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PBR1倍割れ放送局株、1局2波解禁で地方再編期待が本格再燃

by 斎藤 裕也
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1局2波解禁で変わる放送局株の評価軸

放送局関連株に、久しぶりに制度変更を起点としたテーマ性が出ています。総務省は地上テレビ放送のマスメディア集中排除原則を見直し、同一放送対象地域で広域放送を除き2局まで兼営・支配できる方向を示しました。背景には、人口減少と広告市場の変化でローカル局の経営基盤が弱くなっている事情があります。e-Govの改正概要資料

この変更は、すぐに大型M&Aが連発するという話ではありません。むしろ重要なのは、放送局株を「低PBRの資産株」と見るだけでなく、地域再編、政策保有株の縮減、コンテンツ配信、資本効率改善を合わせて評価する段階に入ったことです。東京証券取引所も上場企業に資本コストや株価を意識した経営を求めており、放送局の厚い自己資本は市場の視線にさらされやすくなっています。日本取引所グループ

広告主の予算移動が迫る収益構造の再設計

テレビ広告の底堅さと上値の限界

放送局株を読む第一の論点は、地上波広告が「急減している市場」ではなく「伸びにくい市場」になっている点です。電通の「2025年 日本の広告費」では、総広告費は8兆623億円と過去最高を更新し、インターネット広告費は4兆459億円で初めて総広告費の半分を超えました。一方、テレビメディア広告費は1兆7,556億円、地上波テレビは1兆6,333億円と、前年からほぼ横ばいです。電通

この数字から見えるのは、テレビ広告が消えたわけではない一方、広告主の成長予算は明確にデジタルへ流れているという現実です。大型スポーツやイベントはタイム広告を支えますが、広告主が求めるのは到達人数だけでなく、購買や来店につながるデータ活用です。放送局が従来型の番組枠販売に依存するほど、PBR1倍割れを正当化する「成長期待の乏しさ」が残ります。

ここで見逃せないのが、テレビ局のコンテンツ制作力そのものはまだ価値を失っていないことです。ドラマ、バラエティ、スポーツ、ニュースは、配信プラットフォーム上でも広告商材になります。問題は、地上波で生まれた視聴接点を、どれだけ配信、イベント、IP、海外展開へ広げられるかです。

TVerとCTVが担う若年接点の回復

成長の入口として最も分かりやすいのがTVerです。TVerは2025年12月に月間ユーザー数4,460万MUB、月間動画再生数6.5億再生を記録しました。さらに2026年8月には、コネクテッドTVでの月間動画再生数が2.3億再生となり、20〜34歳の再生数が前年同月比238%に伸びたと発表しています。TVer 2025年12月発表、TVer 2026年8月発表

博報堂の「メディア定点調査2025」でも、スマートフォン接触時間は1日165.1分とテレビの122.1分を上回っています。一方でTVer利用率は59.7%まで拡大し、テレビスクリーンでの見逃し配信や無料動画、有料動画の視聴が定着しつつあります。博報堂ニュースリリース

これは放送局にとって逆風と追い風が同時に吹いている状態です。リアルタイム視聴だけを前提にすれば衰退産業ですが、制作した番組をスマホとテレビ画面の両方で再利用できれば、広告在庫とデータの質は変わります。日本テレビホールディングス、TBSホールディングス、テレビ朝日ホールディングス、フジ・メディア・ホールディングス、テレビ東京ホールディングスなどは、地上波視聴率だけでなく、配信再生、アニメ、映画、イベント、不動産、通販、ライセンスを含む複合的な利益源で評価する必要があります。

PBR1倍割れを生む資産厚め経営の功罪

政策保有株と不動産が映す含み資産

放送局にPBR1倍割れが多い理由は、単純な不人気だけではありません。長年の安定収益を背景に、自己資本、政策保有株、不動産を厚く持つ企業が多く、資産価値に比べて市場が収益力を低く見積もってきたことが大きな要因です。テレビ朝日ホールディングスは統合報告書で、PBRが1倍を割れ、ROEが5%前後で推移していることを課題として明記しています。テレビ朝日ホールディングス統合報告書

TBSホールディングスも統合報告書で、政策保有株式の時価上昇を踏まえ、自己資本を規律ある形でコントロールすることをCFOメッセージで示しています。放送センターの資産管理を見直し、セグメントごとのROICやWACCを意識する方向も示されており、単なる番組会社ではなく、資本配分を問われる上場企業としての色合いが強まっています。TBSホールディングス統合報告書2026

