国内ステーブルコイン関連株、実用化目前の本命を見極める投資戦略
制度整備から実取引へ移る国内ステーブルコイン市場
法定通貨に価値を連動させるステーブルコインが、国内で「制度を整える段階」から「実際に使う段階」へ移り始めました。3メガバンクは2026年度中の実取引開始を目指し、円建てのJPYCは2026年9月18日時点で累計発行額100億円を突破しています。
ステーブルコインの価値は、価格の安定だけではありません。ブロックチェーン上で資金と権利を同時に移転できるため、国際送金、企業間決済、デジタル証券、実店舗決済などの業務を再設計できる点が重要です。
一方、「関連事業に参入した」という発表だけでは、上場企業の利益に結び付くとは限りません。本稿では関連株を金融、システム基盤、加盟店決済、事業連携の四層に分け、商用化への距離と収益化の仕組みを検証します。
3メガバンク主導で固まる発行・決済インフラ
共同発行を官民で支える制度設計
日本では2023年6月から、法定通貨連動型のステーブルコインが「電子決済手段」として制度上位置付けられました。仲介を業務として行う事業者には登録が求められ、発行だけでなく売買、交換、移転、利用者資産の管理にも規制が及びます。
2026年6月には「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業」の制度も始まりました。登録済み事業者から委託を受け、売買や交換の媒介に業務を限定する事業者向けの枠組みです。銀行や専門業者だけでなく、顧客基盤を持つ一般企業が利用者との接点を担いやすくなる可能性があります。
金融庁は2025年11月、決済分野に特化した「決済高度化プロジェクト」を設置しました。その第1号支援案件に選ばれたのが、三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱商事、三菱UFJ信託銀行、Progmatによる共同実証です。
実証では3銀行を共同委託者、信託銀行を受託者とする信託契約に基づき、特定信託受益権型のステーブルコインを発行します。三菱商事の日本拠点と海外拠点の間で使い、クロスボーダー決済に必要な規制対応や利用者保護、業務運用を検証する仕組みです。
3銀行は2026年6月、年度内の実取引開始を目指す方針を正式に公表しました。運営、ガバナンス、制度設計、発行基盤などを共同で検討する協議会の設置にも基本合意しています。実証の成否だけでなく、競合関係にある銀行が共通基盤を構築できるかが焦点です。
銀行ごとに互換性のないコインが発行されれば、企業は複数のウォレットや資金管理手順を用意しなければなりません。共同発行はその分断を抑え、取引相手が異なる銀行を利用していても同じ決済手段を使える環境につながります。
クロスボーダー送金と証券決済の実需
初期の有力用途は、消費者の日常決済よりも企業間取引です。国際送金では銀行の営業時間、時差、複数の仲介金融機関、資金到着後の照合などが負担になります。ステーブルコインで決済情報と資金移動を連動できれば、財務部門の照合作業や流動性管理を効率化できます。
ただし、ブロックチェーン上の移転が速くても、外国為替、現地規制、本人確認、法定通貨への償還まで自動的に解決するわけではありません。三菱商事を利用企業として迎えた実証の意義は、技術的な送金速度より、実際の企業実務に組み込めるかを検証する点にあります。
証券決済も実需が見込める領域です。金融庁は2026年2月、野村證券、大和証券、3メガバンクなどによる実証を支援対象にしました。有価証券の権利移転とステーブルコインによる代金支払いを連動させ、片方だけが実行される決済リスクを抑える取り組みです。
デジタル証券の売買がブロックチェーン上で完結しても、代金だけ従来の銀行システムで処理すれば効率化は限定的です。資産と資金を同時に交換するDvP決済が商用化されれば、ステーブルコインは単独の決済商品ではなく、デジタル資産市場を動かす共通部品になります。
三井住友フィナンシャルグループは2026年10月30日、SBIホールディングスと資本・業務提携しました。SBI新生信託銀行が発行する信託型円建てステーブルコイン「JPYSC」などを活用し、新たな金融サービスを共同検討します。三井住友FGは3銀行共同構想とSBI経済圏の両方に接点を持つ形です。
複数陣営の競争は規格の乱立を招く恐れがある一方、銀行、証券、暗号資産取引、デジタル証券を結ぶサービス開発を促します。年度内の実取引が一度実施されるだけでなく、継続利用する企業と取引量が増えるかが、関連株評価の分岐点になります。
関連株を四層で選別する収益化シナリオ
銀行・金融グループの規模と収益感応度
発行主体に最も近いのは、三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループです。法人顧客、決済口座、本人確認、外国為替、資金管理という既存資産を持つため、社会実装を主導できる立場にあります。
想定される収益源は、発行・償還手数料、法人向け決済サービス、海外送金、資金管理、デジタル証券との連携などです。ただし、各社は巨大な銀行グループです。実取引が始まっても、初期の取扱額では連結利益を大きく押し上げにくい点を考慮する必要があります。
