デイトレ.jp
デイトレ.jp

米13Fで読むAI相場、テッパーとドラッケンミラーの次の布石

by 柴田 慎一
URLをコピーしました

13Fに映るAI相場の成熟度と資金移動

米国株のAI相場は、NVIDIA一社の成長物語から、クラウド、メモリー、半導体製造、電力、データセンター運営へ広がる段階に入っています。2026年8月14日に提出された直近の13Fは、6月30日時点の保有状況を示すため、足元の売買そのものではありません。それでも、著名マクロ投資家がどの層に資金を置いたかを読むには重要な資料です。

今回注目するのは、デビッド・テッパー氏のAppaloosa LPと、スタンレー・ドラッケンミラー氏のDuquesne Family Officeです。両者はともにAI関連の成長を見ていますが、ポートフォリオの置き方は対照的です。テッパー氏はAI供給網の中核を厚くし、ドラッケンミラー氏はAIの恩恵が次に波及する分野へ資金を分散させています。

13Fは運用額1億ドル以上の機関投資家に義務付けられた四半期報告で、提出期限は四半期末から45日以内です。対象は主に米国上場株や一部オプションで、空売り、現金、海外市場の直接保有は見えません。したがって、この記事では13Fを売買シグナルではなく、相場観の輪郭を映す資料として扱います。

テッパーが厚くしたAI供給網の中核

Appaloosa LPの2026年4〜6月期13Fは、27件、報告ベースで約77.25億ドルの保有を示しました。最大保有はAmazonで、500万株、約11.92億ドルです。次いでMicron Technologyが97.5万株、約11.25億ドル、TSMCが165万ADR、約7.88億ドル、Alphabetが185万株、約6.54億ドルと続きます。上位だけを見ても、クラウド、メモリー、ファウンドリー、広告・AIモデル配信が一体で買われています。

前四半期との比較では、Amazonは432万株から500万株へ増加しました。TSMCも132.75万ADRから165万ADRへ増え、Meta Platformsは43.65万株から67.5万株へ引き上げられています。NVIDIAは147.15万株から152.5万株へ小幅増です。一方でMicronは166.5万株から97.5万株へ減少し、AlibabaやQualcommも圧縮されました。全体像は単純な強気一辺倒ではなく、上昇した銘柄で利益を確保しながら、AI供給網の複数層を残す構図です。

Amazonを軸にしたクラウド回収力

テッパー氏の最大保有がAmazonである点は、AI相場の見方をよく表しています。AIインフラの初期局面ではGPUや半導体装置が主役になりましたが、投資回収の段階ではクラウド事業者が重要になります。Amazonの2026年4〜6月期10-Qでは、同四半期の現金ベース設備投資が531億ドル、上半期では963億ドルに達しました。会社側は、その多くがAWS成長を支える技術インフラ投資だと説明しています。

同じ四半期のAWS営業利益は166.21億ドルで、前年同期の101.60億ドルから大きく増えました。これは、AI向けインフラ投資が費用だけでなく、収益機会としても評価され始めていることを示します。AppaloosaがAmazonを最大ポジションに置く意味は、AIブームの「設備を売る側」だけでなく、「計算資源を継続的に貸す側」への賭けでもあります。

AlphabetとMetaの保有も同じ文脈で読めます。両社は検索、広告、SNS、動画といった巨大なユーザー接点を持ち、AI機能を既存サービスに組み込みやすい立場です。生成AIモデルそのものの勝者を当てるより、AIを配信し、課金し、広告効率や利用時間に変える企業を押さえる発想です。

半導体製造と電力に広げた包囲網

AppaloosaのAI関連保有で目立つのは、半導体の層の厚さです。Micron、TSMC、NVIDIAに加え、ASML、Lam Research、AMD、Broadcom、Qualcommが並びます。さらにCoreWeaveの新規保有も入りました。これは、AI投資をGPU単体ではなく、メモリー、先端製造、製造装置、ASIC、AIクラウドまで含めた供給網として見ていることを示します。

