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AI時代に伸びるサイバーセキュリティ株の再評価局面と銘柄選別

by 斎藤 裕也
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AI普及で安全投資が増える構図

サイバーセキュリティ株への視線が再び強まっています。背景にあるのは、生成AIの普及で攻撃者側の自動化が進む一方、企業側でもクラウド、SaaS、リモート接続、AI活用を止められなくなっている現実です。業務効率化のためにデジタル投資を増やすほど、守るべきID、端末、Webアプリ、クラウド設定、委託先が増えます。

一時期、成長株市場では「SaaSの成長鈍化」が意識され、継続課金型のソフトウェア企業全体に逆風が吹きました。しかし、セキュリティは単なる便利ツールではありません。被害が発生すれば業務停止、顧客離れ、法務対応、株価下落に直結するため、景気変動下でも削りにくい予算です。ここに、サイバーセキュリティ株が次の見直し局面に入る理由があります。

被害拡大が変える企業の予算順位

ランサム攻撃と口座乗っ取りの衝撃

企業経営者がセキュリティ予算を後回しにしにくくなった最大の理由は、被害が「情報システム部門の問題」に収まらなくなったことです。警察庁の資料では、2024年中のランサムウェア被害報告は222件でした。対価要求の手口を確認できた134件のうち、データを窃取して公開を脅す二重恐喝は111件、82.8%を占めています。中小企業の報告も140件あり、規模の大小を問わず標的になる構図が鮮明です。

IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2025」でも、組織向けの1位はランサム攻撃、2位はサプライチェーンや委託先を狙った攻撃、3位はシステムの脆弱性を突いた攻撃でした。注目すべきは、地政学的リスクに起因するサイバー攻撃が初選出された点です。企業にとってセキュリティは、単なる社内ITの保守ではなく、取引継続、海外拠点管理、重要インフラ対応まで含む経営課題になっています。

金融分野では、証券口座の不正アクセス・不正取引が投資家心理を揺さぶりました。金融庁が公表した2026年9月9日時点の資料では、2025年1月から2026年8月までの累計で、不正アクセス件数は1万9207件、不正取引件数は1万639件に達しています。不正取引に伴う売却金額は約4368億円、買付金額は約3837億円です。金融機関、証券会社、利用者の認証基盤、フィッシング対策、異常検知の重要性が一気に可視化された格好です。

この種の事件は、直接被害を受けた企業だけでなく、同業他社や取引先の投資判断も変えます。被害事例が報道されるたびに、経営会議では「自社は大丈夫か」という問いが発生します。そこで需要が向かう先が、ID管理、ゼロトラスト、Webアプリ防御、脆弱性診断、SOC、MDR、インシデント対応などのサービスです。

規制と重要インフラ対応の押し上げ

政策面の追い風も見逃せません。サイバー対処能力強化法は2025年5月16日に成立し、同月23日に公布されました。警察庁は同法と関連整備法について、官民連携の強化、通信情報の利用、攻撃者サーバ等へのアクセス・無害化措置を柱とすると説明しています。国家安全保障と企業セキュリティの距離は、以前より明らかに近づいています。

デジタル庁も、重要インフラ事業者に対して閉域網への過信を改めること、サプライチェーンリスクを理解すること、レジリエンスを高めること、AIなど技術・脅威の変化を踏まえること、官民双方向のコミュニケーションを強めることを求めています。これは、電力、ガス、鉄道、航空、医療、物流、金融といった広い分野で、一定水準の対策が求められる流れを示します。

市場規模の面でも、需要拡大は数字に表れています。ガートナーは、世界の情報セキュリティ支出を2025年に2130億ドル、2026年に約2400億ドルと予測しています。別の2026年予測でも、情報セキュリティ支出は2440億ドル規模、前年比11.6%増とされています。日本市場についても、Mordor Intelligenceは2026年のサイバーセキュリティ市場を113.6億ドル、2031年を187.6億ドルとし、年平均10.57%成長を見込んでいます。

つまり、サイバーセキュリティ関連株のテーマ性は、短期の事件報道だけではありません。被害増加、規制、AI、クラウド移行、重要インフラ強化が同じ方向を向いており、企業のIT予算の中で優先順位が上がりやすい構造ができています。

国内セキュリティ株の選別軸

ストック型SaaSの防御力と低解約率

国内上場銘柄を見るうえで、まず確認したいのは「売上が継続課金で積み上がるか」です。HENNGEは、クラウドセキュリティサービス「HENNGE One」を軸に、ID管理、アクセス制御、情報漏えい対策、サイバー攻撃対策を提供しています。2026年5月の発表では契約ユーザー数が300万人を突破し、2026年3月末時点の契約企業数は3731社、東京証券取引所上場企業の約20%が利用しているとしています。

同社の2026年9月期第3四半期資料では、HENNGE Oneの契約企業数は3881社、契約ユーザー数は314.9万人、ARRは125.2億円でした。直近12カ月の平均月次解約率は0.30%です。SaaS企業の評価では新規獲得だけが注目されがちですが、セキュリティ領域では解約率の低さが防御力になります。一度ID基盤やメール・ファイル保護に組み込まれると、顧客は簡単に外しにくいからです。

