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ICチップ本人確認義務化で動く有望株、関連5銘柄の最新選別戦略

by 斎藤 裕也
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金融庁の前倒し要請で始まる本人確認特需

金融庁は2026年10月9日、金融機関などに対し、ICチップ情報を利用する本人確認へ速やかに移行するよう要請しました。顧客向けサービスへの不正アクセスによって、運転免許証などの本人確認書類画像を含む情報が漏洩する事案が発生したためです。

2027年4月1日には犯罪収益移転防止法施行規則の改正が施行され、対面、非対面とも本人確認書類のICチップ読み取りが原則になります。金融機関にとって対応は選択的なIT投資ではなく、期限のある法令対応です。

株式市場ではeKYC事業者、電子認証会社、カードリーダーや窓口システムを扱う企業への注目が高まりやすい局面です。ただし、すべての関連企業が同じ恩恵を受けるわけではありません。制度変更が売上高に直結しやすい企業と、巨大な事業ポートフォリオの一部にとどまる企業を分けて見る必要があります。

画像確認からICチップ認証へ移る制度設計

対面・非対面を同時に変える2027年4月改正

従来のオンライン本人確認では、利用者が運転免許証などの券面と自分の顔をスマートフォンで撮影し、画像を送信する方法が広く使われてきました。しかし、生成AIによる画像加工や精巧な偽造身分証が普及すると、画面上の画像だけで真贋を見抜く難度が上がります。漏洩した書類画像が別のサービスで悪用される危険もあります。

政府は2025年6月、非対面で行う本人確認のうち、書類画像と容貌画像を送信する、いわゆる「ホ方式」などを廃止する改正を決めました。続いて2026年3月には対面方式も見直し、写真付き本人確認書類をICチップ付きのものに限定したうえで、チップ情報の読み取りを必須としました。いずれも施行日は2027年4月1日です。

店頭では、カードを目視したりコピーを保存したりするだけでは原則として足りなくなります。マイナンバーカード、運転免許証、在留カードなどのICチップを読み取り、表示された氏名や生年月日などを券面と照合する環境が必要です。ICチップがない一部書類や特別な事情には例外がありますが、主要な取引は電子的な真贋確認へ移ります。

非対面では、ICチップ情報と利用者の顔を照合する方法や、マイナンバーカードの電子証明書を用いる公的個人認証サービスが中心になります。単なる画像アップロードから、暗号技術で保護された情報を検証する方式への転換です。金融庁はICチップ自体の偽変造が券面の偽造より難しく、偽造身分証による口座開設や不正利用への対策として高い効果が期待できると説明しています。

制度対応に必要なのは読み取り機器だけではありません。スマートフォン向けのNFC読取機能、電子署名の検証、顔照合、既存の顧客管理システムとの接続、エラー処理、本人確認記録の保存まで含む一連の仕組みが求められます。金融機関の営業店や代理店が多いほど、端末配備や職員教育、保守運用の需要も大きくなります。

JPKIとIC読取方式を分ける技術構造

ICチップ本人確認には、大きく分けて二つの経路があります。一つは、運転免許証やマイナンバーカードなどのチップ内情報を読み取り、その情報と利用者の顔を照合する方法です。複数種類の身分証を使えるため、マイナンバーカードを持たない顧客にも対応しやすい点が特徴です。

もう一つは、マイナンバーカードの電子証明書を利用するJPKIです。利用者が暗証番号を入力し、カード内の秘密鍵を用いて電子署名を行います。事業者は証明書の有効性を確認することで、本人情報が改ざんされていないことや、転居などによって証明書が失効していないかを検証できます。

JPKIでは原則として本人確認書類や顔を撮影する必要がなく、正しく実装できれば利用者と審査担当者の負担を減らせます。一方、暗証番号を忘れた利用者への対応や、スマートフォンごとに異なるカードの読取位置、NFCの機種対応といった課題があります。デジタル庁も、読み取り完了までカードを端末に当て続けることや、金属製の机、スマートフォンカバーなどが読み取りを妨げる場合があると案内しています。

ここに関連企業の競争領域があります。認証精度だけでなく、途中離脱を減らす画面設計、複数の身分証への対応、既存アプリへの組み込みやすさ、障害時の代替経路、本人確認記録の一元管理が採用を左右します。単純なIC読取機能は標準化しやすくても、金融機関の複雑な業務へ安全に組み込む力には差が生まれます。

