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セレス急騰の背景、ビットバンク売却益と増配の今後の投資評価軸

by 斎藤 裕也
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セレス買い集中が示す材料株相場の焦点

2026年6月26日の東京株式市場で、セレス(3696)に強い買いが入りました。Yahoo!ファイナンスの時系列では、25日の終値1,699円に対し、26日の終値は2,039円、出来高は25日の90,300株から1,383,400株へ膨らんでいます。終値ベースの上昇率は単純計算で20.0%です。

買い材料は明確です。セレスは6月25日取引終了後、持分法適用関連会社であるビットバンク株式の全株売却方針を公表し、同時に2026年12月期の純利益予想を16億円から59億円へ上方修正しました。年間配当予想も60円から90円に引き上げています。

ただし、この急騰は単なる好決算反応ではありません。営業利益と経常利益の予想は据え置かれ、上方修正の中心は関係会社株式売却益です。6月30日の取引で評価が続くかは、一過性利益への反応と、資本政策を含む中期的な企業価値評価を切り分けて見る必要があります。

ビットバンク売却益が変えた利益予想の意味

純利益59億円への修正幅

セレスが6月25日に公表した業績予想修正では、2026年12月期の売上高予想35,700百万円、営業利益2,800百万円、経常利益2,800百万円はいずれも据え置かれました。一方、親会社株主に帰属する当期純利益は1,600百万円から5,900百万円へ修正され、増加額は4,300百万円、増減率は268.8%です。1株当たり当期純利益も138.66円から509.71円へ大きく変わりました。

この修正の主因は、ビットバンク株式売却に伴う特別利益です。セレスは、SBIホールディングスの完全子会社SBICAH合同会社によるビットバンク株式取得などを前提に、ビットバンクが実施予定の自己株式取得を通じて保有株式の全てを売却する方針を示しました。売却対象は21,480株で、譲渡価額は約86億円です。これにより、連結決算で約55億円、個別決算で約68億円の関係会社株式売却益を見込んでいます。

前期2025年12月期の純利益は2,497百万円でした。今回修正後の5,900百万円は、前期実績に対して約2.4倍の水準です。株価が強く反応したのは、利益額の絶対水準だけでなく、特別利益の一部が株主還元に向かうと同時に示されたためです。材料株では、利益修正と還元強化が同日に出ると、短期資金が一気に集中しやすくなります。

営業利益据え置きが示す一過性

評価で注意したいのは、営業利益と経常利益が据え置かれている点です。セレス自身も、今回の業績予想修正は本取引に伴う関係会社株式売却益の影響のみを反映したものだと説明しています。つまり、主力事業の利益見通しがこの開示だけで上振れたわけではありません。

そのため、修正後PERだけを見て割安と判断するのは危うい面があります。Yahoo!ファイナンスの6月29日時点の参考指標では、会社予想PERは4.02倍、PBRは1.79倍、予想EPSは511.33円です。ただし、このEPSには特別利益が大きく含まれます。投資家が見るべきなのは、特別利益を除いた通常収益力と、売却資金がどの程度まで自己株買い、配当、成長投資へ効率的に配分されるかです。

一方で、営業面にも無視できない改善があります。4月30日に公表された2026年12月期第1四半期決算では、売上高9,521百万円、営業利益1,731百万円、経常利益1,561百万円、親会社株主に帰属する四半期純利益993百万円でした。営業利益は前年同期比101.2%増で、経常利益は342.8%増です。第1四半期時点で営業利益の通期予想に対する進捗率は61.8%に達しており、事業面でも一定の上振れ余地を感じさせる内容でした。

出来高急増に表れた短期需給

26日の株価反応は、需給面でも目立ちます。25日の終値1,699円に対し、26日の始値は2,002円、高値は2,095円、安値は1,972円、終値は2,039円でした。前日終値を大きく上回って始まり、その後も2,000円台を維持した点から、寄り付き後に利益確定売りだけで崩れた形ではありません。