サイバーセキュリティクラウドも、ストック収益型として注目される企業です。クラウド型WAF、AWS WAF向けルール、脆弱性管理、クラウド環境管理などを展開し、Webサービスを守る領域に強みを持ちます。2025年12月期の売上高は50.84億円、営業利益は11.02億円でした。2026年12月期は売上高60億円、営業利益12億円を見込んでおり、中期では2030年に売上高200億円、営業利益40億円を掲げています。

同社を見る際は、WAF需要だけでなく、クラウド利用企業の設定不備対策、脆弱性管理、AI関連リスクへのサービス拡張をどう収益化できるかが焦点です。成長投資と利益率の両立が見える局面では、テーマ株から実需株へ評価が変わりやすくなります。

SOC・診断・国産防御の収益性

一方、サイバーセキュリティ投資はSaaSだけでは完結しません。攻撃の兆候を監視し、異常時に初動対応し、侵入経路を分析し、再発防止まで支援する人的サービスの需要も根強くあります。この領域では、FFRIセキュリティ、S&J、ブロードバンドセキュリティなどが選別対象になります。

FFRIセキュリティは、国産セキュリティ製品とナショナルセキュリティ関連需要が特徴です。2026年3月期の売上高は43.48億円で前年比43.1%増、営業利益は13.64億円で67.0%増でした。資料では、FFRI yaraiシリーズの契約増加に加え、サイバー安全保障関連の需要増加が増収要因として示されています。防衛・官公庁・重要インフラに近い需要をどう継続案件化できるかが、今後の評価軸です。

S&JはSOCサービスとコンサルティングを展開します。2026年3月期の売上高は23.33億円で20.1%増、営業利益は5.56億円で32.2%増でした。売上規模はまだ大きくありませんが、営業利益率は高く、監視・対処・助言を組み合わせたサービス型の収益性が表れています。2026年1月には、国内完結でインシデントレスポンスの拠点となるSOCを開設しました。監視通知だけでなく、一次対処、影響分析、復旧、再発防止まで踏み込む点が差別化要素です。

ブロードバンドセキュリティは、監査・コンサルティング、脆弱性診断、情報漏えいIT対策を持つ企業です。2026年6月期第3四半期累計の売上高は51.11億円で8.5%増、営業利益は4.47億円で42.6%増でした。通期では売上高71億円、営業利益7億円を見込んでいます。AI活用やクラウド移行で新しいシステムが増えるほど、脆弱性診断やセキュリティ監査の需要は発生しやすくなります。

大型再編の動きも、上場銘柄の希少性を高めます。ラックはKDDIの完全子会社となり、KDDIとラックは2025年7月から海外拠点を含むセキュリティソリューションのグローバル展開を始めています。通信、クラウド、セキュリティを一体で提供する流れが強まるほど、独立系の上場セキュリティ企業は買収・提携候補としても意識されやすくなります。

高成長テーマに潜む株価リスク

サイバーセキュリティ株は材料性が強い一方、すべての銘柄が同じように伸びるわけではありません。事件報道の直後に株価が急騰した銘柄ほど、数四半期後に業績で裏付けられないと失望売りが出やすくなります。投資家は「社会的に必要なテーマ」と「その会社の売上に入るテーマ」を分けて見る必要があります。

特に注意したいのは、人材コストです。高度なセキュリティ人材は採用難で、待遇改善や教育投資が利益を圧迫する場合があります。SOCや診断サービスは需要が強くても、人員を増やせなければ売上の伸びに限界があります。反対に、SaaS型や自動化比率の高いモデルは粗利率を維持しやすいものの、広告宣伝費や研究開発費の先行投資が重くなる局面があります。

また、クラウド事業者への依存、海外大手との競争、為替、株式市場の金利感応度も無視できません。AI関連の期待が乗るとバリュエーションは先に上がりますが、実際の導入は予算承認、既存システム連携、運用体制の整備を経て進みます。テーマ株としての瞬発力だけでなく、ARR、解約率、営業利益率、受注残、顧客単価の変化を四半期ごとに確認する姿勢が重要です。

投資家が確認すべき三つの指標

サイバーセキュリティ株を見る際は、第一に継続収益の質です。ARRが伸び、解約率が低く、既存顧客への追加販売が増えている企業は、テーマが一巡しても業績が残りやすいです。第二に、守る領域の広がりです。ID、WAF、クラウド、SOC、脆弱性診断、インシデント対応のどこに強みがあり、AI時代の攻撃面拡大とどう結びつくかを見ます。

第三に、利益を伴う成長です。セキュリティ需要は長期化しやすい一方、銘柄ごとの評価は冷静です。売上成長率だけでなく、粗利率、人材投資、営業利益率、政策需要の継続性まで確認したいところです。事件や急騰に飛びつくのではなく、四半期決算と公的資料を照合しながら、需要が数字に変わる企業を選ぶ局面に入っています。

参考資料:

斎
斎藤 裕也

テーマ株・材料分析

テーマ株・材料株の発掘と分析を得意とする。企業の IR 情報と業界動向を結びつけ、投資家目線で銘柄の「次の一手」を読む。

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