さらに、スマートフォンへのマイナンバーカード機能搭載も進んでいます。実物カードを毎回取り出す必要がない環境が広がれば、JPKIを使った本人確認の利用頻度が高まる可能性があります。本人確認は口座開設時だけでなく、住所変更、アカウント復旧、高額取引、パスキー登録時などへ広がるため、継続利用を取り込める事業者ほど制度施行後も収益を伸ばしやすくなります。

収益感応度で選別するIC認証関連5銘柄

直接恩恵が大きいELEMENTSとサイバートラスト

**ELEMENTS(5246)**は、制度変更との事業距離が最も近い有力候補です。子会社Liquidがオンライン本人確認サービス「LIQUID eKYC」を展開し、ICチップ読み取り、顔認証、JPKI、スマートフォンJPKIなどを提供しています。利用件数に連動する従量課金を中心とするため、導入企業数だけでなく実際の本人確認回数が業績を左右します。

ELEMENTSグループのオンライン本人確認は、2025年に累計1億5000万件を突破しました。Liquidの2026年9月時点の開示では、グループの導入実績が700社を超えています。外部調査を基に同社が示す国内eKYC市場の売上金額シェアでも、複数年にわたって首位とされており、既存顧客をIC方式へ移行させやすい点が強みです。

対面市場への展開も始まっています。Liquidは開発不要で店頭利用できる専用アプリを開発し、ICチップの読み取り結果や本人確認記録を管理画面に集約できる仕組みを打ち出しました。NTTドコモの全国のドコモショップと取扱店には、2026年8月からICチップ情報と店頭で撮影した顔を照合する方式を順次提供しています。

これまでの主戦場だったオンラインに加え、銀行や証券、通信、信販などの店頭まで対象市場が広がる点は大きな材料です。一方で、制度期待を織り込んで株価の変動が大きくなりやすい小型成長株でもあります。確認件数の増加が単価下落を上回っているか、顧客のIC方式への移行が追加売上を生む契約なのかを決算資料で確認する必要があります。

**サイバートラスト(4498)**は、電子証明書と信頼性検証の技術を持つ「つるはし型」の関連銘柄です。「iTrust本人確認サービス」は主務大臣認定を取得しており、JPKIに加えて、マイナンバーカード、運転免許証、在留カード、特別永住者証明書のICチップ読み取りと署名検証に対応します。

既存アプリへ組み込めるライブラリやAPIを提供しているため、金融機関や他のeKYC事業者の裏側に入る余地があります。Liquidがドコモ店頭向けに提供する仕組みでも、マイナンバーカードの電子署名検証にサイバートラストの「iTrust」ライブラリが使われています。競合企業同士がすべてを内製するのではなく、認証基盤を組み合わせる市場構造を示す事例です。

同社は住所や氏名の変更、生存確認、電子証明書更新後の同一人物確認など、継続的な顧客管理にも機能を広げています。初回の口座開設だけで終わらず、顧客情報の更新を収益化できれば、法改正前の一過性需要に依存しにくくなります。ただし、本人確認サービス単独の業績寄与は連結開示から読み取りにくいため、採用件数やリカーリング売上の推移が重要です。

顧客基盤で競う大日本印刷、TOPPAN、GMO

**大日本印刷(7912)**は、金融機関の窓口や渉外業務に使う「ID確認システムPRO」を展開しています。累計導入実績は2000台を超え、2026年10月にはICチップ本人確認を強化した後継製品の提供を開始しました。店頭向けのスキャナ搭載型と、店舗外でも使えるモバイル型を用意し、APIやSDKによる既存業務システムとの接続にも対応します。

カード券面の読み取り、ICチップ情報の確認、機微情報のマスキング、確認結果の帳票出力までをまとめて提供できる点は、印刷会社として培った本人確認書類の知見を生かせる領域です。DNPは同製品について2030年度までに累計10億円の売上を目指しています。

金額だけを見ればDNP全体の業績を大きく変える規模ではありません。ただし、金融機関との取引基盤を利用して、カード発行、認証、データ管理、BPOまで受注範囲を広げられる可能性があります。テーマ性よりも、既存顧客に複数サービスを販売できる安定性を評価する銘柄です。

