全固体電池関連株、量産前夜に浮上する材料企業と注目銘柄を再評価
量産接近で全固体電池株が再点火
全固体電池関連株への関心が再び強まっています。背景にあるのは、研究段階の期待だけではありません。トヨタ自動車と出光興産の量産協業、ホンダの実証ライン、日産自動車の2028年度投入計画、素材各社の供給計画がそろい始め、株式市場が「夢の電池」から「設備投資を伴う産業テーマ」へ見方を変えつつあるためです。
国際エネルギー機関によると、2025年の世界の電動車販売は2000万台を超え、新車販売の4分の1を占めました。EV向け電池搭載量も1.2TWhまで拡大し、電池は自動車産業の競争軸そのものになっています。この記事では、全固体電池の技術優位性だけでなく、どの企業群に収益機会が生まれやすいのかを、テーマ株・材料株の視点で整理します。
車載採用を動かす日系3社の実証競争
トヨタと出光の硫化物電解質連合
全固体電池テーマで市場の中心にいるのは、やはりトヨタ自動車です。同社は2023年6月の技術説明で、BEV用全固体電池について2027年から2028年の実用化に挑む方針を示しました。目標性能として、同社の次世代電池のパフォーマンス版と比べて航続距離20%向上、急速充電10分以下を掲げています。将来仕様では航続距離50%向上も研究対象としています。
重要なのは、トヨタが単独で電池セルだけを開発しているわけではない点です。2023年10月には出光興産と、BEV用全固体電池の量産に向けた協業を発表しました。対象は硫化物系の固体電解質です。硫化物系は柔らかく、電極材料と密着しやすい性質があり、高容量・高出力のBEV向けで有望とされています。
出光は石油精製で得られる硫黄成分を活用し、固体電解質の中間材料である硫化リチウムの技術を蓄積してきました。全固体電池の主戦場では、車両メーカーだけでなく、固体電解質を安定供給できる素材メーカーが収益化の要になります。株式市場で出光が全固体電池関連として評価されやすいのは、単なる研究テーマではなく、トヨタの量産ロードマップと結びついているためです。
さらにトヨタの次世代BEV向け電池と全固体電池の開発・生産計画は、2024年9月に経済産業省の「蓄電池に係る供給確保計画」として認定されました。次世代電池の生産規模として9GWh年が示され、全固体電池の開発・生産計画も対象に入っています。政府支援の枠組みに入ったことで、テーマ性は政策投資の裏付けを持つ段階へ進んだといえます。
ホンダと日産が競う実証ライン
ホンダも全固体電池の実用化を急ぐ有力企業です。同社は栃木県さくら市に全固体電池の実証生産ラインを整備し、2024年11月に公開しました。建屋の総床面積は約2万7400平方メートル、投資額は約430億円です。2025年1月から電池生産を開始し、量産技術とコストを検証すると説明しています。
ホンダの特徴は、全固体電池を自動車だけに閉じない構想です。四輪車に加え、二輪、航空機など幅広いモビリティへの展開を視野に入れています。高い耐熱性を生かして冷却構造を簡素化できれば、電池パック全体の軽量化やコスト低減にもつながります。車載用電池の競争ではセル性能だけでなく、車両設計と量産工程を一体で詰められるかが差になります。
日産自動車は長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」で、自社開発の全固体電池を搭載したEVを2028年度までに市場投入する目標を掲げています。同社は全固体電池により、充電時間の短縮、バッテリー小型化、EVの価格競争力向上を狙います。ピックアップトラックなど、従来の液系リチウムイオン電池では重量や航続距離が課題になりやすい車種にも応用余地があります。
この3社の動きから見えるのは、全固体電池が「どこか1社の成功待ち」ではなくなったことです。トヨタは出光との材料連合、ホンダは自社実証ライン、日産は自社開発セルという形で、それぞれ異なる経路から量産課題に向き合っています。関連株を見る際も、自動車メーカーの発表だけでなく、材料、設備、評価装置、工程管理に広がる需要を分解する必要があります。
材料と小型用途に広がる先行収益
電解質メーカーに寄る利益の源泉
全固体電池の関連銘柄を選ぶうえで、最も重要な材料は固体電解質です。液体電解液を使う従来型リチウムイオン電池と異なり、全固体電池では電解質がイオンの通り道であると同時に、正極と負極を隔てる役割も担います。つまり、性能、安全性、量産性の中心に電解質があります。
