防衛費膨張で三羽烏からAI・ドローン関連株へ物色拡大が本格化
防衛予算が株式テーマを押し広げる構図
防衛省の2027年度概算要求は、歳出ベースで約9兆円、契約ベースで約8兆円とされ、要求額として過去最大規模に達しました。政府は2027年度に安全保障関連経費をGDP比2%程度へ引き上げる方針を掲げており、防衛費は一過性の補正予算ではなく、複数年度の投資テーマになっています。
株式市場で注目されてきたのは、三菱重工業、川崎重工業、IHIの「防衛三羽烏」です。しかし今回の概算要求では、AI、無人アセット、宇宙、サイバー、クラウド、防衛生産基盤が前面に出ました。物色対象は大型防衛主契約企業から、通信、センサー、半導体、ドローン、ソフトウェアまで広がる局面です。
重要なのは、予算の見出し額だけでなく、どの能力に資金が流れ、企業の受注残と利益率にいつ反映されるかです。防衛テーマは政策で動きますが、株価は最終的に採算、キャッシュフロー、為替前提で評価されます。
三羽烏に集中した防衛受注の収益化
三菱重工に集まる艦艇・飛しょう体需要
防衛関連株の中核は、引き続き三菱重工業です。同社は航空・防衛・宇宙を主要事業の一つに置き、艦艇、飛しょう体、航空機、宇宙機器などで防衛省との接点が厚い企業です。2026年度第1四半期の全社受注高は2兆224億円、売上収益は1兆1942億円、事業利益は1596億円と公表され、通期見通しも売上収益5兆4000億円、事業利益5400億円です。
三菱重工株が防衛予算の拡大に強く反応しやすい理由は、単に防衛装備を作っているからではありません。大型装備は開発、量産、維持整備まで期間が長く、契約ベースの予算が受注残として将来売上を支えます。防衛省が国産スタンド・オフ・ミサイル、水中発射型の極超音速誘導弾、次期戦闘機関連の開発を進めるほど、長期案件を抱える主契約企業の視界は長くなります。
一方で、同社の株価を防衛だけで説明するのは危険です。ガスタービン、原子力、物流機器なども業績を動かすため、防衛費拡大が株価に与える影響は、全社利益に対する寄与度と他事業の景気循環を分けて見る必要があります。防衛テーマとしての純度は高いものの、企業価値全体は複合重工の評価です。
川崎重工とIHIの航空・エンジン接点
川崎重工業は航空宇宙システム、防衛省向け航空機、潜水艦、ヘリコプター、航空エンジン関連で存在感があります。2026年度第1四半期の航空宇宙システムは、受注高726億円、売上収益1376億円、事業利益16億円でした。会社側は防衛省向けの売上増を説明し、通期の同セグメント受注高見通しを6300億円へ引き上げています。
同社資料では、防衛省の抜本的な防衛力強化方針、GDP比2%達成の前倒し、防衛三文書改定の前倒し検討が需要増と採算改善の材料として示されています。これは、防衛予算が単なる売上増ではなく、価格適正化や量産効果を通じて利益率改善につながる可能性を示す点で重要です。
IHIは航空・宇宙・防衛セグメントを持ち、日本のジェットエンジン生産の約7割を担うと説明しています。防衛省が運用する航空エンジンの開発・生産を主契約者として担い、戦闘機用エンジンは全機種を担当する点が特徴です。2026年度の同セグメント見通しは、受注高8200億円、売上収益8700億円、営業利益1370億円に上方修正されました。
三羽烏を比較する際は、装備品の違いが株価感応度を変えます。三菱重工は艦艇・ミサイル・宇宙を含む総合力、川崎重工は航空機・潜水艦・ヘリ、IHIはエンジンと宇宙機器が軸です。どの企業も防衛費の恩恵を受けますが、受注が売上に変わる時期、原価上昇の吸収力、為替感応度は同じではありません。
AI・無人アセットが生むデュアルユース需要
無人機調達が示す消耗型装備への転換
今回の概算要求で最も象徴的なのは、無人アセットの位置づけです。防衛省資料では、無人アセットを使って人的損耗を抑え、低コストで相手のドローンを迎撃し、スタンド・オフ・ミサイルと組み合わせる構想が示されています。これは、高額な有人装備を少数保有する従来型から、安価で大量投入できる装備を組み合わせる方向への転換です。
具体的な要求には、艦載型UAVの取得36億円、VTOL型の中域用UAV87億円、目標情報収集用無人機113億円、滞空型UAV「MQ-9B」17機2922億円、小型攻撃用UAV363億円、迎撃UAV76億円が含まれます。さらに、民生部品や民生品の設計・製造技術を活用し、安価で短期間に大量生産できるスタンド・オフ防衛用UAVの開発も掲げられています。
この領域では、従来の重工株だけでなく、ドローン機体、制御ソフト、通信モジュール、バッテリー、画像認識、量産組立、メンテナンスの企業に市場の視線が向かいます。ただし、民生ドローン企業がすぐ防衛売上を大きく伸ばすとは限りません。防衛調達では秘匿性、サイバー耐性、国内供給網、品質保証が重視されるため、実際の契約開示や共同開発体制の有無が銘柄選別の基準になります。
また、ドローンは消耗品に近い側面を持ちます。量産能力がある企業には継続需要が見込めますが、単価下落と競争激化も起こりやすい分野です。投資家は「ドローン関連」という名前だけでなく、量産で利益が出る設計力、部材調達の安定性、官需以外の販路を確認する必要があります。
AI・宇宙・サイバーが広げる受注候補
防衛省はAIについて、統合作戦司令部の意思決定支援システム、次世代AIプラットフォーム「AIオーケストレーター」、高機密ソブリンクラウドを含む防衛省クラウドの整備を挙げています。戦場や周辺海空域から集まるデータを統合し、目標選定や状況可視化を支援する仕組みです。