銀行株を見る際は、発行した事実より、利用企業数と反復取引の有無が重要です。給与、仕入れ、貿易、証券決済など定期的な資金移動に採用されれば、単発の実証とは異なる継続収益が期待できます。既存の送金収入を置き換えるだけなのか、新しい顧客と取引を獲得できるのかも確認事項です。
SBIホールディングスは、銀行、証券、暗号資産取引、信託、デジタル証券市場への接点をグループ内に持ちます。JPYSCの発行から流通、金融商品との決済連動までを一体で構築できるため、金融大手の中では収益化の経路が比較的見えやすい銘柄です。
半面、ステーブルコイン事業にはシステム投資、ライセンス対応、不正取引監視、サイバーセキュリティなどの先行費用が必要です。発行額が増えても、手数料体系や事業コストが開示されなければ、利益率までは判断できません。
基盤・システム企業に近い初期収益
商用化の初期に売上が立ちやすいのは、発行・償還システム、ウォレット、本人確認、不正検知、既存会計システムとの接続を提供する企業です。利用者が少ない段階でも、金融機関や事業会社から開発費、導入費、保守料を受け取れるためです。
TISはペイメント事業の2026年3月期事業規模を440億円とし、2027年3月期には500億円プラスアルファを目標に掲げています。ステーブルコインの事業化加速を重点テーマに位置付けており、既存の決済処理やデジタル口座と組み合わせられる点が強みです。
TISの場合、ステーブルコイン単独の新規事業より、金融機関向けのシステム開発や決済処理を拡張する案件として収益化する可能性があります。受注額、サービス利用社数、ストック型売上への移行が確認できれば、テーマ材料から業績材料へ一段進みます。
Speeeの子会社Datachainは2026年7月、三菱UFJ銀行に対し、オンチェーン金融インフラの技術基盤構築に向けた技術助言を開始しました。異なるブロックチェーン間の接続、法人ウォレット、取引情報のプライバシー確保など、金融機関が自前でそろえにくい技術を扱います。
Speeeはメガバンクより企業規模が小さいため、商用契約が積み上がった場合の業績感応度は高くなり得ます。一方、技術助言の契約金額や収益貢献は公表されていません。研究開発や人材採用の負担が先行する可能性もあり、提携先の知名度だけで利益を推定するのは早計です。
シンプレクス・ホールディングス傘下のシンプレクスは、発行・償還システム「Simplex Stablecoin」を提供しています。口座開設、KYC、円の入出金、裏付け資産の管理、複数通貨・複数チェーンへの対応をまとめて提供する設計です。
発行事業者はブロックチェーン部分だけでなく、顧客管理、会計、銀行口座、監査、償還手続きまで構築する必要があります。そのため、金融システム開発の実績を持つ企業には、初期構築後も保守や機能追加を受注できる余地があります。導入社名と契約形態の開示が次の確認材料です。
アステリアは企業向けのJPYC入出金管理サービス「JPYC Gateway」を展開しています。公表された標準プランは月額基本料9万8000円、送金手数料は1件8円です。具体的な料金が示されているため、契約企業数と送金件数から事業規模を考えやすい点が特徴です。
同社の既存データ連携ソフトと組み合わせれば、企業の会計、販売管理、経費精算とJPYCを接続できます。ステーブルコインを保有するだけでなく、日常業務の中で自動送金や入金照合に使えるかが競争力になります。
加盟店決済と大手顧客基盤のネットワーク効果
店舗決済では、ネットスターズが2026年7月に「Stablecoin Pay」の提供を始めました。複数のステーブルコインを一度の申請で導入でき、手数料率は0.98%としています。同社は既存のマルチ決済サービス「StarPay」に機能を追加できるため、加盟店開拓をゼロから始める必要がありません。
ネットスターズの収益は、対応店舗数に加え、実際の決済回数と取扱高に左右されます。サービス提供開始は重要な一歩ですが、利用者がウォレットを用意する手間や、店舗側の返金・会計処理を含め、既存決済より便利であることを示す必要があります。
デジタルガレージはJCB、りそなホールディングスと、実店舗におけるステーブルコイン決済の社会実装を進めています。同社グループが決済基盤とブロックチェーン技術を提供し、JCBが加盟店決済の知見、りそなグループが金融顧客基盤を持ち寄る構図です。
JCBが公表するネットワークは全世界で1億7500万以上の会員と約7100万店の加盟店に達します。ただし、既存の全加盟店がそのままステーブルコインに対応するわけではありません。決済端末の変更を抑え、店舗には法定通貨で精算するなど、既存業務への影響を小さくできるかが普及の鍵です。
デジタルガレージは電子決済手段等取引業などのライセンス取得を予定し、交換・精算機能の提供を目指しています。計画段階から登録完了、サービス開始、加盟店獲得へ進めば、決済代行事業の新たな取扱高として評価しやすくなります。