国内では出光興産のほか、三井金属鉱業、GSユアサ、大阪ソーダなどが関連企業として注目されます。NEDOのグリーンイノベーション基金では、次世代蓄電池・次世代モーターの開発に1510億円の予算上限が設定され、本田技研工業、日産自動車、GSユアサ、パナソニック エナジー、住友金属鉱山、アルバック、出光興産、大阪ソーダなどが実施者に名を連ねています。
三井金属鉱業は2026年5月、独自の固体電解質「A-SOLiD」を、2027年から2028年の実用化を目指す大手顧客の全固体電池プログラム向けに供給すると発表しました。A-SOLiDは硫化物系の一種で、高いリチウムイオン伝導性や電気化学的安定性を特徴としています。顧客名は明らかにされていませんが、量産前の供給決定は材料メーカーの事業化段階を測る重要な手掛かりです。
GSユアサは、窒素含有硫化物固体電解質の開発で耐水性とイオン伝導性の両立を狙っています。硫化物系は高いイオン伝導性を得やすい一方、水分と反応した際の取り扱いが課題になりやすい材料です。この弱点をどこまで抑えられるかは、量産工程のコストや安全対策に直結します。材料株を見る場合、単なる「全固体電池に参入」ではなく、どの課題を解いている企業かを確認することが重要です。
マクセルとTDKが示す先行市場
全固体電池はEV向けの大型セルだけが市場ではありません。むしろ先行収益が見えやすいのは、小型デバイスや産業機器向けです。マクセルは全固体電池を2024年度下期に本格的な量産フェーズへ移行したと説明し、2030年度に全固体電池売上高300億円を目指す計画を掲げています。
同社の全固体電池は、摂氏マイナス50度からプラス125度までの広い温度範囲、液漏れ・発火・破裂リスクの低さ、長寿命を訴求しています。すでに産業機器のバックアップ電源、インフラ監視、医療機器のデータロガー、調理用無線温度センサーなどの用途開拓が進んでいます。EV向け大型セルとは市場規模が異なりますが、売上計上の近さという意味では重要な先行事例です。
TDKも小型全固体電池の有力企業です。同社は2024年6月、次世代CeraCharge向けに体積エネルギー密度1000Whリットルの材料を開発したと発表しました。これは同社従来品と比べて約100倍のエネルギー密度とされ、ワイヤレスイヤホン、補聴器、スマートウォッチなどウェアラブル機器での利用を想定しています。
ここで押さえるべき点は、全固体電池と一口に言っても、EV向け大型セルとIoT向け小型セルでは事業化の時間軸が異なることです。大型セルは市場規模が大きい反面、耐久性、加圧管理、歩留まり、コストの壁が高くなります。小型セルは用途が限定される一方、温度耐性や安全性といった特徴を生かしやすく、採用実績が株価材料になりやすい分野です。
既存事業の強さが支えるテーマ耐性
テーマ株の物色では、材料名だけで買われる局面があります。ただ、全固体電池は量産までの検証期間が長く、期待先行で株価が振れやすいテーマです。そのため、既存事業で利益を稼ぎながら研究開発を続けられる企業ほど、投資対象としての耐久力が高くなります。
トヨタ、ホンダ、日産は自動車販売と電動化戦略の進捗が評価軸になります。出光興産は燃料油や化学品の収益基盤に加え、固体電解質を次世代材料として育てられるかが焦点です。三井金属鉱業や住友金属鉱山は非鉄金属・機能材料の既存基盤、TDKは電子部品とセンサー、マクセルは小型電池と産業機器用途が下支えになります。
設備関連では、NEDO事業に名を連ねるアルバックのように、電池材料や成膜、真空関連技術を持つ企業にも連想が及びます。全固体電池は電極と電解質の界面を均一に作り込む必要があるため、製造装置、検査装置、乾燥・水分管理、ロールプレスなど工程技術の重要性が高まります。量産投資が増えれば、完成品メーカーより先に設備・部材メーカーの受注に表れる可能性があります。
初期採用が高級EVと産業機器に偏る現実
全固体電池関連株には明確なリスクもあります。IEAは、全固体電池は航続距離や安全性の向上が期待される一方、EV向けでの実性能はまだ大規模に実証されておらず、製造は従来のリチウムイオン電池より複雑で高コストになりやすいと指摘しています。とくに全固体電池は、動作時に一定の圧力管理を必要とする設計があり、パック統合の難しさが残ります。
