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空売り残高・信用残の見方|公表される数字の母集団と2営業日のラグを一次情報で整理

by デイトレ.jp 編集部

「信用売残が増えた」「空売り残高が1%を超えた」といった数字は、どれも売り方の残高を指しているように見えます。しかし公表しているのは別の制度で、基準になる日も、拾われる母集団も、見えるまでの日数も違います。この記事では東証が公表している信用取引残高と、内閣府令に基づく空売り残高の2系統を一次情報で確認し、それぞれの数字が何を数えていないかを数値例で示します。

公表されている数字は4系統ある

東証の「信用取引残高等」のページには、次のデータが並んでいます。掲載時刻はいずれも各ページの記載どおりです。

データ中身基準掲載
銘柄別信用取引残高銘柄ごとの信用買残・売残申込日日々16:00目安
日々公表銘柄等信用取引残高規制措置銘柄・日々公表銘柄などの残高毎日の残高翌営業日(日々16:00目安)
品貸料逆日歩の料率申込分日々16:00目安
信用取引売買比率売買に占める信用の比率売買分日々16:30目安

これとは別に、公衆縦覧書類として「空売り残高」が公表されています。こちらは統計情報ではなく、法令に基づく報告の公表です。

日々公表銘柄等信用取引残高の対象

東証の説明では、このページで翌営業日に公表されるのは次の銘柄です。

上表では、当取引所が実施する ①信用取引の規制措置銘柄、②「日々公表銘柄」、③「特別注意銘柄」、④不明確情報等により注意喚起の対象となった銘柄のうち当取引所が必要と認めた銘柄等に加えて、日本証券金融(株)が実施する⑤貸株注意喚起銘柄、⑥貸株申込制限措置銘柄について、毎日の信用取引残高をその翌営業日に公表しています。

全銘柄が毎日この表に載るわけではありません。普通の銘柄の残高は「銘柄別信用取引残高」のほうで、申込日単位で掲載されます。2026年10月9日に確認した時点では、最新が2026年10月8日申込分で、その前に10月7日・6日・5日・2日の申込分が並んでいました。

空売り残高は「0.5%以上」だけが見える

東証の「空売り残高」のページには、次の一文が置かれています。

「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」に基づき、取引参加者より報告を受けたもののうち、残高割合が0.5%以上のものについて掲載しています。

ここがこのデータのいちばん重要な性質です。0.5%未満の空売り残高は、何者分あっても公表されません。

どれだけ見えないかを数える

架空のB社株で考えます(制度の効き方を見るための数値モデルです)。

  • 発行済株式総数:20,000,000株
  • 0.5%にあたる株数:100,000株

ここで、空売り残高が次のように分かれていたとします。

報告者残高残高割合公表されるか
ファンドP120,000株0.60%される
ファンドQ80,000株0.40%されない
ファンドR80,000株0.40%されない
ファンドS80,000株0.40%されない
合計360,000株1.80%—

公表される数字は**120,000株(0.60%)だけです。実際の空売り残高は360,000株(1.80%)なので、公表値は実際の33.3%**にとどまります。「空売り残高が0.6%しかないから売り方は少ない」という読み方は、この構造の上では成り立ちません。

逆に、1者が大きく積んでいる銘柄では公表値が実際の総量に近づきます。つまり公表値の網羅率は銘柄ごとに違い、しかもその網羅率そのものは公表されていません。残高の絶対水準を比べるより、同じ銘柄の同じ報告者の残高が増えたか減ったかを追うほうが、データの性質に合った読み方になります。

残高割合の丸め方

手引きでは、残高割合の記載方法がこう決められています。

上記Aの空売り残高割合及び直近空売り残高割合の、所定のExcel形式のフォーマットへの記載に際しては、それらを発行済株式の総数又は発行済口数で除して得た数値(当該数値に小数点以下四位未満の端数があるときは切り捨てる)を小数点以下二位までの%表示でご記載ください。例えば、算出した空売り残高割合が0.00315である場合、0.31%と記載します。

0.00315は四捨五入すれば0.32%ですが、切り捨てなので0.31%です。小さい残高を比べるときは、この1段の丸めが入っていることを前提に見る必要があります。

報告者名が出る条件

手引きでは、個人の場合の扱いが残高割合で分かれています。

  • 残高割合が5%未満の個人:商号・名称又は氏名の欄に「個人」と記載し、住所又は所在地は空欄
  • 残高割合が5%以上の個人:氏名を記載し、住所は都道府県名および市町村名又は特別区名まで(それ以降の詳細住所は記載しない)

表に「個人」とだけ並んでいる行は、同一人物かどうかも分かりません。複数行の「個人」を合算して1人の動きとして読むことはできません。

2営業日のラグがどこから来るか

空売り残高は、計算した日のうちには見えません。手引きの2か所を並べると日数が確定します。

投資者は取引参加者に対し、A「空売りをした指定有価証券に係る残高情報」及びB「商号、名称又は氏名及び住所又は所在地」を空売りを行った日の翌々営業日の午前10時までに提供することとなります。(有価証券の取引等の規制に関する内閣府令第15条の3第1項第5号に規定される「残高割合の計算年月日」の翌々営業日の午前10時となります。)

