第二の制約は為替です。日銀が利上げしても円安が続く場合、市場は日本の実質金利、財政規律、貿易構造を疑っている可能性があります。円安は企業業績を押し上げる局面もありますが、家計には輸入インフレとして響きます。政権支持率が高くても、食料品やエネルギーの負担感が残れば、政策の持続性は揺らぎます。

第三の制約は政策選別です。AIや半導体は魅力的な成長分野ですが、世界的な投資競争は激しく、需要循環もあります。日銀幹部は、米国の大手ハイパースケーラーによる巨額投資がAI需要を支えている一方、日本はAIサービスの主導国ではなく、半導体関連材料や装置などを通じて需要の恩恵を受けている面が大きいと指摘しています。AI投資が鈍化すれば、日本株のテーマ循環も変わります。

そのため、投資家は「高市政権だから買い」と単純化すべきではありません。政策テーマに沿う企業でも、受注残、価格転嫁、電力制約、資本効率、海外競争力を確認する必要があります。財政政策が追い風になる銘柄ほど、政策変更や金利上昇への感応度も高くなります。

投資家が確認すべき政策実行の条件

第二次高市政権の歴史的使命は、デフレ後の日本を「投資で成長する国」へ移すことです。骨太方針、官民投資ロードマップ、経団連の投資目標、日銀の正常化は、同じ時間軸で動き始めています。ここに日本株再評価の土台があります。

ただし、再評価が持続する条件は明確です。第一に、370兆円超の官民投資が実際の民間設備投資へつながること。第二に、賃金上昇が生産性向上を伴うこと。第三に、債務残高対GDP比の安定的低下という財政規律を市場に説明し続けることです。

個人投資家は、政権のスローガンよりも、予算編成、日銀の次回会合、長期金利、円相場、企業の設備投資計画を追うべきです。高市政権の積極財政が本物の成長投資に変わるなら、日本株の評価軸は「割安」から「成長力」へ移ります。その転換点を見極める相場が、すでに始まっています。

参考資料:

野
野村 康平

マクロ経済・為替・債券

為替・債券・コモディティ市場を横断的にウォッチし、マクロ経済の変動が株式市場に与えるインパクトを分析する。

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