海外勢との競争も軽視できません。韓国のSamsung SDIは、全固体電池用のパイロットライン「S-Line」を設け、900Whリットルのエネルギー密度と2027年量産目標を示しています。BMWとSolid Powerは、全固体電池セルを搭載したBMW i7の試験車両で検証を進めています。日本勢が技術で先行しても、量産速度や顧客開拓で海外勢に追い上げられる可能性があります。
また、既存の液系リチウムイオン電池も進化を続けています。LFP電池は中国勢を中心に価格競争力を高め、2025年にはEV向け電池の過半を占めました。IEAは2025年の平均電池価格が低下した一方、中国と欧米の地域価格差が広がったと分析しています。全固体電池が高級EVや特殊用途から始まるなら、量販EV市場への本格浸透は2030年代前半まで限定的になる可能性があります。
このため、関連株を短期材料だけで追うのは危険です。量産開始年、サンプル出荷、顧客認定、設備投資、補助金採択、実際の売上計上を分けて見る必要があります。発表資料に「開発」「検討」「目指す」とある段階と、「供給決定」「本格出荷」「顧客認定」とある段階では、株価材料としての質が大きく異なります。
投資家が確認すべき銘柄選別の三条件
全固体電池関連株を見る際の第一条件は、量産ロードマップに具体的な相手先や時期があることです。トヨタと出光のように、2027年から2028年の実用化目標と固体電解質の協業が結びついている事例は評価しやすい材料です。三井金属のように大手顧客向け供給が示された案件も、単なる研究テーマより一段進んだ材料といえます。
第二条件は、EV以外の先行用途を持つことです。マクセルやTDKのように、小型デバイス、産業機器、センサー、バックアップ電源で採用実績や製品化が進む企業は、全固体電池の収益化を早く確認できます。大型EV向けで一気に市場が開く前に、小型用途で信頼性を積み上げる企業は、テーマ相場の中でも見直されやすくなります。
第三条件は、既存事業の収益力と財務余力です。全固体電池は大きな成長テーマですが、量産検証には時間と資金がかかります。研究開発だけでなく、既存事業の利益、設備投資負担、顧客との共同開発、政府支援の有無をあわせて確認することが重要です。次の株価材料は、性能発表そのものより、量産ラインの立ち上げ、顧客認定、供給契約、補助金認定の更新に出やすい局面です。
参考資料:
- 電動化技術 - バッテリーEV革新技術|トヨタ自動車
- 出光とトヨタ、バッテリーEV用全固体電池の量産実現に向けた協業を開始|トヨタ自動車
- 次世代BEV向け電池と全固体電池の開発・生産に向けた供給確保計画が認定|トヨタ自動車
- Honda Unveils Demonstration Production Line for All-Solid-State Batteries
- 長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」|日産自動車
- “Battery Industry Strategy” Revised as the “Battery and Power Industry Strategy”|METI
- 次世代蓄電池・次世代モーターの開発|NEDO グリーンイノベーション基金
- All-solid-state Batteries|Maxell
- 全固体電池の事業計画|マクセル統合報告2025
- TDK successfully developed a material for solid-state batteries with 100-times higher energy density
- [SDI Focus] 900Wh/L All Solid Battery Becomes Reality|Samsung SDI
- Mitsui Kinzoku to Supply A-SOLiD Solid Electrolyte for a Major Customer’s All-Solid-State Battery Program
- Electric vehicle batteries|Global EV Outlook 2026|IEA
- Trends in electric cars|Global EV Outlook 2026|IEA
- BMW Group and Solid Power are testing all-solid-state battery cells in a BMW i7
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