なお、東証では原則として、取引参加者から午後4時までに提供された当該情報を、当日中にウェブサイトに掲載しています(過去13ヶ月分を掲載)。

したがって、

時点起きること
T日残高割合の計算年月日
T+2営業日 午前10時まで投資者→取引参加者へ残高情報を提供
T+2営業日 午後4時まで取引参加者→東証へ提供
T+2営業日 当日中東証がウェブサイトに掲載

最短でもT+2営業日の夕方です。信用残(銘柄別信用取引残高)が申込日の翌営業日16:00目安で出るのに対して、空売り残高は1営業日ぶん遅れます。2つの数字を同じ日付で並べると、実は別の日の状態を比べていることになります。連休をはさめば差はさらに開きます。

なお、この制度は2008年11月7日以降のもので、2013年11月に空売り規制の総合的な見直しに伴って提供方法・公表方法が見直されています。私設取引システム(PTS)での信用取引が2019年4月に解禁されたあとの報告についても、東証が留意点を取りまとめています(PTSそのものの取引時間はPTSとは?夜間PTSの取引時間・手数料にまとめています)。

信用倍率と、過去の記録

信用買残を信用売残で割ったものが信用倍率です。買残600,000株・売残200,000株なら、

  • 信用倍率 = 600,000 ÷ 200,000 = 3.00倍

となります。東証が「銘柄別信用取引残高」のページに参考として載せている東京市場分の最高最低記録(1968年1月以降)は次のとおりです。

項目最高最高の日最低最低の日
売残高16,731億円1989/4/7290億円1968/12/28
買残高90,006億円1990/3/16912億円1968/1/13
信用倍率20.60倍1990/3/231.11倍2009/4/3

※信用倍率以外の単位は億円(東証の注記)

買残高の最高(90,006億円)は売残高の最高(16,731億円)の約5.4倍で、しかも別の日です。市場全体では買残のほうが大きく振れてきたことになります。信用倍率が20.60倍まで行った局面と1.11倍まで下りた局面の差は約18.6倍あり、「信用倍率が何倍なら高い」という基準を固定で持てる範囲ではありません。

信用倍率が答えないこと

信用倍率は2つの残高の比なので、分子と分母が同時に半分になっても値は変わりません。残高が細っていく過程と、両方が膨らむ過程を区別できません。倍率だけを見るのではなく、買残・売残の実数と並べて見る必要があります。

また、信用取引売買比率のページには次の注記があります。

信用取引売買比率は、取引参加者証券会社の申告に基づいて集計したもので、事後的に訂正の申告が行われた場合、遡及して訂正は行いません。

過去の数字がのちに正されることはない、という断り書きです。取り込んだデータをそのまま時系列で使う場合は、この性質を知っておく部分になります。

品貸料(逆日歩)と残高の関係

東証の「品貸料」のページには、定義がこう書かれています。

貸借取引において、貸株残高が融資残高を超過して株不足が発生した場合、証券金融会社は、その不足株数を入札形式で証券会社または生損保等の機関投資家から調達しますが、その入札により決定された料率を品貸料といいます。品貸料がついた銘柄について、制度信用取引を行っている全ての売り顧客は当該金額を支払わなければならず、また全ての買い顧客は当該金額を受け取ることができます。なお、この品貸料は逆日歩とも呼ばれます。

ここで出てくる「貸株残高」「融資残高」は、証券会社と証券金融会社のあいだの貸借取引の残高で、東証が公表する信用残とは別の数字です。制度信用のうち証券金融会社を通った分だけが入ります。品貸料がつくかどうかを見たいなら、東証の信用残ではなく証券金融会社側の貸借残高を見ることになります(日本証券金融の説明は空売りとは?仕組みと貸株料・逆日歩でも引用しています)。

料率は入札の結果なので、売った時点では確定していません。東証の「品貸料」のページも日々16:00目安の事後公表です。そして品貸料は制度信用で売っているすべての人が支払う費用で、貸株料とあわせて建玉を持っているあいだ積み上がります。値動きによる損失にこれらの費用が乗ると、損失が差し入れた保証金を超えることがあります。超過分は不足金として請求されます(追証とは)。残高データを読む作業は、こうしたコストが発生する取引の上に乗っているものです。

同じ「売り」でも母集団が違う

ここまでの3系統を並べると、重なり方がはっきりします。

数字誰の売りを数えるか入らないもの
信用売残(東証)取引参加者が申告した信用取引の売建玉信用取引以外の空売り
空売り残高(東証・公衆縦覧)0.5%以上を報告した者の空売り残高0.5%未満の残高・報告義務の対象外
貸株残高(証券金融会社)制度信用のうち証券金融会社を通った分一般信用・自社で株を手当てした分