6月29日も終値は2,054円と、26日終値から15円高で引けました。上方修正発表直後の急騰銘柄は翌営業日に値を消すことも多いですが、セレスの場合は少なくとも週明け29日時点では水準を保ちました。材料の即効性だけでなく、配当利回りや追加自社株買い期待が下支えになったと考えられます。

ただし、出来高が急増した局面では短期筋の参加も増えます。26日の出来高は前日比で約15倍に拡大しており、短期的な値幅取りと中期投資の資金が混在しています。6月30日以降は、2,000円台を定着させる買いが続くか、材料出尽くしの売りが優勢になるかを見極める局面です。

増配と自社株買いが映す資本政策の転換

90円配当予想が支える利回り目線

セレスは2026年12月期の年間普通配当予想を、1株60円から90円へ引き上げました。前期2025年12月期の年間配当は80円でしたが、その内訳は普通配当60円と特別配当20円です。今回の90円は普通配当予想として示されており、前期の記念的な特別配当を含む水準を上回ります。

Yahoo!ファイナンスの配当情報では、26日終値2,039円ベースの会社予想配当利回りは4.41%です。6月29日の終値2,054円ベースでも、単純計算で4.38%程度です。高配当株を探す個人投資家にとって、業績修正と同時に4%台の利回りが見えることは買いの理由になります。

もっとも、今回の増配は売却益を背景にした還元強化です。継続的な配当成長を期待するには、売却益を除いた事業利益がどこまで積み上がるかが重要です。普通配当として90円を掲げたことは前向きですが、2027年以降に同水準を維持するには、ポイント事業、D2C、フィナンシャルサービスの収益力が問われます。

最大25億円自社株買いの資本効率

今回の開示で市場がもう一つ注目したのは、自社株買いの方針です。セレスは、ビットバンク株式売却によって得る資金のうち、税相当額控除後の約74億円を株主還元と成長投資に優先的に充当する予定だと説明しました。そのうえで、すでに6月17日に終了した約5億円の自己株式取得に加え、最大25億円の自己株式取得を行う予定を示しています。

6月18日の自己株式取得終了に関する開示では、4月30日決議に基づく取得累計は273,600株、取得価額総額は499,954,100円でした。当初上限の5億円にほぼ到達しており、会社側が資本効率を意識していることは確認できます。追加の最大25億円は、6月29日時点の時価総額25,033百万円に対しても相応の規模です。

自社株買いは、発行済株式数を減らし、1株利益やROEを押し上げる効果があります。セレスは中期経営計画2030でROE15%を掲げています。ビットバンク売却益を単に現預金として積み上げるのではなく、株主還元と成長投資へ振り向ける姿勢は、材料株としてだけでなく資本政策銘柄としての評価を高めます。

ポイント事業とラボルの継続成長

セレスの本業は、モバイルサービス事業とフィナンシャルサービス事業です。会社サイトでは、モバイルサービス事業にポイントサイト「モッピー」、ポイントインカム、AD.TRACK、D2C関連事業などを含め、フィナンシャルサービス事業にCoinTrade、ビットバンク、Sobit、labol、投資育成事業などを含めると説明しています。

第1四半期決算説明資料を見ると、ポイント売上高は約80億円で前年同期比62.1%増、モバイルサービス事業の売上高は8,882百万円、セグメント利益は2,320百万円でした。モッピーでは、会員数が第1四半期末で675万人、アプリ累計ダウンロード数が719万件に達したとされています。公式サイト上でも、モッピーは累計1,400万人以上が利用し、ポイントを現金、電子マネー、ギフトコード、共通ポイント、ビットコインなど約60種類のサービスに交換できる国内最大級のポイントサイトと説明されています。

フィナンシャルサービス事業では、売上高が647百万円と前年同期比297.3%増となりました。特にAIファクタリングサービスのlabolは、フリーランス向けの資金需要を背景に新規ユーザーを拡大したと決算短信に記載されています。暗号資産関連では評価損や持分法投資損失の影響が残る一方、オンラインファクタリングは成長事業として見られます。

この構図は、セレスの投資評価を二層に分けます。短期ではビットバンク株式売却益、増配、自社株買いが株価材料です。中期では、モッピーを軸にしたポイント経済圏、D2Cの立て直し、labolなど金融サービスの黒字化が重要です。単発の特別利益で終わるか、資本再配分を通じて継続成長につなげられるかが、今後の株価水準を左右します。

