AI相場で化学株を押し上げる半導体材料需要再評価の投資家視点
半導体材料へ広がる化学株再評価の背景
市場のテーマ物色で「化学」が上位に浮上したことは、半導体関連人気が装置や設計株だけにとどまらず、材料メーカーへ広がっている兆しです。AIサーバー、HBM、先端ロジックの投資が増えるほど、ウエハー、フォトレジスト、高純度薬液、封止材、基板材料などの消費量も増えます。
WSTSは2026年春の予測で、世界半導体市場が2026年に前年比90%増の1兆5,100億ドルへ拡大すると示しました。とくにメモリーは前年比約250%増、ロジックも37%増とされ、AIインフラ向けの強い需要が市場の中心です。この規模感が、化学株を「景気敏感の素材株」から「半導体サプライチェーンの要所」として見直す流れを生んでいます。
化学メーカーが握る前工程材料の高い参入障壁
フォトレジストと高純度薬液の競争力
半導体前工程では、回路を形成するために光を使ってパターンを転写します。その中核にあるのがフォトレジストです。東京応化工業は、半導体製造工程でフォトレジストがシリコンウエハー上に塗布され、露光、現像、エッチングを経て微細な回路形成に使われると説明しています。微細化が進むほど、材料の感度、欠陥抑制、金属不純物管理が歩留まりを左右します。
同社は2024年の推定出荷数量ベースで、半導体フォトレジストの世界シェアを24.7%と示しています。内訳ではEUV用が28.0%、KrF用が32.4%、g線・i線用が22.7%です。これは化学メーカーの競争力が単なる量産能力ではなく、露光方式ごとの材料設計と顧客工程への適合力にあることを示します。
JSRも電子材料事業で、i線からEUVまでのフォトレジスト、CMPスラリー、洗浄液、ALD・CVD前駆体、ドーパントを展開しています。CMPや洗浄液は配線層の平坦化や微粒子除去に不可欠で、微細化と3D構造化が進むほど重要性が増します。先端デバイスでは一つの材料だけでなく、露光、洗浄、成膜、研磨を組み合わせたプロセス全体で品質を作り込む必要があります。
信越化学工業も、電子材料分野でシリコンウエハー、フォトレジスト、フォトマスクブランクス、半導体封止材、合成石英製品などを扱っています。前工程の入口から露光材料までを押さえる企業は、半導体投資の増加を複数の製品で取り込めます。投資家が化学株を見る際は、単一材料の話題性だけでなく、工程横断で顧客接点を持つかが重要です。
量産歩留まりを支える供給網の近接化
半導体材料は、顧客の製造拠点に近い場所で評価、改良、安定供給を行えるかが競争力になります。東京応化工業は韓国子会社で平沢第2拠点となる新工場の建設を決定し、フェーズ1で高純度化学品製造棟を整備すると公表しました。投資額は約120億円、建築面積は約6,300平方メートル、稼働開始は2027年下期の予定です。
この投資は、半導体材料メーカーが研究開発だけでなく、顧客近接のサプライチェーンを重視していることを示します。先端半導体では材料サンプルを送って評価するだけでは開発速度が足りません。製造装置、露光条件、エッチング条件、洗浄条件に合わせて材料を調整するため、拠点配置そのものが競争要因になります。
JSRについても、台湾でフォトレジスト拠点を検討しているとの報道があります。記事では、台湾拠点によりTSMCとの共同開発やサンプル往復の時間短縮を狙う構図が示されています。内容は報道ベースのため投資判断では慎重に扱うべきですが、材料メーカーが主要ファウンドリーの近くで開発速度を上げようとしている流れは明確です。
先端パッケージで広がる後工程材料の収益機会
チップレット時代の有機材料需要
AI向け半導体は、前工程だけで性能が決まるわけではありません。GPU、HBM、ロジックを高密度につなぐ先端パッケージが性能と供給量を左右します。東京応化工業は後工程でも、バンプ形成用レジスト、再配線層用レジスト、現像液、剥離液、保護膜、接着材料などを展開しています。後工程材料は、従来の「組み立て補助材」から「性能を作る材料」へ位置付けが変わりつつあります。
この変化を象徴するのが、次世代半導体パッケージ開発を目的とした「JOINT3」です。東京応化工業の発表によると、JOINT3はレゾナックが設立した共創評価の枠組みで、515ミリメートル×510ミリメートルのパネルレベル有機インターポーザー試作ラインを使い、材料、装置、設計ツールを最適化します。2025年9月時点の参加企業は27社です。
有機インターポーザーが注目されるのは、チップレットの大型化に伴い、丸いウエハーから四角い部材を切り出す従来方式では面積効率が悪くなるためです。パネル形状で作れれば、同じ面積から得られる部材数を増やしやすくなります。ここではレジスト、絶縁材料、銅めっき材料、基板材料、接着材料など、化学メーカーの技術領域が広く関わります。
三菱ガス化学のBT樹脂積層板も、後工程材料を考えるうえで重要です。同社はBT積層板について、ICプラスチックパッケージや高周波デバイスに広く使われる基板材料と説明し、グローバル市場シェアでNo.1としています。配線間隔はかつて100ミクロン超だったものが20ミクロン未満へ狭まり、基板材料にも低反り性、耐熱性、電気特性が求められます。
設備投資拡大が材料消費に与える連鎖
半導体材料株を評価する際は、半導体メーカーの設備投資がどの工程に向かっているかを確認する必要があります。SEMIの予測を報じたTom’s Hardwareによると、半導体製造装置の世界販売額は2025年に1,330億ドル、2026年に1,450億ドル、2027年に1,560億ドルへ拡大する見通しです。前工程装置だけでなく、検査や組み立て、パッケージング装置も伸びる構図です。