KDDIはau PAYアプリ上で利用できるウォレットを提供し、PontaポイントからJPYCなどへの交換、保有する資産からau PAY残高へのチャージに対応しました。ポイント、ウォレット、既存加盟店を接続し、利用者がブロックチェーンを意識せずに試せる導線です。
Pontaポイントからの交換上限は月300ポイントであり、現段階では収益規模より利用体験の検証という性格が強いとみられます。それでも、大規模な通信顧客基盤からステーブルコインへ利用者を誘導できる点は、専門事業者にはない優位性です。
累計発行額と業績寄与を分けるKPI
JPYCは2026年9月18日時点で累計発行額100億円を突破しました。企業利用、外部ウォレット、実店舗、ポイント、Web3サービスなど利用経路が広がっており、国内市場が実証だけではなく発行・償還を伴う段階へ進んだことを示しています。
ただし、累計発行額は過去に発行された総額であり、現在の流通残高、決済取扱高、発行会社の売上高とは異なります。発行後に償還されたコインも累計値には含まれるため、100億円を関連企業の事業収入と同一視することはできません。
投資家が確認すべきKPIは、期末流通残高、月間決済額、アクティブなウォレット数、法人契約数、1社当たり取引件数、発行・償還手数料です。決済基盤企業では加盟店数だけでなく、店舗当たりの取扱高と継続率が重要になります。
出資先がステーブルコインを発行しているだけの銘柄は、評価益や将来期待が先行しやすい一方、本業への利益貢献を測りにくい特徴があります。自社製品の料金、受注、決済手数料まで示している企業ほど、材料の持続性を検証しやすいといえます。
商用化前に点検したい規制・採算・需給リスク
最初のリスクは不正利用です。金融活動作業部会は、ステーブルコインと利用者自身が秘密鍵を管理するアンホステッド・ウォレットについて、マネーロンダリングなどへの悪用事例が増えていると指摘しています。本人確認、取引監視、制裁対象アドレスの検知には継続的な費用がかかります。
第2は採算性です。低い手数料は加盟店を獲得する武器になりますが、取扱高が増えなければ利益を確保できません。法定通貨との交換、ネットワーク利用料、不正対策、顧客対応、返金処理まで含めた単位当たり採算を見る必要があります。
第3は技術の分断です。同じ円建てでも、利用するブロックチェーンやウォレットが異なれば、相互移転には追加システムが必要です。クロスチェーン接続は利便性を高める半面、スマートコントラクトの欠陥や秘密鍵の流出など、障害点も増やします。
第4は銀行預金との競合です。企業の資金がステーブルコインへ移れば、銀行の預金や既存送金手数料に影響する可能性があります。新サービスの収入だけでなく、従来事業からの置き換えを差し引いて評価しなければなりません。
株式市場では「実証開始」「基本合意」「技術協力」が同じテーマ材料として扱われがちです。しかし、基本合意から商用契約へ進まない案件もあります。株価が先行した局面では、契約金額や利用量が未開示であること自体をリスクとして織り込む必要があります。
投資家が次の決算まで追うべき三つの確認事項
第一の確認事項は、3メガバンクが掲げる2026年度中の実取引です。実施日だけでなく、利用企業、取引通貨、反復利用の予定、法定通貨への償還方法まで開示されれば、商用化の完成度を判断できます。
第二は関連企業の売上開示です。TIS、Speee、シンプレクス、アステリアなどについて、受注高、契約社数、継続課金、保守収入が示されるかを確認します。ネットスターズやデジタルガレージでは、加盟店数より決済取扱高が重要です。
第三は制度と安全性です。必要な登録の取得、監査体制、裏付け資産の管理、ウォレット事故への対応を追う必要があります。普及局面ほど不正利用対策の弱い事業者は淘汰され、金融実務と技術の両方を持つ企業へ案件が集中しやすくなります。
ステーブルコイン関連株の本命は、発表件数の多い企業とは限りません。実取引から利用料を得られる企業、金融機関の基盤構築を受注できる企業、既存顧客へ低コストで展開できる企業を優先し、テーマ性と利益貢献を分けて評価する姿勢が欠かせません。
参考資料:
- 暗号資産・電子決済手段関係|金融庁
- 決済高度化プロジェクト第1号支援案件|金融庁
- 複数銀行による共同発行とクロスボーダー決済実証|三菱UFJ銀行
- 3行共同発行ステーブルコインの実取引開始方針|三菱UFJ銀行
- 有価証券の権利移転とステーブルコイン決済の実証|金融庁
- ステーブルコイン等を活用した資本業務提携|SBIホールディングス
- JPYCの累計発行額100億円突破|JPYC
- 2026年3月期決算説明資料|TIS
- JPYC GatewayとOpenloopの業務提携|アステリア
- 三菱UFJ銀行への技術アドバイザリー開始|Speee
- 発行・償還システムSimplex Stablecoin|シンプレクス
- 店舗向けStablecoin Payの提供開始|ネットスターズ
- JCB、りそなとのステーブルコイン決済協業|デジタルガレージ
- au PAYアプリ上の暗号資産ウォレット|KDDI
- ステーブルコインとアンホステッド・ウォレットに関する報告|金融庁
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