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差金決済とは|現物デイトレで同じ銘柄を2回転できない理由と、条文・必要資金の計算

by デイトレ.jp 編集部

現物取引で同じ銘柄を2回買おうとすると、資金が残っているのに注文が通らないことがあります。これは証券会社の制限ではなく、差金決済の禁止という制度に由来します。この記事では条文の文言を確認したうえで、同一銘柄を1日に何往復するにはいくら必要なのかを計算します。

差金決済と日計り取引の定義

まず2つの言葉を分けます。みずほ証券のFAQは日計り取引をこう説明しています。

株式等の取引において、同一の取引者が同日中に同一銘柄を売買する取引のことです。 【例】同じ日に「A銘柄買付→A銘柄売却」や「A銘柄売却→A銘柄買付」

そして差金決済はこうです。

反対売買によって、確定した損益額である差金のみを授受する決済方法です。なお、現物取引の『差金決済』は法令で禁止されています。

GMOクリック証券のFAQはもう少し具体的です。

受渡日に、買付に必要な代金、または売却する有価証券を提供せず、同一銘柄の反対売買で、相殺する取引を差金決済と言います。 現物取引では差金決済は法令で禁じられています。 ※現物取引で差金決済に該当する可能性があるご注文はお受けできません。

つまり日計り取引そのものは禁止されていません。禁止されているのは「受渡しをせず、差額だけをやり取りする形」です。

ここで出てくる受渡しは、野村證券の用語集では次のように説明されています。

売買成立(=約定)に基づき、買い手は買付代金を、売り手は現物(売付証券等)を、それぞれ相手方に引き渡すこと。決済とも呼ばれる。

約定と受渡しは別の日に起こります。だから同じ受渡日の中で同じ銘柄を売買すると、受渡しの前に反対売買が済んでしまい、「差額だけの授受」に近づきます。

条文は「金融商品取引業者は…行つてはならない」

根拠は「金融商品取引法第百六十一条の二に規定する取引及びその保証金に関する内閣府令」(昭和二十八年大蔵省令第七十五号)の第10条です。見出しは「信用取引を行うことを明示しない取引」です。

金融商品取引業者は、顧客が信用取引を行うことを有価証券の売買の注文と同時に明示しない取引については、当該顧客が当該取引による買付け又は売付けに係る有価証券について、これと対当する有価証券の売付け又は買付けにより、これを決済する取引を行つてはならない。

この一文から3つ読めます。

  1. 主語は「金融商品取引業者」=義務を負うのは証券会社側です。だからGMOクリック証券のFAQにあるとおり、該当しうる注文は受付の段階で止まります
  2. 対象は「信用取引を行うことを…明示しない取引」=現物取引です。信用取引と明示した注文はこの条文の対象になりません
  3. 禁じられているのは「対当する有価証券の売付け又は買付けにより、これを決済する取引」=同一銘柄の反対売買での決済です。銘柄が違えば「対当する有価証券」に当たりません

禁止の目的について、みずほ証券のFAQはこう書いています。

差金決済の禁止は、資力の裏付けのない取引を認めることにより、債務不履行を招き、取引の安全性を害することおよび市場の需給関係が過度に流動性を持つことによって価格形成等に悪影響をおよぼしてしまうため防止しています。

通る形と通らない形

楽天証券の「乗り換え売買」のページは、同一資金・同一受渡日での現物売買を次のように整理しています。

弊社では前受け金を前提としており、差金決済に該当しないよう同一資金、同一受渡日、同銘柄の売買につきましては、以下のとおりとなります。 預り金での買付から始める場合 買注文→約定→売注文→約定 (買って売るまで) 株式の売却(銘柄A)から始める場合 売注文→約定→買注文→約定 (売って買うまで) 1 、 2 の両方のケースにつきまして、同日に再度、同一資金で、同一銘柄を買付、売付することはできません。ただし、別途資金をご用意いただいた場合につきましては、同一銘柄の買付をおこなうことができます。