この見方は企業業績とも整合します。NVIDIAの2027年度第2四半期売上高は962億ドル、データセンター売上高は890億ドルに達しました。Broadcomも2026年度第3四半期にAI半導体売上高167億ドルを計上し、前年同期比で大きく伸びました。Micronはクラウドメモリーとコアデータセンター向け事業の収益性が急改善しており、AIサーバーでメモリーの価値が高まっていることが確認できます。

同時に、VistraとNRG Energyの保有も重要です。AIデータセンターは半導体だけで動くわけではなく、大量の電力、送電接続、冷却設備を必要とします。Goldman Sachs Researchは、世界のデータセンター電力需要が2025年比で2030年までに170%増える可能性を示し、米国の一部地域では接続遅延が長期化していると指摘しています。テッパー氏の保有は、AIの勝者をチップ銘柄だけでなく、電力制約を緩和する側にも広げている点が特徴です。

一方で、Appleのプットオプションを組み入れた点は、熱狂への警戒を示します。Appaloosaの13Fカバーページは、AppleとBerkshire Hathawayのオプション表示額が原資産株式ベースであり、オプション自体の価値ではないと注記しています。大型ハイテクを保有しながら、別の大型株には下方向の保険を置く。この組み合わせに、マクロ投資家らしい温度管理が見えます。

ドラッケンミラーが選ぶ次の成長領域

Duquesne Family Officeの2026年4〜6月期13Fは、95件の保有を示しました。Appaloosaよりも銘柄数が多く、AI関連だけに集中しているわけではありません。最大保有は遺伝子検査のNateraで、318.63万株、報告額は約8.65億ドル相当です。Insmed、NewAmsterdam Pharma、Revolution Medicinesなど医療・バイオ関連も多く、AI相場の外側にある成長テーマを大きく組み込んでいます。

ただし、AIから離れたわけではありません。TSMCは49.53万ADRから58.97万ADRへ増え、STMicroelectronicsも261.29万株から310.29万株へ増えました。Amazonは普通株が4.58万株から54.16万株へ急増し、コールオプションも20万株相当から45.93万株相当へ拡大しています。Alphabetは33.63万株の新規保有となり、AMDも7.29万株で入りました。

反対に、Broadcom、Intel、Micronは13F上から姿を消し、Arm Holdingsは10.67万ADRから2.81万ADRへ減りました。これはAI否定ではなく、第一波の中心だった半導体銘柄の一部を外し、AI需要の次の波が及ぶ分野へ移した動きと読めます。高く評価された銘柄を追い続けるより、利益成長の受け皿がどこへ移るかを先に探る姿勢です。

GPU本丸から周辺勝者への視線

Duquesneの13FにはNVIDIAの保有が見当たりません。AI相場の象徴をあえて外し、TSMC、STMicroelectronics、AMD、Seagate Technology、SanDisk、Palo Alto Networks、Rambusなどに分散する構図です。GPUそのものより、製造能力、ストレージ、セキュリティ、メモリー周辺、クラウド需要の受け皿を重視しているように見えます。

この見方は、AI投資の重心が学習用GPUの争奪から、推論、データ管理、ネットワーク、セキュリティへ広がる可能性を織り込んだものです。AIサービスが実用化されるほど、モデルを動かすクラウド、データを保存するストレージ、企業利用を守るセキュリティ、電力効率の高い半導体が必要になります。NVIDIAの成長が続いても、その周辺に利益が広がるなら、別の銘柄群にも投資機会が生まれます。

Broadcomを外した点も興味深いところです。同社はAI半導体売上高を大きく伸ばしており、業績面では強い銘柄です。それでもDuquesneが保有を落としたなら、好材料そのものではなく、株価にどこまで織り込まれたかを重視した可能性があります。マクロ投資では、良い会社と良い投資タイミングは必ずしも一致しません。