**TOPPANホールディングス(7911)**も、ICカード、セキュア印刷、認証、窓口DXを一体で提案できる企業です。グループ会社のジェイエスキューブが提供する「PASiD Face」は、マイナンバーカードや運転免許証のICチップを読み取り、券面の真贋判定と利用者の顔照合を同時に行います。

本人情報を申請書へ自動反映する機能も備え、自治体の「書かない窓口」となりすまし防止を両立させています。金融機関向けの法令対応だけでなく、自治体、公共施設、教育機関などへIC認証を横展開できる点が特徴です。

一方、TOPPANホールディングスも事業規模が大きく、個別の本人確認案件が短期業績へ与える影響は限られます。注目すべきなのはカードリーダーの販売台数だけではなく、保守、認証基盤、データ処理を含む継続契約へつながるかです。

**GMOグローバルサイン・ホールディングス(3788)**は、電子証明書を中核とする認証関連銘柄です。連結子会社のGMOグローバルサインは2026年6月、「GMO顔認証eKYC」にICチップ読み取り機能を追加しました。運転免許証、マイナンバーカード、在留カード、特別永住者証明書に対応し、チップ内の電子署名検証と利用者の顔照合を行います。

同社には認証局として蓄積した電子証明書の運用技術があり、JPKI、顔認証eKYC、ID管理、電子署名を組み合わせられます。法令対応だけを目的とする顧客には開発不要型、大規模事業者にはAPI連携型を提案できることも強みです。

ただし、旧来の画像撮影方式からIC方式への移行が、そのまま新規売上になるとは限りません。既存顧客の契約更新に含まれる可能性もあるため、導入企業数、課金方式、セキュリティ事業の利益率を追う必要があります。電子証明書事業との相乗効果が数字に表れるかが評価の分岐点です。

制度特需の反動と認証体験に残る投資リスク

最大の注意点は、2027年4月を境にシステム更新需要が一巡する可能性です。端末販売や初期開発に依存する企業は施行前に売上が集中し、その後は反動減が起きやすくなります。従量課金、保守契約、継続的顧客管理など、施行後も収益が積み上がる構造を持つかが重要です。

価格競争も避けられません。デジタル庁はマイナンバーカードの対面確認アプリやデジタル認証基盤を提供しています。単純な読み取りだけでは差別化しにくくなり、事業者側の価値は不正検知、顔認証、複数書類対応、記録保存、既存システムとの接続へ移ります。

利用者の離脱も業績を左右します。暗証番号を忘れた場合やNFC読み取りに失敗した場合、口座開設や契約そのものが中断されます。セキュリティを高めても成約率が落ちれば、導入企業からの評価は得られません。読み取り成功率、処理時間、代替手段の設計が隠れた競争力になります。

また、ICチップ本人確認は偽造書類による不正な口座開設には有効ですが、正規利用者のIDやパスワードが盗まれるフィッシングを単独で防ぐものではありません。金融庁も証券口座対策として、パスキーなどフィッシング耐性のある多要素認証を求めています。本人確認、ログイン認証、不審取引検知を一体で提供できる企業ほど、テーマが長期化した場合の優位性を持ちます。

投資家が次の決算で確認すべき三つの材料

ICチップ本人確認は、方針検討の段階から実装期限を伴う市場へ移りました。投資家が確認すべき材料は、法改正対応の受注件数、ストック型売上への転換度、導入後の認証件数という三つです。採用発表だけでなく、どの程度の売上や利益を継続的に生むかまで追う必要があります。

事業の直接性ではELEMENTSとサイバートラスト、金融・自治体の顧客基盤では大日本印刷とTOPPANホールディングス、電子証明書との複合展開ではGMOグローバルサイン・ホールディングスが有力な観察対象です。

施行直前には期待先行で関連株が買われる可能性があります。テーマ名だけで追いかけるのではなく、IC方式への移行率、顧客単価、継続課金比率、会社全体に占める事業規模を比較し、制度特需を利益成長へ変えられる企業を選別する姿勢が欠かせません。

参考資料:

斎
斎藤 裕也

テーマ株・材料分析

テーマ株・材料株の発掘と分析を得意とする。企業の IR 情報と業界動向を結びつけ、投資家目線で銘柄の「次の一手」を読む。

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