AI投資の中心地は半導体か電力か、13Fで読む二つの世界地図
13Fが映すAI相場の二つの中心地
2026年1〜3月期の米国13Fは、AI相場の見方が一枚岩ではないことを示しています。スタンレー・ドラッケンミラー氏のデュケーヌ・ファミリー・オフィスは、巨大テックよりも半導体製造、素材、新興国へ視線を広げました。一方、デビッド・テッパー氏のアパルーサは、Amazon、Micron、TSMC、電力株を通じて、AI需要の収益化が進む場所へ資金を寄せています。
13Fは四半期末から最大45日遅れで公表され、空売りや債券、米国外上場株の多くは見えません。それでも、長期で高い実績を持つマクロ投資家が、AIをどの国・業種・バリューチェーンで捉えたかを読むには有効です。本稿では、二人の保有明細を「AI革命の中心地」を探す地図として分解します。
ドラッケンミラーが選んだ半導体供給網
巨大テックから製造能力への重心移動
デュケーヌの2026年1〜3月期13Fは、報告対象70件、総額約33.8億ドルでした。最大保有は遺伝子検査のNateraで、AI関連に限ればTSMC、Broadcom、STMicroelectronics、Intel、Micron、Arm、Celestica、Jabilなど、半導体と製造請負の周辺に分散した構図が目立ちます。TSMCは約1.67億ドルで上位に残る一方、Broadcomは約6065万ドルの新規保有として確認できます。
この配分で重要なのは、AIを「アプリの勝者」ではなく「計算能力の供給制約」として見ている点です。Google親会社AlphabetのクラスA株は全売却となり、Amazon普通株も大きく縮小しました。生成AIの利用企業を広く買うより、AIモデルを動かすためのチップ、先端パッケージング、光通信、製造能力を押さえる銘柄を選別した形です。
NVIDIAの2027年度第1四半期決算では、売上高が816億ドル、データセンター売上高が752億ドルに達しました。AIチップ需要が一社の決算をここまで押し上げる局面では、周辺サプライヤーも連動しやすくなります。ただしデュケーヌはNVIDIAそのものに大きく張るというより、TSMCやBroadcomなど、需要が広がるほど交渉力を持つ供給側に照準を合わせています。
ブラジル・アルゼンチン・素材に伸びるAIの外周
もう一つの特徴は、AI関連を半導体だけで閉じていない点です。デュケーヌはiShares MSCI Brazil ETFや同ETFのコール、YPF、Global X MSCI Argentina ETF、Alcoa、Southern Copperなども組み入れています。YPFは前四半期比で大幅増、Alcoaも増加となりました。これはAIデータセンターの拡大が、電力、送電網、アルミ、銅、エネルギー資源を巻き込むという読みと整合します。
TSMCの年次報告では、AI関連需要が2025年を通じて強かったこと、2026年も先端技術と先端パッケージングの需要が続く見通しであることが示されています。同社は米アリゾナ、日本の熊本、ドイツのドレスデンで生産体制を広げ、台湾では2ナノ関連の投資も進めています。半導体はもはや一企業の設備投資ではなく、国家の産業政策と地政学の交点です。
ドラッケンミラー氏の地図では、AIの中心はシリコンバレーだけではありません。台湾の先端製造、欧米の設計・装置、南米のエネルギーと素材が線でつながります。巨大プラットフォームの利益率を追うより、供給不足が続く領域を押さえるほうが、マクロ投資家らしい非対称性を見つけやすいという判断です。
テッパーが描くクラウドと電力の需要地図
AmazonとMicronに集中した利益回収の発想
アパルーサの13Fは、報告対象31銘柄、総額約59.3億ドルです。上位はAmazonが約9.00億ドルで15.16%、Micronが約5.63億ドルで9.48%、Alphabetが約4.97億ドル、Uberが約4.56億ドル、TSMCが約4.49億ドルでした。Amazon株は前四半期比で98.22%増、Uberは242.31%増、TSMCは17.48%増です。反対にAlibaba、Meta、Microsoft、KWEBなどは大きく削減されています。
テッパー氏の地図では、AIの中心は「使われるクラウド」と「不足するメモリー」です。Amazonの2026年第1四半期決算では、AWS売上高が前年同期比28%増の376億ドルとなりました。同社はAI投資を主因に有形固定資産購入が増え、過去12カ月のフリーキャッシュフローが12億ドルまで低下したとも説明しています。短期の現金創出力を犠牲にしても、クラウド上のAI需要を取りに行く段階です。
Micronへの厚い配分も同じ文脈で読めます。同社の2026年度第3四半期売上高は414.6億ドルに拡大し、クラウドメモリー部門とコアデータセンター部門が大きな収益源になりました。AIサーバーはGPUだけでなく、高帯域メモリー、DRAM、ストレージを大量に必要とします。NVIDIAを単独で追うより、メモリーの需給が締まる局面を狙うほうが、利益率の変化を取り込みやすいと見ている可能性があります。
電力株と韓国ETFが示すインフラ側の確信