医療と素材に分散した成長オプション

ドラッケンミラー氏の保有で最も大きいNateraは、AIインフラとは直接関係しません。Insmed、NewAmsterdam Pharma、Nuvation Bio、Revolution Medicinesなども同様です。これらは医療技術、診断、医薬品開発の進展に賭ける銘柄群であり、AI設備投資サイクルの失速に対する分散にもなります。

同時に、Brazil ETF、YPF、Southern Copper、Alcoa、JBSなど、資源・新興国・実物経済に関わる銘柄も散見されます。AIデータセンターの建設は、電力、銅、鉄鋼、冷却、建設、エネルギー供給に波及します。Duquesneのポートフォリオは、AI相場をテクノロジーだけでなく、実物経済の投資循環として捉えている可能性があります。

これは日本株を見るうえでも示唆があります。米国のAI相場が半導体設計から製造装置、電力設備、素材、データセンター運営へ広がるなら、日本の半導体製造装置、電子部材、電力インフラ関連にも連想が及びます。ただし、米国著名投資家の13Fは日本株を直接映しません。日本市場では、受注、稼働率、為替、電力コストを別途確認する必要があります。

13F分析で見落としやすい相場の盲点

13Fを読むときの最大の落とし穴は、見えているものをポートフォリオ全体だと考えてしまうことです。13Fは主に米国上場株のロング保有を示す資料で、空売り、先物、現金、海外市場の直接保有、非上場投資の多くは分かりません。さらに最大45日の遅れがあるため、公開時点で保有が変わっている可能性があります。

オプションの扱いにも注意が必要です。AppaloosaのAppleプットのように、表示額が原資産株式ベースで示される場合があります。これを普通株の買いと誤読すると、投資家の見方を逆に解釈してしまいます。13Fは、銘柄名だけでなく、PUT、CALL、株数、前四半期との変化を確認して初めて意味を持ちます。

AI相場そのものにも盲点があります。NVIDIA、Broadcom、Micron、TSMCの業績は強い一方、クラウド各社の設備投資は急拡大しています。Amazonの上半期現金ベース設備投資は963億ドルで、その多くはAWS成長を支えるインフラ投資です。需要が続けば大きな収益源になりますが、利用率や価格、電力接続が想定を下回れば、利益率への圧力にもなります。

電力制約も無視できません。IEAは2026年の報告で、データセンター投資の急増とAIモデル能力の進展が、電力需要、供給網、エネルギー安全保障に与える影響を検証しています。AI相場の次のリスクは、チップ不足だけではありません。送電網、発電容量、地域住民の反発、資金調達コストが、データセンター建設の速度を左右します。

個人投資家が追うべきAI循環の確認軸

テッパー氏とドラッケンミラー氏の13Fから見える結論は、AI相場が終わったということではありません。むしろ、勝負の場所が広がったということです。テッパー氏はAmazon、Micron、TSMC、NVIDIA、CoreWeave、電力株で供給網を押さえました。ドラッケンミラー氏は、AI周辺を残しながら医療、資源、新興国へ成長オプションを広げました。

個人投資家が確認すべきは、著名投資家の銘柄をそのまま追うことではありません。まず、ハイパースケーラーの設備投資が継続するか。次に、HBMや先端DRAMの需給が崩れないか。さらに、TSMCや製造装置企業の受注、電力会社の需要見通し、データセンター接続の進捗を点検することです。

次の13Fでは、AI半導体の保有がさらに増えるのか、クラウドや電力へ移るのか、あるいは医療や素材の比重が上がるのかが焦点になります。AI相場を一つのテーマ株物語として見る段階は過ぎました。今後は、資本支出、電力、半導体供給、収益化の順番を追うことが、相場の温度を測るうえで欠かせません。

参考資料:

