日本製鉄が最終利益52%上方修正、USスチールが映す収益転換
52%上方修正を額面通りに読まない視点
日本製鉄は2026年11月5日、2027年3月期の親会社所有者帰属利益予想を2900億円から4400億円へ引き上げました。修正率は約52%です。2026年4〜9月期の同利益も2629億円となり、前年同期の1133億円の赤字から大幅な黒字へ転換しました。
ただし、今回の決算にはUSスチールの収益改善に加え、税額控除や前年の事業再編損の反動が含まれます。投資判断では最終利益の伸び率だけでなく、継続的に稼げる利益、国内外の収益構成、投資に伴う財務負担を切り分ける必要があります。
黒字転換と4400億円予想の利益構造
売上拡大と前年の再編損消失
上期の売上収益は前年同期比26.1%増の5兆8441億円、事業利益は35.1%増の3074億円でした。営業損益は前年同期の28億円の赤字から3074億円の黒字へ転換し、税引前利益も2470億円を確保しています。
増収の大きな要因は、2025年7月から連結対象となったUSスチールが、当期は上期を通じて寄与したことです。前年同期はUSスチールの連結期間が3カ月だったため、単純な前年同期比較には連結範囲による押し上げが含まれます。
また、前年同期には約2304億円の事業再編損が計上されていました。当期は同規模の損失がなく、営業損益と最終損益の黒字転換は、この反動によっても大きく見えています。前年の特殊要因が消えたことと、通常の事業活動が改善したことは分けて考えるべきです。
日本製鉄が実態的な収益力を示す指標として用いる「実力ベース連結事業利益」は、上期で3133億円でした。8月時点の会社予想を633億円上回ったものの、前年同期の3457億円と比べると約9%減っています。IFRS上の事業利益が増えていても、在庫評価差などを除いた利益は前年を下回る構造です。
一方、四半期ごとの方向は改善しています。実力ベース事業利益は4〜6月期の1084億円から、7〜9月期には2050億円へ増加しました。価格転嫁、コスト削減、USスチールの増益が、第2四半期から明確に表れた格好です。
上方修正1500億円の利益品質
通期予想では、売上収益を従来の11兆2000億円から11兆7000億円へ、事業利益を6300億円から7200億円へ引き上げました。実力ベース事業利益も7000億円以上から7700億円以上へ上方修正しています。
最終利益の修正額は1500億円です。このうち、USスチールのBig River 2電炉投資に関連するアーカンソー州の税額控除が961億円を占めます。単純計算では上方修正額の約64%に相当するため、4400億円をそのまま翌年度以降の利益水準とみなすことはできません。
税額控除は繰延税金資産として一括認識されますが、会社は2026年度中に現金効果が生じず、将来にわたって長期的に発現すると説明しています。会計上の利益が増える時期と、実際のキャッシュ流入の時期が一致しない点にも注意が必要です。
それでも、税額控除だけによる上方修正ではありません。実力ベース事業利益は700億円、在庫評価差などを含む事業利益は900億円引き上げられました。USスチールの操業改善と米国鋼材市況の上昇が、本業の利益予想にも反映されています。
年間配当予想は1株24円で据え置かれました。予想EPS84円に対する表面上の配当性向は約29%ですが、会社資料ではUSスチールの税額控除を除いた配当性向を36%程度としています。利益の上振れを全額還元せず、今後の大型投資と財務改善へ資金を残す姿勢が読み取れます。
USスチールが変える収益地域と財務戦略
2300億円へ膨らむ米国利益
USスチールとスロバキア事業を合わせた2026年度の実力利益予想は、従来の1800億円以上から2300億円以上へ引き上げられました。上期実績は990億円で、下期には1310億円を見込みます。通期7700億円に占める比率は約30%です。
地域別では、海外事業の実力利益予想が3900億円となり、国内事業の3800億円を上回ります。上方修正前の海外予想は3200億円だったため、今回の増額は実質的に海外事業が担いました。日本製鉄は国内中心の鉄鋼会社から、米国を主力収益源の一つとする企業へ変わりつつあります。
米国市場の追い風には一定の裏付けがあります。米鉄鋼協会によると、2026年1〜7月の米国鉄鋼出荷量は前年同期比5.3%増えました。世界鉄鋼協会も、2026年の米国鋼材需要を2.0%増と予測しています。
2026年1〜9月の粗鋼生産も、米国が前年同期比5.8%増だったのに対し、日本は0.3%減でした。米国ではデータセンター、電力、エネルギー関連の大型投資が鋼材需要を支えています。日本製鉄の経営陣も、米国鋼材価格の上昇は関税だけでなく、実需の強さが背景にあると説明しています。
