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医療DX国策で脚光、クラウド電子カルテ関連株の勝ち筋と選別軸

by 斎藤 裕也
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医療DXが電子カルテを再評価する背景

電子カルテは、単なる院内業務の効率化ツールから、医療データを社会全体で活用するための基盤へ位置づけが変わりつつあります。厚生労働省は医療DXを、保健・医療・介護で発生する情報をクラウドなどの基盤を通じて外部化・共通化・標準化し、医療の質と業務効率を高める取り組みと説明しています。

この変化が株式市場で重要なのは、電子カルテの普及率だけでは測れない更新需要が見え始めたためです。令和5年時点の電子カルテ普及率は一般病院で65.6%、一般診療所で55.0%に達しています。大病院では400床以上が93.7%まで進む一方、200床未満の一般病院は59.0%にとどまり、診療所も半数弱が未導入です。

さらに、既存システムの多くはデータ形式、外部連携、セキュリティ、クラウド運用の面で次の政策要件にそのまま適合するとは限りません。投資テーマとして見るべき焦点は「紙から電子へ」ではなく、「院内完結型のシステムから、標準化されたクラウド型データ基盤へ」という更新局面です。

標準仕様とクラウド移行が生む更新需要

普及率の高さが隠す標準化不足

政府の医療DX工程表は、全国医療情報プラットフォームの創設、電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定DXを柱に据えています。工程表では、電子処方箋、電子カルテ情報、レセプト情報を連携させ、医療機関・薬局・自治体・介護事業所の間で情報を共有する方向が示されています。

電子カルテ情報共有サービスは、その中核となる仕組みです。厚生労働省は同サービスについて、診療情報提供書の電子共有、健診結果の閲覧、患者の臨床情報の閲覧、患者サマリーの閲覧という4つのサービスを掲げています。2026年6月にはシステムベンダー向け技術解説書の更新も行われ、実装面の詰めが進んでいます。

この政策設計から読むべきポイントは、病院や診療所が電子カルテを導入済みであっても、標準化されたデータを外部へ出せるかどうかが別問題になる点です。紹介状、退院時サマリー、検査結果、処方情報などが標準規格で扱えなければ、全国医療情報プラットフォームの価値は十分に発揮されません。

厚生労働省は医療情報の標準化で、HL7 FHIR記述仕様、SS-MIX2、DICOM、臨床検査データ交換規約などを標準規格として位置づけています。電子カルテ関連企業にとっては、画面の使いやすさだけでなく、標準規格への対応力、外部システムとのAPI連携、データ移行の実務力が競争力になります。

国策で変わるベンダー選定基準

標準仕様の整備も、関連株を見るうえで外せない材料です。厚生労働省は2026年3月に、中小病院向けと医科診療所向けの電子カルテ及びレセプトコンピュータ標準仕様書の1.0版を公開しました。医科診療所向けでは、電子カルテ情報共有サービスや電子処方箋への対応、ガバメントクラウド対応が可能なマルチテナント型SaaS、標準API、データ引き継ぎの互換性が要件の方向性として示されています。

病院向けでも、オンプレミス型の情報システムを刷新し、電子カルテ、レセコン、部門システムを一体的にクラウド型へ移行する方針が示されています。目標時期としては2030年までのできる限り早い時期に、希望する病院が導入できる環境を整備するとされています。

加えて、厚生労働省は医療情報システムのクラウド化に伴う検討事業で、クラウドネイティブ型電子カルテの新規導入や、オンプレミス型からの更新に必要な経費を補助対象としています。補助率は4分の5以内、上限額は1億円です。対象は病院であり、導入時の技術面・運用面の課題やコスト、リスクを整理する狙いがあります。

標準型電子カルテの導入版も注目です。厚生労働省資料では、医科無床診療所向けのクラウドネイティブ型標準型電子カルテの中で、国の医療DX対応機能に限定した導入版を開発中とし、2026年度中の完成を目指すとしています。紙カルテや既存電子カルテを使い続ける医療機関でも、診療情報提供書、検査データ、電子処方箋、マイナポータル連携に接続しやすくする位置づけです。

つまり、国策が作る需要は単発の端末更新ではありません。電子カルテ、レセコン、予約、問診、検査連携、電子処方箋、資格確認、患者アプリ、セキュリティを含む継続的なSaaS運用へ収益構造を変える企業ほど、政策テーマを業績に結びつけやすくなります。

関連企業を見極める収益化の焦点

診療所SaaSで先行する企業群

診療所向けでは、クラウド電子カルテを軸に周辺業務を取り込む企業が注目されます。エムスリーデジカルは「M3 DigiKar」をクラウド電子カルテとして展開し、公式サイトではAIによる診察会話の書き起こしやSOAP形式の要約、オンライン資格確認、電子処方箋への対応を訴求しています。電子カルテ情報共有サービスについても、国による正式リリース後に順次対応予定としています。

同社サイトでは、初期費用0円、月額11,800円からのORCA連動型プラン、レセコン一体型プランなどが示されています。投資家目線では、低い初期負担で導入の心理的ハードルを下げ、月額課金とオプションで長期収益化するモデルと読めます。親会社のエムスリーは医師会員基盤を持つため、医師接点を製品導入へつなげられるかが焦点です。