3つは包含関係になっていません。信用売残が減っているのに空売り残高が増えている、という組み合わせは制度上ふつうに起こります。「売り方が減った/増えた」という一文に落とす前に、どの数字のことかを確かめる部分です。信用取引そのものの仕組みは信用取引とは、一日信用の扱いは一日信用取引とはにまとめています。

検証していないこと

「信用買残が多い銘柄は上値が重い」「空売り残高が多い銘柄は踏み上げになりやすい」といった説明は、残高データの使い方として一般的に紹介されている読み方です。特定の銘柄・期間でそのとおりになったかどうかは別の問題で、この記事では検証していません。

この記事が確認したのは、公表されている数字の出所・基準日・母集団・掲載時刻で、そこから値動きを導く部分は制度の側に書かれていません。上の数値例(発行済20,000,000株・公表値が実際の33.3%)も、制度の効き方を見るための架空のモデルです。

まとめ

  • 東証の信用取引残高は4系統(銘柄別残高・日々公表銘柄等残高・品貸料が日々16:00目安、信用取引売買比率が16:30目安)
  • 空売り残高は内閣府令に基づく公表で、残高割合0.5%以上だけが載る。過去13ヶ月分
  • 0.5%未満が見えないため、公表値は総量ではない。数値例では実際の1.80%に対し公表は0.60%=33.3%
  • 残高割合は小数点以下四位未満を切り捨てて二位まで表示(0.00315→0.31%)
  • 空売り残高が見えるのは最短でT+2営業日の夕方。信用残(申込日の翌営業日16:00目安)より1営業日遅い
  • 信用倍率の東京市場分の記録は最高20.60倍(1990/3/23)・最低1.11倍(2009/4/3)で、固定の基準値は置けない
  • 信用売残・空売り残高・貸株残高は包含関係になっていない。「売り方」の増減を1つの数字で語れない

この記事は制度とデータの説明で、特定の銘柄や売買手法を勧めるものではありません。信用取引は、貸株料や逆日歩を含めて損失が差し入れた保証金を超えることがある取引です。取引するかどうかはご自身で判断してください。デイトレードの始め方はデイトレードのやり方・始め方にまとめています。

よくある質問

Q. 空売り残高はどこで公表されていますか?

A. 東京証券取引所のウェブサイトの「空売り残高」のページです。JPXの説明では「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」に基づき、取引参加者から報告を受けたもののうち、残高割合が0.5%以上のものについて掲載しています。Excel形式で日々公表され、過去13ヶ月分が掲載されています。

Q. 空売り残高の合計を足せば、その銘柄の空売りの総量が分かりますか?

A. 分かりません。公表対象は残高割合0.5%以上のものだけなので、0.5%未満の残高は何者分あっても表に出ません。この記事の数値例では、実際の空売り残高が発行済株式の1.80%あるのに、公表されるのは0.60%ぶんだけで、公表値は実際の33.3%にとどまりました。

Q. 空売り残高はいつ見えるようになりますか?

A. JPXの手引きでは、投資者は取引参加者に対し、残高割合の計算年月日の翌々営業日の午前10時までに残高情報を提供し、東証は原則として取引参加者から午後4時までに提供された情報を当日中にウェブサイトに掲載するとされています。つまり残高を計算した日のデータが見えるのは、最短でもその翌々営業日の夕方です。

Q. 信用買残・信用売残はいつ公表されますか?

A. 東証の「銘柄別信用取引残高」のページは「日々16:00を目安に掲載しております」と明記しています。掲載は申込日単位で、2026年10月9日時点の最新は2026年10月8日申込分でした。日々公表銘柄・規制措置銘柄などについては「日々公表銘柄等信用取引残高」として、毎日の信用取引残高をその翌営業日に公表しています。

Q. 信用倍率とは何ですか?過去にどれくらいまで動いたことがありますか?

A. 信用買残を信用売残で割った倍率です。東証が「銘柄別信用取引残高」のページに載せている東京市場分の最高最低記録(1968年1月以降)では、信用倍率の最高は1990年3月23日の20.60倍、最低は2009年4月3日の1.11倍です。同じ表では売残高の最高が1989年4月7日の16,731億円、買残高の最高が1990年3月16日の90,006億円となっています(信用倍率以外の単位は億円)。

Q. 逆日歩(品貸料)は残高のどこを見れば予想できますか?

A. 貸借取引で貸株残高が融資残高を超えて株不足になると入札で料率が決まる仕組みなので、証券金融会社側の貸借残高が手がかりになります。ただし料率そのものは入札の結果で、事前には分かりません。東証の「品貸料」のページも日々16:00目安の事後公表です。逆日歩は制度信用で売っている全員が支払う費用で、積み上がると損失が差し入れた保証金を超える要因になります。

出典・参考資料

「信用取引・空売り」のほかのガイド

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