いっぽう銘柄が変わる場合はこうです。

同一約定日・同一受渡日であれば、同一資金の範囲内で異なる銘柄の現物売買が可能となります。

表にすると次のようになります(同一資金・同一受渡日・現物取引)。

売買の順番可否
銘柄A買付 → 銘柄A売付可
銘柄A売付 → 銘柄A買付可
銘柄A買付 → 銘柄A売付 → 銘柄A買付不可(別途資金があれば可)
銘柄A売付 → 銘柄A買付 → 銘柄A売付不可
銘柄A買付 → 銘柄A売付 → 銘柄B買付 → 銘柄B売付 → 銘柄C買付可

同じ銘柄に戻ってくる3手目で止まります。楽天証券は売りから始める形についても「その売却代金以外に預り金がない時はそれをまた売却すると差金決済となることがありますので、この種の売買はできないことといたします」と説明しています。

なお夜間取引(PTS)を挟む場合の扱いも同じページに書かれていて、夜間取引の約定は翌営業日の日中取引と同じ扱いになるため、夜間にA銘柄を買って売り、翌営業日の日中に同じA銘柄を買うことはできないとされています(PTSとは)。

同一銘柄を何往復するかで必要資金が決まる

同一銘柄の往復が1受渡日に1回までなら、回転数を増やすには資金を分けるしかありません。1回の売買代金を100万円として計算します。

1日に同一銘柄を回す回数現物に必要な資金内訳
1往復100万円100万円で買って売る
2往復200万円2往復目は「別途資金」が必要
3往復300万円同様に3口分
5往復500万円同様に5口分

必要資金は往復回数に比例します。いっぽう銘柄を変える場合は、同じ100万円で何銘柄でも回せます(乗り換え売買)。

1日の売買必要資金
同一銘柄を3往復300万円
異なる3銘柄を1往復ずつ100万円

「デイトレードは同じ銘柄を何度も回すもの」という前提で現物を使うと、ここで資金の壁に当たります。回数を増やす方向ではなく、銘柄を変える方向であれば資金は増えません。

信用取引は条文の対象外(ただし保証金が必要)

第10条の対象は「信用取引を行うことを…明示しない取引」なので、注文時に信用取引と明示すればこの条文の適用はありません。楽天証券も条文を引用した注記で、対象を「現物取引のことを指します」と明記しています。

ただし信用取引には委託保証金が必要です。同じ内閣府令の第2条は信用取引に乗ずべき率を「百分の三十」と定め、第3条のただし書は次のように書いています。

その預託を受ける際当該金融商品取引業者に当該顧客の信用取引に係る受入保証金(現に受け入れている保証金をいう。以下同じ。)がない場合において、その預託を受けるべき信用取引に係る通常の最低限度額が三十万円に満たないときは、三十万円

日本取引所グループの説明も同じ水準です。

委託保証金は、買付代金、売付代金の30%以上(レバレッジ型・ダブルインバース型ETF及びETNの場合、買付代金、売付代金の60%以上)と定められており、現金のほか有価証券でも代用できます。

100万円の建玉に必要な保証金は30万円(30%)で、最低委託保証金は30万円です。手元資金100万円なら計算上の建玉上限は約333万円(100万円 ÷ 30%)になります。

手元資金100万円建てられる額同一銘柄の1日の回転
現物100万円1往復(2往復目は別途資金)
信用取引(保証金率30%)約333万円第10条の対象外(回数の扱いは各社の規定)

ただし信用取引は、損失が差し入れた保証金を超えることがある取引です。当日中に決済する前提の商品設計については一日信用取引とは、維持率と追証の計算は追証とはにまとめています。回転数の実際の上限は、建玉の決済後に保証金がいつ再利用できるかという各社の取り扱いで決まるため、口座の規定で確認してください。

受渡日までは資金が拘束される

日計り取引をしても、現物の受渡しが終わるまでは資金が自由になりません。楽天証券の説明です。

日計り取引を行った場合、差金決済取引を防止するために概算金額を必要金額として受渡日まで拘束いたしますが、当該日計り取引の受渡日前にご出金・他商品への振替をすることで、結果的に差金決済に該当することがございます。 その際、受渡日までにご入金が必要となりますので、ご注意ください。