メドレー系のCLINICSも、クラウド診療支援システムとして電子カルテ、レセコン、予約、WEB問診、オンライン診療、経営分析を一体で打ち出しています。公式サイトでは、オンライン診療と電子カルテの合計で利用医療機関数が約3,500件とされています。AI要約アシスト、AI文書アシスト、患者アプリ「melmo」など、電子カルテを入口に患者体験まで囲い込む設計が特徴です。

EMシステムズの「MAPs for CLINIC」は、クラウド電子カルテでありながら専用アプリケーションを採用し、オンプレミス型に近い操作性や、ネットワーク停止時のオフライン継続を訴求しています。公式サイトでは、これまで3,000カ所以上の医療機関へのシステム導入実績、100社以上の外部機器、80社以上の外部検査センターとの連携が示されています。クラウド移行時に現場が懸念しやすい操作性と障害時対応を前面に出す戦略です。

病院・検査連携で広がる周辺需要

PHCグループ傘下のウィーメックスは、メディコムブランドで「Medicom クラウドカルテ」や「Medicom-HRf Hybrid Cloud」を展開しています。公式サイトでは、完全クラウド型でオンプレ型の使いやすさを実現する製品、クラウドの利便性とオンプレの機能性を両立する製品が並びます。既存の医事システムやクリニック向け導入基盤を持つ企業は、更新時にクラウド版へ誘導できるかが業績上の見どころです。

BMLの「Qualis Cloud」も、無床クリニック向け電子カルテとしてオンプレミス型とクラウド型の双方を選べる点を打ち出しています。検査会社の電子カルテであることを生かし、検査オーダーから結果参照までの連携を訴求しており、公式サイトでは医療機器やシステムとの連携実績が200種類以上とされています。電子カルテ情報共有サービスが検査データの登録・閲覧を重視するほど、検査会社や検査連携に強い企業にも周辺需要が及びます。

関連企業を評価する際は、単に「電子カルテを売っているか」だけでは不十分です。第一に、クラウドネイティブ型として継続課金を積み上げられるか。第二に、電子処方箋や電子カルテ情報共有サービスへ追加課金できるか。第三に、既存顧客の移行で解約を抑えながら単価を上げられるか。第四に、標準APIやデータ引き継ぎに対応し、他社からの乗り換えを取り込めるかです。

テーマ株としては、医療SaaS、電子カルテ、レセコン、検査連携、サイバーセキュリティ、ガバメントクラウド対応が重なります。ただし、政策テーマの広がりと企業業績の伸びは同じではありません。公式サイトの導入件数や機能紹介は入口にすぎず、決算資料で売上成長率、解約率、開発費、サポート費、人員投資、利益率を確認する必要があります。

政策相場で警戒すべき採算とセキュリティ

クラウド電子カルテ関連株には追い風がある一方、リスクも明確です。まず、医療機関は診療を止められないため、システム移行の意思決定が慎重です。既存カルテからのデータ移行、スタッフ教育、レセプト請求、検査機器連携、院内ネットワーク整備が絡むため、営業リードタイムは長くなりがちです。

次に、標準仕様への対応は開発負担にもなります。HL7 FHIRや標準API、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービス、ガバメントクラウド対応は、製品価値を高める一方で、継続的な改修費を発生させます。価格競争が強まれば、導入件数が伸びても利益率が伸びにくい局面があり得ます。

セキュリティも重い論点です。厚生労働省は2026年6月に医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版を公表し、医療機関等に順守を求めています。医療機関・薬局向けのサイバーセキュリティ対策チェックリストや、サイバー攻撃を想定したBCP策定資料も整備されています。

クラウド型は更新の速さやバックアップで優位性がありますが、障害時の業務継続、認証管理、端末管理、委託先管理、ログ監査まで問われます。投資家は、導入件数の増加だけでなく、障害対応体制、サポート人員、セキュリティ投資、医療情報ガイドラインへの適合状況を確認すべきです。医療DXは国策であっても、現場に浸透する速度は制度、予算、運用負荷に左右されます。

投資家が追うべき三つの確認材料

クラウドネイティブ型電子カルテ関連を追うなら、第一に標準仕様への対応状況を確認することです。電子カルテ情報共有サービス、電子処方箋、標準API、データ移行、ガバメントクラウド対応が製品ロードマップに明記されている企業は、政策需要を取り込みやすい位置にいます。

第二に、SaaSとしての収益品質です。月額課金、オプション課金、患者向けアプリ、予約・問診・決済、AI文書作成、経営分析まで広げられる企業は、導入後の単価上昇余地があります。反対に、導入支援や個別カスタマイズに人手がかかりすぎる場合、売上成長が利益に残りにくくなります。

第三に、顧客基盤と乗り換え力です。未導入層を開拓する企業、既存オンプレ顧客をクラウドへ移す企業、検査・薬局・介護連携まで広げる企業では、狙う市場が異なります。電子カルテは医療DXの入口であり、データ連携の出口でもあります。関連株の選別では、政策ニュースへの反応だけでなく、標準化に耐える製品力と、継続課金を積み上げる営業力を見極める姿勢が重要です。

参考資料:

斎藤 裕也

テーマ株・材料分析

テーマ株・材料株の発掘と分析を得意とする。企業の IR 情報と業界動向を結びつけ、投資家目線で銘柄の「次の一手」を読む。

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