レアアース再生投資で始まる国策相場、主要関連株の選別ポイント
レアアース再浮上を促す補助金公募の号砲
レアアース関連株への関心が再び強まっています。きっかけは、重要鉱物や金属資源の再生材供給を支援する令和8年度事業の二次公募です。8月6日に始まった公募は、再生材の供給拡大や需要創出、設備投資、実証事業を対象にしており、株式市場では「国策テーマ」として受け止められています。
注目点は、単なる資源価格の思惑ではありません。中国の輸出管理、EVやロボット向け磁石需要、国内リサイクル投資、JOGMECを通じた海外権益確保が同時に動いていることです。短期材料だけを追う相場ではなく、供給網のどこに企業価値が生まれるかを見極める局面に入っています。
中国輸出管理で露呈した磁石供給網の脆弱性
7元素規制が突いた重希土類の急所
レアアースは17元素の総称ですが、株式市場で特に焦点になるのは永久磁石に使われるネオジム、プラセオジム、ジスプロシウム、テルビウムです。なかでもジスプロシウムとテルビウムは高温環境で磁石性能を保つために重要で、EVの駆動モーター、ハイブリッド車、風力発電機、産業用ロボットで需要が広がっています。
IEAは、永久磁石をレアアース消費額の中心用途と位置付けています。磁石用レアアースの需要は2015年以降で倍増し、現行政策ベースでも2030年までにさらに約3分の1増える見通しです。生成AI向けデータセンターでも冷却機器、電源、精密駆動部品が増えるため、磁石はデジタル投資の間接的なボトルネックにもなります。
問題は、供給網の偏りです。IEAによると、2024年の磁石用レアアース鉱山生産で中国は世界の60%を占め、精製では91%、焼結永久磁石では94%に達しました。鉱山よりも精製、精製よりも磁石製造で集中度が高くなる構造が、レアアース相場の本質です。鉱石があっても分離・精製、金属化、合金化、磁石加工がなければ最終製品にはなりません。
中国商務部と海関総署は2025年4月4日、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウム関連品目に輸出管理を導入しました。対象には金属、合金、酸化物、化合物、ターゲット材、永久磁石材料が含まれます。JOGMECの整理では、その後に輸出量が一時急減し、自動車メーカーの調達難や一部工場停止につながりました。
2025年10月には、中国原産のレアアースや関連技術を用いた海外製品にも及ぶ追加規制が公告されました。米中協議を経て、この10月公告分は2026年11月10日まで1年間留保されましたが、4月規制は継続しています。つまり、緊張が緩んだのではなく、許可制という不確実性が残ったままです。
EV・風力・ロボットが押し上げる磁石需要
レアアースが投資テーマとして強いのは、用途が脱炭素と自動化の両方にまたがるためです。EVは駆動モーター、風力発電は発電機、ロボットは精密なサーボモーターで高性能磁石を必要とします。省エネエアコンやFA機器でも小型・高効率モーターの採用が進み、需要は景気循環だけでは説明できない広がりを持っています。
一方で、すべての関連企業が同じ恩恵を受けるわけではありません。鉱山権益を持つ企業、分離精製技術を持つ企業、磁石そのものを製造する企業、磁石使用量を減らす技術を持つ企業では、業績に効くタイミングが異なります。資源価格の上昇は上流には追い風ですが、下流の磁石メーカーには原価高になる場合もあります。
このため、テーマ株を見る際は「レアアースに名前が近いか」ではなく、どの工程に実体があるかを確認する必要があります。精製・分離は技術障壁が高く、環境対応や放射性元素の管理も求められます。磁石製造では顧客認定、品質安定性、量産歩留まりが問われます。リサイクルでは廃磁石の回収網と分離コストが競争力を左右します。
国内支援が向かう精錬・再生・省資源技術
379億円の再資源化支援と8月二次公募
令和8年度予算では、重要鉱物を経済安全保障の中核に置く姿勢が明確です。財務省の予算解説では、経済産業省関係として重要鉱物の安定供給確保支援事業に125億円、供給源切り替えに必要な性能評価などを支援する重要鉱物サプライチェーン強靱化事業に50億円が計上されています。
さらに、重要金属等の再資源化に対する投資促進支援として379億円が盛り込まれました。これは、金属資源などの再資源化に関する設備投資支援や技術実証を進める枠組みです。レアアースは輸入資源であると同時に、使用済みモーターや家電、製造工程の端材に含まれる国内資源でもあります。ここに政策資金が向かい始めた点が大きな変化です。
低炭素投資促進機構が執行する「令和8年度 資源自律経済確立産官学連携加速化事業」は、8月6日から9月7日まで二次公募を行っています。対象は重要鉱物、金属資源、プラスチックなどで、再生材の供給拡大、需要創出、資源循環ビジネスの実証、設備投資が含まれます。補助率は中小企業等が2分の1以内、大企業等が3分の1以内で、1件あたり上限は4,000万円です。
この枠は大型製錬所を一気に建てる規模ではありません。しかし、回収、選別、前処理、品質保証、データ連携といった資源循環の詰まりを解消するには有効です。テーマ株相場では大型補助金ばかりが注目されがちですが、実務上はこうした小口の設備投資がサプライチェーンの裾野を広げます。
信越化学を軸に広がる国内量産網
個別企業では、信越化学工業が最も分かりやすい中核銘柄です。経済産業省の重要鉱物ページでは、同社が国内に製錬設備を新設しレアアースの生産を増強する計画について、2026年5月19日に認定され、助成額は約175億円とされています。これはテーマ性だけでなく、政策資金が特定企業の量産投資に結びついた事例です。
