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AI電力危機で浮上するSiC半導体関連株、本命と死角を徹底分析

by 斎藤 裕也
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AIデータセンター電力危機とSiC浮上の背景

AI投資の焦点がGPUの確保から電力供給へ広がっています。国際エネルギー機関(IEA)は、世界のデータセンター電力消費量が2025年の485TWhから2030年に950TWhへほぼ倍増し、AI向け施設の消費量は同期間に約3倍になるとの中心予測を示しました。

日本でも、一定規模以上の事業者が2029年度以降に新設するデータセンターに対し、稼働開始後のPUEを1.3以下とする基準が設けられました。SiCはAIの計算処理を担う半導体ではありませんが、送配電からサーバーまでの変換損失と発熱を減らす部品です。AIインフラの制約が「演算能力」から「使える電力」へ移るほど、存在感が高まる構図です。

800V直流給電が開くSiCの採用領域

高電圧・高密度化とSiCの材料優位

SiCは炭化ケイ素を用いたワイドバンドギャップ半導体です。従来のシリコン製パワー半導体と比べ、高い電圧や温度に耐えやすく、電流をオン・オフする際の損失を抑えやすい特徴があります。高速スイッチングによって周辺のコイルやコンデンサーも小型化できるため、限られたラック内に大きな電力を供給する用途と相性が良好です。

データセンターでは、電力会社から受けた交流を整流器や無停電電源装置で変換し、配電盤、電源ユニット、バッテリーバックアップユニットを経てGPUへ届けます。変換のたびに一部が熱へ変わるため、損失を減らせば消費電力だけでなく、発生した熱を排出する冷却設備の負担も軽くできます。

NVIDIAが推進する800V直流給電は、この電力経路を大幅に組み替える構想です。同社は100kWから1MW超のラックに対応し、従来の54V方式に比べ電力供給全体の効率を最大5%改善できると説明しています。同じ太さの導体で送れる電力を85%増やし、銅の使用量を45%減らせる点も、高密度化を支える要素です。

ただし、800V化だけで電力問題が解決するわけではありません。高電圧直流には遮断、安全規格、保守人材などの新たな課題があります。SiCの投資機会は単なる材料置換ではなく、データセンターの電源設計そのものが変わる過程にあります。

PSU・BBU・UPSでの実装拡大

採用が先行しているのが、AIサーバーのBBUです。ロームは2026年5月、750V耐圧のSiC MOSFETがAIサーバー向けBBUに採用されたと発表しました。対象製品は±400Vの電力供給構成に搭載され、次世代800V直流給電でも利用できる設計です。テーマへの期待だけでなく、具体的な採用実績が確認できる点が重要です。

海外勢も開発を急いでいます。Infineonは2026年6月、650Vと1200VのSiCを用いた24kWの高電圧BBUリファレンスデザインを発表しました。電力密度は450W/立方インチ、変換効率は99%超としています。競合の製品化は市場の立ち上がりを示す一方、日本メーカーにとっては価格と性能の両面で競争が激しくなる材料です。

施設側ではUPSも有力用途です。EatonはSiCを利用したデータセンター向けUPSについて、従来機に比べ電力密度を40%高め、省エネ運転時に99%の効率を実現すると説明しています。高効率化で装置が小さくなれば、同じ建屋に置ける演算装置を増やせるため、電気料金の削減以上の経済効果が生まれます。

一方、GPU自体が生み出す熱はSiCだけでは減りません。SiCが軽減するのは主に電力変換時の損失であり、冷却塔、空調、液冷設備、サーバー稼働率を含む施設全体の最適化が不可欠です。「SiCを使えば冷却問題も解決する」と見るのは行き過ぎで、電源経路における重要な改善策の一つと捉えるべきです。

業績寄与の距離で選ぶ国内SiC関連株

SiC関連株は、デバイスを販売する企業、基板材料を供給する企業、製造装置を納める企業に分かれます。同じテーマでも、AIデータセンターの増設が売上高へ届くまでの距離は異なります。銘柄名よりも「どの工程で、誰の投資から収益を得るか」の確認が欠かせません。

直接受益に近い三銘柄の比較

企業コードAI・SiCとの接点決算での確認項目
ローム6963AIサーバー向けBBUへのSiC MOSFET採用、ウエハーからパッケージまでの一貫生産AIサーバー向け量産売上、SiC事業利益、工場稼働率
三菱電機6503データセンター電源へのSiC適用、800V配電・蓄電・冷却を含むシステム展開SiCの新規採用、データセンター関連受注、システム売上
富士電機6504SiCの生産能力増強、UPSや産業用電源、データセンター向け半導体需要SiC売上高、半導体利益率、産業向けと電装向けの構成

最も直接性が高いのはロームです。採用された750V製品に加え、SiC、GaN、シリコン、アナログICを組み合わせて電源全体を提案できます。ただし、前中期計画では需要変化への対応が遅れ、設備投資と在庫が過大になったと会社自身が総括しています。次の評価軸は技術発表の件数ではなく、SiC事業の収益化とキャッシュフローです。

三菱電機はSiCデバイス単体に加え、送配電、蓄電、空調まで提供できる点が強みです。2026年9月にはNVIDIAのVera Rubin NVL72などに対応する「Chip-to-Grid DSX」リファレンスデザインを公表し、415・480V交流に加えて800V直流配電にも対応する構想を示しました。AIデータセンター投資を半導体だけでなく、電源・冷却システムの受注へ広げられる可能性があります。