フジ・メディア・ホールディングスは改革アクションプランで、政策保有株式を3年以内に1,000億円超売却し、5年間で2,500億円規模の投資を想定すると掲げています。さらにROE8%以上の達成を目指し、PBR上昇につなげる考えを示しています。フジ・メディア・ホールディングス

投資家目線では、こうした資産は魅力にもリスクにもなります。売却可能な政策保有株や都心不動産はバリュー株としての下値を支えますが、それが収益改善や株主還元に使われなければ、低PBRは解消しません。資産の厚さよりも、その資産をどう動かすかが株価材料になります。

資本政策で分かれるバリュー株の質

放送局株を見る際、PBRの低さだけで銘柄を拾うのは危険です。低PBRには「市場が見逃している割安」と「資本効率が低いまま放置されている割安」が混在します。材料株として評価されるのは、政策保有株の縮減、自己株式取得、配当方針の明確化、ROE目標の設定、成長投資の優先順位が同時に出ている企業です。

特に地上波を持つ上場会社は、社会インフラとしての公共性を理由に安定経営を重視してきました。その姿勢自体は放送事業に必要ですが、株式市場では余剰資本の滞留と見なされやすくなっています。東証の資本コスト要請以降、投資家は「何を持っているか」よりも「持っているものをどう収益化するか」を見ています。

この点で、キー局系と地方局系では評価軸が異なります。キー局系はコンテンツIP、配信、イベント、不動産、海外展開の伸びが焦点です。地方局系は、コスト構造の軽量化、系列を越えた共同化、隣接・同一地域での統合可能性が焦点です。準キー局や地方局に近い銘柄では、低PBRと再編余地が同時に意識されやすい一方、流動性の薄さや情報開示の少なさも株価変動を大きくします。

地方局再編で想定される勝ち筋と落とし穴

今回の制度変更で最も直接的な影響を受けるのは、広域局同士ではなく県域局です。総務省資料では、ローカル局の経営基盤強化を目的に、同一放送対象地域で広域放送を除き2局まで兼営・支配を認める方向が示されています。一方、広域放送を行う局同士の兼営・支配は、市場支配力への影響を踏まえて対象外です。e-Gov改正概要

勝ち筋は明確です。営業、制作、送出、設備、管理部門を共同化できれば、固定費の重い放送局には大きな効果があります。人口減少地域で単独維持が難しくなる局にとって、1局2波はチャンネルを維持しながら経営体を軽くする選択肢になります。総務省の意見募集結果でも、制度案には55件の意見提出があり、電波監理審議会から原案を適当とする答申を受けたことが紹介されています。SCATフォーラム情報提供サービス

ただし、再編は万能薬ではありません。放送法が重視する多元性、多様性、地域性が弱まれば、地域ニュースの質や災害報道の体制が問われます。新聞協会も第4次取りまとめ案に対し、複数局の兼営・支配を認める方向には異存がない一方で、多元性・多様性・地域性が損なわれない制度設計を求めています。e-Gov 第4次取りまとめ

株価材料としても、再編期待だけで持続的に上がるとは限りません。統合相手、株式交換比率、系列ネットワークとの関係、地元株主、外資規制、番組編成の独立性など、実務上の論点は多いです。投資家は「制度上できるようになったこと」と「実際に企業価値を押し上げる取引が成立すること」を分けて見る必要があります。

放送局株で投資家が確認すべき3条件

放送局関連株の選別では、第一に資本効率改善の実行度を確認するべきです。PBR1倍割れでも、政策保有株の縮減、自社株買い、配当方針、ROE目標が具体化している企業は見直し余地があります。第二に、TVerや自社配信、アニメ、イベント、不動産など、地上波以外の利益成長が数字で確認できるかが重要です。

第三に、地方局再編の恩恵を受ける位置にいるかを見ます。制度変更はテーマ株としての初動材料になりますが、長期で評価されるのは、再編により固定費を下げ、地域コンテンツの価値を広げられる企業です。放送局株は「割安だから買う」段階から、「資本を動かせる経営かを見極める」段階へ移っています。

参考資料:

斎
斎藤 裕也

テーマ株・材料分析

テーマ株・材料株の発掘と分析を得意とする。企業の IR 情報と業界動向を結びつけ、投資家目線で銘柄の「次の一手」を読む。

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