柴
柴田 慎一

海外市場・米国株

米国株・欧州株を中心に海外市場の動向を分析。グローバルな資金フローと各国の金融政策が日本市場に与える影響を追う。

関連記事

AI相場再開で浮上する推論・電力・ロボ関連の本命株最新選別法

9月FOMCの利上げ通過後、米AI株は推論・ASIC・HBM・電力インフラへ物色を広げています。NVIDIA、AMD、Broadcom、Vertivなどの決算数値を基に、GPU一極集中後の資金循環、電力制約、フィジカルAIの成長余地、大化け候補の見極め方を市況・テクニカル目線で深く立体的に読み解く。

AI投資の中心地は半導体か電力か、13Fで読む二つの世界地図

2026年1〜3月期の13FからドラッケンミラーとテッパーのAI投資を比較。TSMC、Amazon、Micron、NVIDIA、電力株の配分差を手がかりに、半導体供給網、クラウド収益、電力制約、地政学リスクが描く二つの世界地図を読み解き、個人投資家が次の決算と13Fで確認すべき論点を具体的に整理する。

AIバブル論を分ける米国株とNVIDIA決算の設備投資回収条件

AIバブル論と肯定論が割れる理由は、技術の真偽ではなく設備投資を何年で回収できるかにあります。NVIDIA決算、クラウド大手のAI投資、SpaceX上場後の需給、電力制約を照合し、半導体、データセンター、生成AIソフトの利益配分がどこで変わるか、米国株投資家が見るべき収益化と下振れリスクの条件を解説。

アーム決算で株価乱高下、AIインフラ需要の実力と供給制約を読む

アームの2026年3月期第4四半期は売上高14.9億ドル、調整後EPS0.60ドルと市場予想を上回りました。Arm AGI CPUの需要は27-28年度で20億ドル超に拡大した一方、供給確保とスマホ市場の弱さが株価の重荷です。ライセンス、ロイヤルティ、データセンターCPUを分け、AIインフラ相場の評価軸を解説。

最新ニュース

星野リゾート・リート、経常利益上方修正と分配金減額の真相を解説

星野リゾート・リート投資法人は2026年10月期の経常利益予想を39億7100万円へ1.1%引き上げる一方、利益分配金を1口6341円へ359円減額した。ところが利益超過分配を含む総額は7197円。会計と税務のずれに注目し、グランドプリンスホテル大阪ベイの特別損失と、2期通算の分配維持策を読み解く。

オキサイド最終益2.2倍へ上方修正、最高益予想を支える成長力

オキサイドが2027年2月期の最終利益予想を5億9700万円から13億2800万円へ2.2倍に上方修正しました。半導体用単結晶・深紫外レーザの伸長、データセンター向けファラデー回転子、粗利率改善が業績を押し上げる一方、特別利益や大型投資、ヘルスケア事業の原料高をどう評価すべきか、投資判断の論点を読み解きます。

島根銀行59.8億円赤字転落、有価証券売却と100億円増資の焦点

島根銀行が2027年3月期の連結最終損益を2.7億円の黒字から59.8億円の赤字へ下方修正。約600億円の有価証券売却で約65億円の損失を計上する一方、SBI新生銀行から優先株で100億円を調達します。自己資本比率の改善効果、潜在希薄化、本業収益と信用コスト、年間配当維持の妥当性を財務面から読み解きます。

エージェンティックコマース関連株、AI購買時代の国内本命を探る

AIエージェントが商品検索、比較、注文、決済を代行するエージェンティックコマースが実装段階に入った。2030年に世界で最大5兆ドルを仲介するとの予測を踏まえ、デジタルガレージ、GMOペイメントゲートウェイ、ZETAなど国内関連株の事業接点、収益化の条件、規格競争とセキュリティーの壁、投資判断の着眼点までを読み解く。

大末建設が経常最高益へ上方修正、配当234円の持続力を徹底検証

大末建設は2027年3月期の連結経常利益予想を69.4億円へ引き上げ、前期比5.0%増の最高益更新を見込む。年間配当も234円へ増額。工事採算改善と物価上昇分の価格転嫁、豊富な繰越工事高を確認する一方、下期の利益計画、運転資金、人手不足を点検。過年度の予想修正との比較も交え、増益と高配当の持続性を財務面で読み解く。