本取引未完了と暗号資産市況が残す評価リスク

取引完了条件と特別利益の変動余地

セレスのビットバンク株式売却は、現時点では基本合意書に基づく予定です。開示では、本取引に係る自己株式取得完了日は2026年10月頃とされています。関係会社株式売却益約55億円も現時点の見込額であり、契約条件などに基づき最終的に確定するため、今後変動する可能性があります。

つまり、6月26日の株価上昇は、予定されている取引の実行をかなり織り込んだ動きです。前提条件が満たされるか、売却手続きが予定どおり進むか、追加自社株買いの具体的な条件がどう決まるかは、今後の開示で確認する必要があります。特に最大25億円の自己株式取得は、現時点では予定であり、実施決議の詳細はまだ別途開示待ちです。

また、特別利益による純利益増加は会計上のインパクトが大きい一方、営業キャッシュフローそのものを継続的に押し上げるものではありません。市場が再評価するには、売却資金を使ったM&Aやマーキュリーの暗号資産事業強化、モバイルサービスの垂直統合モデル強化が具体的な収益に結び付く必要があります。

暗号資産市況と持分法損益の切り離し

ビットバンク売却は、セレスの暗号資産関連リスクを単純に減らすだけではありません。会社側は、少数持分にとどまり直接関与できる範囲に制約があるビットバンク株式を売却し、マーキュリーを中核とする暗号資産・ブロックチェーン領域やモバイルサービス事業、M&Aなどへ経営資源を再配分すると説明しています。

第1四半期決算では、ビットバンクの持分法投資損失は前年同期の474百万円から173百万円へ縮小したと決算説明資料に示されています。売却が実行されれば、持分法損益の振れは連結業績から切り離されます。一方で、CoinTradeを運営するマーキュリーはグループ内に残り、暗号資産評価損や規制変更、市況変動の影響を受け続けます。

暗号資産関連株は、テーマ性が強い反面、評価が変わる速度も速い領域です。6月26日のように明確な資本政策材料がある局面では買いが集中しますが、ビットコイン価格や国内規制、金融商品取引法への移管議論などによって投資家の見方は変化します。セレスを見る際は、暗号資産テーマ株という短期の人気と、ポイント・ファクタリングを含む複合インターネット企業としての実力を分ける視点が必要です。

加えて、セレスは6月19日に、株式会社SQUIZの株式取得資金に充当するため、三菱UFJ銀行から2,000百万円を借り入れる予定を開示しました。無担保・無保証ですが、純資産維持、営業損益の黒字維持、のれんが純資産を上回らないことなどの財務特約が付されています。成長投資を進める局面では、財務健全性と資本効率の両立も確認すべき論点です。

個人投資家が今週追うべき確認材料

セレスの6月26日急騰は、純利益予想の大幅上方修正、90円配当、最大25億円自社株買い方針が同時に出たことで説明できます。材料の強さは十分ですが、その中身は特別利益と資本政策に大きく依存します。短期的には、2,000円台を維持できるか、出来高急増後の売りを吸収できるかが焦点です。

中期的には、三つの確認が必要です。第一に、ビットバンク株式売却が予定どおり2026年10月頃に完了するかです。第二に、追加自社株買いの取得枠、期間、取得方法がどのように決まるかです。第三に、上期決算でモッピー、ポイントインカム、labolの成長が第1四半期から続いているかです。

材料株は、発表翌日の値幅だけを見ると判断を誤ります。セレスの場合は、特別利益を除いた営業力、還元強化の継続性、成長投資の回収可能性を並べて確認することが重要です。6月30日以降の投資判断では、株価の勢いよりも、次の開示で資本政策がどこまで具体化するかを優先して見たい局面です。

参考資料:

斎藤 裕也

テーマ株・材料分析

テーマ株・材料株の発掘と分析を得意とする。企業の IR 情報と業界動向を結びつけ、投資家目線で銘柄の「次の一手」を読む。

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