信越化学は、レアアース分離精製とレアアースマグネットの双方に実績があります。同社の公開情報では、1961年からレアアース研究を始め、1971年にパイロットプラントを立ち上げ、1987年から大型プラントを稼働しています。リサイクル面でも、2012年から磁石加工工程で出る磁石粉を再利用し、2013年から省電力エアコンやハイブリッドカー由来のレアアースマグネット回収にも取り組んでいます。
永久磁石では、大同特殊鋼も注目されます。同社は熱間加工磁石で重希土類フリー化を進め、微細組織や塑性加工技術を強みにしています。重希土類を使わずに高耐熱性を確保できれば、中国依存リスクだけでなく原材料コストの変動も抑えられます。TDKもジスプロシウム使用量を減らすHAL工法や、レアアース・レアメタル削減型フェライト磁石を展開しており、省資源技術の文脈で評価対象になります。
ここで重要なのは、製造能力の増強と省資源技術は競合ではなく補完関係にあることです。短期的にはレアアースを確保する企業が有利です。一方、中長期ではレアアース使用量を減らす磁石、廃磁石から回収する技術、代替材の開発も政策支援の対象になります。したがって関連株は、上流確保型、国内精製型、磁石量産型、省資源技術型に分けて見るのが実務的です。
商社とJOGMECが担う海外権益の補完
国内だけで需要を賄うことは難しいため、商社とJOGMECの海外案件も重要です。双日とJOGMECは豪州Lynasへの追加出資を通じ、ジスプロシウムとテルビウムの最大65%を日本向けに供給する契約を結んでいます。JOGMECの2025年動向整理では、Lynasが2025年中旬から中国外では初の商業規模となる重希土類の分離精製を開始したとされています。
岩谷産業とJOGMECは、フランスのCaremagに最大1億1,000万ユーロを出融資し、同社が生産する重希土類の50%を日本向けに長期供給する契約を結びました。Caremagは鉱石由来原料に加え、リサイクル原料も活用する計画です。欧州で精錬拠点を押さえることは、中国一極集中を薄めるうえで意味があります。
直近では、豊田通商とJOGMECがナミビア共和国ロフダル地域でレアアース探査・開発を進める特定目的会社を設立しました。JOGMECは最大4,766.8万カナダドル、円換算で約54.6億円を出資する決定を公表しています。ロフダルはディスプロシウムやテルビウムなど重希土類を多く含む地域で、2026年度中を目途に事業化判断を行う予定です。
商社株を見る際は、資源権益そのものの収益規模に加え、国内需要家への販売網、長期契約、為替、資源価格変動を確認する必要があります。レアアースは銅や原油ほど市場規模が大きくないため、総合商社の連結業績を単独で押し上げるには時間がかかります。ただし、自動車や電機の顧客基盤を持つ企業にとっては、供給安定化そのものが競争力になります。
関連株選別で避けたいテーマ先行の過熱
レアアースは政策、地政学、脱炭素、ロボット、AIデータセンターが重なるため、相場材料としては強力です。ただし、国策テーマは株価が先に走りやすく、実際の利益寄与が遅れる場合があります。補助金は設備投資の背中を押しますが、量産認定、顧客評価、操業開始、減価償却負担を経て初めて業績に反映されます。
特に注意したいのは、価格上昇が必ずしも全社に追い風ではない点です。原料を外部調達する磁石メーカーにとっては、レアアース高はコスト増です。価格転嫁が遅れれば利益率を圧迫します。逆に、リサイクル原料を安定的に確保できる企業や、省ジスプロシウム技術を持つ企業は、供給不安の局面で相対的に強くなります。
もう一つのリスクは、中国規制の運用変化です。輸出許可が円滑に出れば短期の逼迫感は後退します。米中関係の緊張緩和、EV需要の鈍化、磁石代替技術の進展も需給見通しを変えます。IEAも、鉱山より精製・磁石製造の能力不足を課題としており、単純な資源価格テーマではありません。
投資判断では、関連ワードよりも開示資料を優先すべきです。見るべき項目は、補助金の採択・認定、設備投資額、量産開始時期、想定用途、顧客認定、原料調達契約、リサイクル原料比率です。テーマの強さと事業の収益化確度を分けて確認できる企業ほど、相場一巡後も評価が残りやすくなります。
投資家が追うべき供給網の実行指標
レアアース相場の焦点は、輸出規制への一時的な反応から、国内外の供給網を実際に作れる企業の選別へ移っています。信越化学のように分離精製と磁石で実績を持つ企業、双日・豊田通商・岩谷産業のようにJOGMECと海外案件を進める企業、大同特殊鋼やTDKのように省資源磁石技術を持つ企業では、評価軸が異なります。
今後は、METI、JOGMEC、NEDOの採択発表、認定供給確保計画の更新、海外プロジェクトの最終投資判断、磁石メーカーの設備稼働率を追うことが重要です。テーマ名だけで買う局面は短く、政策資金が売上、利益、供給契約に変わる企業を見極める局面が続きます。
参考資料:
- 令和8年度 資源自律経済確立産官学連携加速化事業
- 令和8年度 経済産業省、環境省、裁判所、警察庁、法務省予算について
- 重要鉱物
- 永久磁石
- 重要鉱物助成金交付事業
- 部素材からのレアアース分離精製技術開発事業
- Rare Earth Elements - Executive summary
- 2025年 金属鉱物資源をめぐる動向
- Announcement No.18 of 2025 on medium and heavy rare earth export control
- レアアース(重希土)の日本向け供給確保
- 仏カレマグ社への出融資について
- ナミビア共和国におけるレアアース探査・開発事業
- 信越化学工業 資源循環の取り組み
- TDK マグネット プロダクトオーバービュー
- 大同特殊鋼 電磁材料研究
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