TSMCの投資計画も、材料需要の広がりを示します。同社の2026年設備投資は520億から560億ドル規模と報じられ、先端プロセスに70から80%、先端パッケージとマスク製作に10から20%を振り向ける計画です。先端プロセス投資はフォトレジスト、洗浄液、成膜材料を押し上げ、先端パッケージ投資はレジスト、封止材、基板材料、接着材料を押し上げます。
ADEKAは半導体材料として、高純度エッチングガス、ALD・CVD材料、銅めっき材料、エッチング材料、表面処理剤を掲げています。中期計画「ADX 2026」では、3年間の設備投資額を750億円とし、エレクトロニクス・IT材料の拡大を重点戦略に挙げています。これは半導体材料が、総合化学メーカーの成長投資先として位置付けられていることを示します。
三菱ガス化学は、超純過酸化水素など最先端エレクトロニクス産業向け洗浄剤も展開しています。洗浄剤は華やかな材料ではありませんが、微細化で許容される汚染レベルが下がるほど価値が増します。半導体材料の投資妙味は、話題になりやすいEUV材料だけでなく、歩留まり改善に不可欠な「見えにくい消耗材」にもあります。
化学株物色で見落とせない三つのリスク
化学株の半導体材料シフトには追い風がありますが、短期物色だけで判断するのは危険です。第一のリスクは、半導体市況の振れです。WSTSは2026年の大幅成長を見込む一方、2027年も27%成長としていますが、メモリー価格やAI投資の伸びが鈍れば、材料需要の期待も修正されます。
第二のリスクは、顧客集中と認定期間です。先端材料は採用されれば長期取引になりやすい一方、顧客工程で認定されるまで時間がかかります。新工場や新材料の発表が直ちに売上へ反映されるわけではありません。投資家は稼働時期、量産採用の有無、既存顧客との開発関係を分けて見る必要があります。
第三のリスクは、規制と原材料です。PFASなど化学物質規制、エネルギー価格、フッ素系材料や高純度ガスの供給制約は利益率に影響します。半導体材料は高付加価値でも、品質保証、環境対応、在庫確保にコストがかかります。テーマ人気が先行する局面ほど、粗利益率や設備投資負担を確認する姿勢が重要です。
投資家が確認すべき材料株の選別軸
化学株の再評価は、半導体関連人気が広がっただけではなく、AI半導体の性能向上に材料技術が不可欠になったことが背景です。注目すべきは、前工程のフォトレジストや高純度薬液、後工程の有機基板や再配線材料、さらに顧客近接の量産供給網を持つ企業です。
投資家は、半導体材料売上の比率、先端ノードや先端パッケージへの関与、顧客拠点に近い供給体制、設備投資の回収期間を確認するとよいです。テーマ株として短期で追うだけでなく、IR資料で製品の工程位置を見極めることで、半導体相場の波及先としての化学株をより精度高く選別できます。
参考資料:
- WSTS Recent News Release
- Business & Products | Shin-Etsu Chemical Co., Ltd.
- Semiconductor Manufacturing Field | TOKYO OHKA KOGYO CO., LTD.
- Semiconductor Packaging Manufacturing Field | TOKYO OHKA KOGYO CO., LTD.
- Notice Regarding Construction of New Pyeongtaek Plant in Korean Subsidiary | TOKYO OHKA KOGYO CO., LTD.
- Participating in “JOINT3” Consortium to Develop Next-Generation Semiconductor Packaging | TOKYO OHKA KOGYO CO., LTD.
- Our Electronic Materials Business | JSR Corporation
- It Related Materials | ADEKA
- Business Strategy | ADEKA
- BT Laminate | Mitsubishi Gas Chemical Company, Inc.
- Electronics Materials Division | Mitsubishi Gas Chemical Company, Inc.
- Inorganic Chemicals Division | Mitsubishi Gas Chemical Company, Inc.
- Sales of chip production equipment to reach $156 billion by 2027 | Tom’s Hardware
- TSMC’s board approves $45 billion spending package on new fabs | Tom’s Hardware
- JSR to build first Taiwan photoresist plant to co-develop advanced resists with TSMC | Tom’s Hardware
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