収益改善は市況だけではありません。会社側はUSスチールの増益について、操業度の向上やシナジーなど自助努力も寄与したとしています。既存高炉の安定稼働とBig River 2の電炉能力を組み合わせられれば、市況が落ち着いた後も一定の利益を残せる可能性があります。
さらにUSスチールは、モンバレー製鉄所の新熱延設備に約30億ドルを投資します。年間生産能力を約220万トンから約350万トンへ拡大し、2029年後半の稼働を予定しています。短期的には資金負担ですが、歩留まりや品質、生産性の改善を通じ、米国事業の競争力を高める計画です。
国内採算の弱さと投資先行の負担
上期の国内事業の実力利益は1452億円で、前年同期の2579億円から大きく減りました。特に単独製鉄事業は前年同期の1366億円から137億円まで縮小しています。海外の増益が国内の採算悪化を補う構図が鮮明です。
国内では原燃料価格の上昇に対する価格転嫁の遅れに加え、台風や豪雨による出荷遅延、復旧費用が利益を圧迫しました。日本鉄鋼連盟も2026年度の国内鋼材需要を前年並みと見込み、自動車向けについては前年割れを予想しています。需要増だけに頼った利益回復は難しい環境です。
会社は下期の国内実力利益を2348億円と見込み、上期から約896億円の改善を計画しています。値上げの浸透、出荷遅れの回収、名古屋製鉄所の新熱延設備によるコスト改善が前提です。この改善幅が実現するかは、通期7700億円達成のもう一つの焦点となります。
財務面では投資先行の姿が強まっています。2026年9月末の社債・借入金・リース負債は合計約5兆4363億円となり、3月末から約2620億円増加しました。調整後D-Eレシオも0.71倍から0.73倍へ上昇しています。
現金及び現金同等物は4613億円から4149億円へ減少する一方、棚卸資産は約1722億円増えました。上期の金融費用も前年同期の399億円から831億円へ拡大しています。利益成長だけでなく、運転資金と利払い負担の管理が重要になっています。
2026年度の設備投資計画は1兆3800億円で、減価償却費7000億円の約2倍です。税額控除による会計利益が現金を直ちに増やさないなか、USスチールへの投資を進めるには、営業キャッシュフローと資産圧縮を確実に積み上げる必要があります。
下期4567億円達成を左右する四つの変数
第1の変数は米国鋼材市況です。世界鉄鋼協会は2026年の世界需要をほぼ横ばい、中国需要を2.0%減と予想する一方、米国には成長を見込んでいます。米国の供給規律や需要が崩れれば、2300億円のUSスチール利益予想にも下振れ余地が生じます。
第2は国内の価格転嫁、第3は原料価格と為替です。原料高は国内製鉄のコストを押し上げる一方、原料事業には増益要因となります。グループ全体では相殺効果があるものの、顧客との価格改定が遅れれば国内採算の回復時期は後ずれします。
第4は大型投資と財務規律の両立です。会社が見込む下期の実力利益4567億円は上期比で約1434億円多く、USスチールだけでなく国内の急回復も必要です。有利子負債、D-Eレシオ、金融費用がさらに増える場合、利益が計画通りでも株主還元や次の投資に使える資金は限られます。
投資家が次回決算で確かめたい三指標
今回の決算は、USスチール買収が収益面で成果を示し始めた点で重要です。ただし、52%の上方修正には961億円の一過性税額控除が含まれ、上期の実力利益は前年同期を下回りました。見出しの最終利益と、持続的な収益力を同一視しない読み方が必要です。
次回決算では、USスチールの2300億円計画に対する進捗、国内単独製鉄事業のマージン回復、有利子負債と現金残高の三つを確認したいところです。年間24円配当の継続性も、税額控除を除いた利益とキャッシュフローの双方から評価することが大切です。
参考資料:
- 日本製鉄 決算情報
- 日本製鉄 2027年3月期第2四半期決算短信
- 日本製鉄 2026年度第2四半期決算説明会資料 本編
- 日本製鉄 2026年度第2四半期決算説明会資料 参考資料
- 日本製鉄 2026年度第1四半期決算説明会資料
- 日本製鉄 2025年度決算短信
- Reuters 日本製鉄が通期利益予想を52%引き上げ
- 日刊産業新聞 日本製鉄決算会見要旨
- 日本製鉄 USスチールがモンバレー製鉄所への投資を決定
- American Iron and Steel Institute 米国鉄鋼出荷統計
- World Steel Association 2026年10月鋼材需要見通し
- World Steel Association 2026年9月世界粗鋼生産
- 日本鉄鋼連盟 2026年度の鉄鋼需要見通し
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