ここで市場が注目するのは、AIそのものよりも「データを安全に集め、分析し、指揮統制へつなぐ基盤」です。クラウド、通信、サイバー防御、暗号、ネットワーク、センサー、衛星画像解析が一体となるため、防衛関連株の範囲は情報システム企業や通信インフラ企業へ広がります。防衛省は防衛情報通信基盤の強靱化や次世代JADGEの整備も示しており、ハードとソフトの境界は薄くなっています。
宇宙分野も同じです。概算要求にはSDA衛星、宇宙状況把握システムの機能向上99億円、衛星妨害状況把握装置34億円、民間衛星などによる画像データ取得327億円、商用低軌道衛星通信器材24億円が盛り込まれています。衛星本体だけでなく、地上局、画像処理、光通信、耐妨害通信、熱制御、運用ソフトまで需要が広がります。
半導体・素材にも接点があります。防衛省は射撃管制レーダーへの適用を見据えたダイヤモンド半導体素子技術の研究を掲げました。高熱伝導、高耐熱、高電力効率が求められるため、次世代パワー半導体や高周波デバイスの技術を持つ企業が長期テーマとして意識されます。短期の売上よりも、研究開発採択、試作、評価、量産移行の段階を追うテーマです。
サイバー領域では、能動的サイバー防御に関連する能力整備、スレット・ハンティング機能の強化が示されています。重要インフラや自衛隊システムを守るため、官公庁向けセキュリティ、監視運用、ログ分析、脅威インテリジェンスの需要が増えます。防衛テーマは、兵器を作る企業だけでなく、データとネットワークを守る企業にも波及する段階に入りました。
財政・為替環境が左右する物色の持続力
防衛関連株の持続性を考えるうえで、財政と金利は避けて通れません。2027年度概算要求は、現行の防衛力整備計画を踏まえた事業を積み上げる一方、三文書改定に左右される事業を事項要求として残しています。年末の予算編成で金額が上振れする可能性がある一方、財源議論が長引けば、株式市場の期待は揺れます。
マクロ面では、防衛費の増加は公共投資に近い需要創出効果を持ちますが、国債増発や税負担への警戒も伴います。長期金利が上昇すれば、重工各社の資本コストや設備投資判断にも影響します。防衛受注は景気後退局面でも比較的安定しやすい一方、財政余力に依存する政策テーマである点は変わりません。
為替も重要です。三菱重工は2026年度の想定為替レートを1ドル150円、1ユーロ180円としています。川崎重工も第1四半期資料で円安が利益を押し上げたと説明し、IHIは為替が2〜4四半期の営業利益に与える感応度を1円あたり15億円と示しています。防衛装備は国内官需でも、輸入部材、海外ライセンス、航空エンジン、民間航空機事業を通じて為替の影響を受けます。
つまり、防衛費の増額は強い追い風ですが、株価の上昇が常に直線的に続くわけではありません。受注期待が先に織り込まれ、実際の利益計上が数年後になる場合、金利上昇や円高転換でバリュエーションが調整されることがあります。テーマ性と業績反映の時間差を見誤らないことが大切です。
投資家が点検すべき受注残と採算性
防衛関連株を見る際の第一の確認点は、概算要求の中で金額が明示された事業と、事項要求にとどまる事業を分けることです。金額未定の案件は政策期待を高めますが、企業業績への反映時期はまだ不確実です。年末の予算案、契約公告、企業側の受注開示を順番に確認する姿勢が必要です。
第二の確認点は、受注残と利益率です。防衛装備は売上計上まで時間がかかるため、受注高の増加だけでは評価しきれません。価格適正化、量産効果、原価上昇の転嫁、研究開発費の負担を見ないと、売上増が利益増につながるか判断できません。
第三の確認点は、デュアルユース企業の実需です。AI、ドローン、衛星、サイバー、半導体という言葉は物色を広げますが、防衛省向けの契約、実証、共同研究、量産能力がなければ業績インパクトは限定的です。三羽烏を中心に、周辺分野では契約に近い企業を丁寧に選別する局面です。
防衛費膨張は、日本株に新しい中長期テーマを与えています。ただし、政策テーマは期待先行になりやすいため、投資判断では予算、受注、採算、為替、金利を同時に見る必要があります。防衛関連株の本当の焦点は、話題性ではなく、国家投資が企業の利益構造をどこまで変えるかにあります。
参考資料:
- 防衛省・自衛隊:予算の概要
- 防衛力の変革に向けた予算 令和9年度概算要求の概要
- AP News: Japan’s $55.6 billion defense budget request focuses on drones, AI, missiles
- USNI News: Japan Budget Requests Record $55.6B for Unmanned, Long Range Strike Capabilities
- Janes: Japan’s FY 2027 defence budget request targets AI, unmanned, stand-off capabilities
- Stars and Stripes: Japan’s Defense Ministry requests record $55.6 billion
- Nippon.com: Japan Defense Ministry Eyes Record 8.9-T.-Yen Budget for FY 2027
- 三菱重工:決算短信・決算説明会
- 川崎重工業:決算説明資料
- 川崎重工業:2026年度第1四半期決算説明資料
- IHI:決算説明会
- IHI:2026年度第1四半期決算説明資料
- IHI:航空・宇宙・防衛 事業紹介
- IHI Investor Day:民間エンジン事業・防衛事業
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