ただし、同社が2030年度に掲げる半導体・デバイス事業の売上高0.4兆円、調整後営業利益率20%という目標には、光デバイスなども含まれます。SiCだけの利益計画ではないため、データセンター電源への採用数や用途別売上の開示が必要です。

富士電機は2025年度にSiCの生産能力を前年度比2.5倍、売上高を約2倍にしました。一方、2026年度の半導体事業は売上高2,250億円、営業利益130億円を計画し、前年度の2,374億円、235億円から減収減益となる見通しです。データセンター向け需要とSiCの増加があっても、欧米の電装需要減少や原材料高を補えない構図であり、「需要増=即増益」ではないことを示しています。

上流材料・製造装置四銘柄の温度差

企業コードSiCでの役割投資上の位置付け
レゾナック・ホールディングス4004SiCデバイスの主要材料となるエピタキシャルウエハー出荷数量と販売価格、顧客認定の進捗が焦点
ディスコ6146SiCインゴットをレーザーで切り出すKABRA加工装置大口径化と材料ロス低減から恩恵
レーザーテック6920SiCウエハーの表面・内部欠陥を検査するSICA108歩留まり改善投資の増加が追い風
マイポックス5381SiCウエハーの研磨材、受託研磨、CMP加工商用受注を待つ先行開発色の強い位置付け

レゾナックはデバイスメーカーより上流に位置します。SiCエピタキシャルウエハーはパワー半導体の性能と歩留まりを左右するため、データセンター向けに限らず、EV、再生可能エネルギー、産業機器の需要を横断して取り込めます。一方、会社全体では化学品や先端半導体材料などの比率も大きく、SiC市場の伸びが連結利益へ与える影響は出荷量と価格次第です。

ディスコのKABRAは、硬く加工に時間がかかるSiCインゴットへレーザーで分離層を形成し、ウエハーとして剥離する技術です。8インチインゴットにも対応し、材料ロスと加工時間の削減を狙います。SiC価格が低下しても、メーカーが製造原価を下げる投資を続ければ装置需要を得られる点がデバイス企業との違いです。

レーザーテックのSICA108は、表面欠陥だけでなく結晶内部の基底面内転位や積層欠陥を検出します。SiCは欠陥が歩留まりや信頼性に直結しやすく、大口径化ほど検査の重要性が高まります。ただし、同社業績では先端半導体向け検査装置の影響が大きいため、SiC関連の受注を切り分けて見る必要があります。

マイポックスは12インチ対応CMPラインを稼働させ、12インチSiCウエハーの受託研磨にも対応するとしています。ただし、現時点では次世代規格への先行投資という性格が強く、技術対応と業績貢献は別物です。有償案件、設備稼働率、継続顧客の開示を待つ必要があります。

期待先行相場を崩し得る四つの投資リスク

第一は800V直流給電の普及時期です。NVIDIAは本格展開を2027年以降に想定していますが、安全規格、遮断機器、保守手順が整わなければ導入は遅れます。リファレンスデザインへの参加を量産売上と同一視できません。

第二は供給過剰と価格競争です。EV市場向けを想定して各社がSiC能力を増強してきたため、需要の立ち上がりが遅れると稼働率が低下します。ロームが過剰投資と在庫を前中計の課題に挙げ、富士電機が増産局面でも減益を計画する点は、この資本集約性を表しています。

第三は他材料との競合です。800V級の高電圧・大電力領域ではSiCが有力ですが、低い電圧帯では安価なシリコン、高速スイッチングではGaNが選ばれる場合があります。電源全体がSiCへ置き換わるのではなく、電圧、コスト、信頼性に応じた使い分けが進む公算が大きいでしょう。

第四はテーマと連結業績の距離です。ローム、東芝デバイス&ストレージ、三菱電機は2026年3月に事業・経営統合の協議開始で基本合意しましたが、発表時点で取引条件や具体的内容は未定です。統合効果を先に業績へ織り込むことはできず、事業範囲、出資比率、設備再編、追加負担の確認が必要です。

SiCによる効率改善が進んでも、AI利用の拡大がそれを上回れば、データセンター全体の電力消費は増え続けます。SiCは電力危機を一社で解決する「救世主」ではなく、拡大を可能にする重要部品です。この違いを見誤ると、長期的な市場成長と短期的な利益変動を混同することになります。

投資家が決算で確認すべき三つの実績値

最初に確認したいのは、サンプル出荷や設計採用から量産売上への移行です。AIサーバー向け、BBU向け、UPS向けと用途を明記した売上や受注が増えているかを追います。

次はSiC事業の採算です。売上高だけでなく、歩留まり、工場稼働率、粗利益率、設備投資、フリーキャッシュフローを並べることで、増収が企業価値へつながっているかを判断できます。

最後は800V直流給電の実装速度です。電源メーカーとの共同開発、顧客認定、量産開始時期、データセンター関連受注を継続して確認します。現段階では採用実績を持つローム、システムまで展開する三菱電機、増産と収益改善を同時に問われる富士電機を軸に、上流・装置株は受注の裏付けを見ながら評価する姿勢が有効です。

参考資料:

斎
斎藤 裕也

テーマ株・材料分析

テーマ株・材料株の発掘と分析を得意とする。企業の IR 情報と業界動向を結びつけ、投資家目線で銘柄の「次の一手」を読む。

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