アパルーサの上位にはVistraとNRG Energyも入っています。Vistraは約3.04億ドル、NRGは約2.53億ドルで、電力株だけでポートフォリオの一角を占めます。国際エネルギー機関は、AIの普及でデータセンターの電力需要が2030年にかけて大きく増えると分析しています。AIを動かすにはGPUだけでなく、安定した電力、冷却、送電容量が必要です。
韓国株ETFのEWYを約2.95億ドル保有している点も見逃せません。韓国はメモリー、電池、電子部品の供給網を持ち、AI投資の波及先として位置づけやすい市場です。TSMCを個別で保有し、Micronを厚くし、EWYでアジアの供給網にも触れる構成は、米国クラウド需要と東アジア半導体供給を一体で見る発想です。
TSMCの2026年第2四半期実績では、米ドル建て売上高が402億ドル、粗利益率が67.7%でした。第3四半期売上高は446億〜458億ドルのレンジが示されています。需要側のAmazonと供給側のTSMCが同時に強い数字を出している間、アパルーサの地図は説得力を持ちます。利益がクラウド、メモリー、電力へ広がるなら、AI相場はNVIDIA一社のテーマからインフラ全体のテーマへ変わります。
輸出規制と電力制約が揺らす勝ち筋
二つの地図に共通する弱点は、AI投資の勝ち筋が政策と設備制約に左右されることです。米商務省産業安全保障局は2025年5月、AI Diffusion Ruleを撤回する一方で、海外でのAIチップ利用や中国向け先端半導体の迂回リスクに関する統制を強める方針を示しました。NVIDIAも2027年度第2四半期見通しで、中国向けデータセンター計算売上を織り込んでいないと説明しています。
TSMCを中心に読む地図は、台湾海峡リスクや輸出管理の変更に敏感です。AmazonやMicronを中心に読む地図は、クラウド投資が将来の収益に変わる速度と、メモリー市況の反転に左右されます。電力株も、データセンター契約が長期化するほど魅力は増しますが、発電燃料、規制、送電網投資、金利の影響を受けます。
さらに13Fには構造的な遅れがあります。SECのスケジュールでは、2026年第2四半期分の13F提出期限は2026年8月14日です。本稿で見ている保有は2026年3月31日時点であり、8月上旬の相場観そのものではありません。投資家は著名投資家の売買を結論として追うのではなく、次の保有変化と企業決算の整合性を確認する必要があります。
次の13Fで確認したい三つの変化
AI相場を読むうえで、次に見るべき点は三つあります。第一に、デュケーヌがTSMC、Broadcom、素材・新興国の組み合わせを維持するかです。第二に、アパルーサがAmazon、Micron、電力株をさらに厚くするか、それとも利益確定へ動くかです。第三に、NVIDIA、TSMC、Amazon、Micronの決算で、設備投資と売上成長の差が縮まるかです。
二人の13Fは、AIの中心地が一つではないことを教えています。ドラッケンミラー氏は供給網と地政学の地図を描き、テッパー氏はクラウド収益と電力需要の地図を描きました。個人投資家に必要なのは、どちらかを模倣することではありません。AIの利益が、半導体、クラウド、メモリー、電力、素材のどこへ移っているかを四半期ごとに検証する姿勢です。
参考資料:
- Duquesne Family Office LLC 13F-HR Primary Document - SEC EDGAR
- Duquesne Family Office LLC 13F Information Table - SEC EDGAR
- APPALOOSA LP 13F-HR Filing Text - SEC EDGAR
- Duquesne Family Office LLC Q1 2026 13F Holdings - 13F.info
- APPALOOSA LP Q1 2026 13F Holdings - 13F.info
- Duquesne Family Office LLC 13F Portfolio - Giantsight
- David Tepper - Appaloosa Management Portfolio - Amsflow
- David Tepper - Appaloosa Management 13F Portfolio Holdings - InsiderSet
- Amazon.com Announces First Quarter Results
- NVIDIA Announces Financial Results for First Quarter Fiscal 2027
- Micron Technology Reports Third Quarter Fiscal 2026 Results
- TSMC 2026 Q2 Quarterly Results
- TSMC 2025 Annual Report
- Energy and AI - IEA
- Department of Commerce Announces Rescission of AI Diffusion Rule - BIS
- Frequently Asked Questions About Form 13F - SEC
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