つまり「今日中に売ったから資金は戻った」と考えて出金すると、受渡日に不足金が出ます。入金しなければ、その後の取引(現物買い・信用新規建て)が制限される場合があるとも書かれています。

証券会社を分けて回転数を増やす場合も、この点は変わりません。差金決済の判定は口座を開いた会社ごとですが(条文の主語が金融商品取引業者だからです)、資金を会社間で動かすには出金と入金が必要で、受渡日前の出金はここで引っかかります(証券口座は複数持っていいのか)。

検証していないこと

  • 証券会社ごとの判定ロジックの違いは検証していません。この記事が引用しているのは条文と各社の公開説明です
  • 受渡日が約定日から何営業日後かは、この記事で引用した一次情報の範囲に記載がないため書いていません。実際の受渡日は口座の取引明細で確認してください
  • 信用取引で1日に何回転できるかは各社の取り扱い次第で、回数の上限は計算していません
  • 必要資金の表は手数料・税金を0円として計算した概算です。実際の手数料は会社とコースで変わります(デイトレの手数料無料を比較)
  • 貸株サービスや代用有価証券を使った場合の資金拘束の扱いは扱っていません

まとめ

  • 差金決済は「受渡日に、買付に必要な代金、または売却する有価証券を提供せず、同一銘柄の反対売買で、相殺する取引」(GMOクリック証券)=現物取引では法令で禁止
  • 根拠は内閣府令第10条。主語は「金融商品取引業者」で、対象は「信用取引を行うことを…明示しない取引」=現物取引
  • 日計り取引そのものは禁止されていない。止まるのは同一資金・同一受渡日で同一銘柄に3手目が入る形
  • 同一銘柄を1日3往復するには売買代金3口分(例:300万円)が必要。異なる3銘柄なら同じ100万円で回せる(乗り換え売買)
  • 信用取引は第10条の対象外だが、委託保証金は買付代金の30%以上・最低30万円(内閣府令第2条・第3条/日本取引所グループ)
  • 日計り取引の資金は受渡日まで拘束される。受渡日前に出金すると結果的に差金決済に該当することがある(楽天証券)

この記事は制度の説明で、特定の銘柄や売買手法を勧めるものではありません。信用取引は、損失が差し入れた保証金を超えることがある取引です。取引するかどうかはご自身で判断してください。デイトレードを始める手順はデイトレードのやり方・始め方にまとめています。

よくある質問

Q. 差金決済とは何ですか?

A. GMOクリック証券のFAQは「受渡日に、買付に必要な代金、または売却する有価証券を提供せず、同一銘柄の反対売買で、相殺する取引を差金決済と言います」と説明しています。みずほ証券のFAQも「反対売買によって、確定した損益額である差金のみを授受する決済方法」としており、いずれも現物取引では法令で禁止されていると書いています。

Q. なぜ現物取引では禁止されているのですか?

A. みずほ証券のFAQは理由をこう説明しています。「資力の裏付けのない取引を認めることにより、債務不履行を招き、取引の安全性を害することおよび市場の需給関係が過度に流動性を持つことによって価格形成等に悪影響をおよぼしてしまうため防止しています」。条文は金融商品取引法第161条の2に関する内閣府令の第10条です。

Q. 現物で同じ銘柄を1日に何回売買できますか?

A. 同一資金・同一受渡日では「買って売るまで」または「売って買うまで」の1往復です。楽天証券の説明では、同日に再度、同一資金で同一銘柄を買付・売付することはできず、別途資金を用意した場合に限り同一銘柄の買付ができるとされています。資金100万円で3往復したいなら300万円が必要になる計算です。

Q. 異なる銘柄なら同一資金で回せますか?

A. 回せます。楽天証券は「同一約定日・同一受渡日であれば、同一資金の範囲内で異なる銘柄の現物売買が可能となります」と説明しており、銘柄A買付→売付→銘柄B買付→売付→銘柄C買付…という連続は可能です。条文が禁じているのは同一銘柄の対当する売買による決済だからです。

Q. 信用取引なら差金決済の制約はありませんか?

A. 内閣府令第10条の対象は「顧客が信用取引を行うことを有価証券の売買の注文と同時に明示しない取引」=現物取引です。信用取引はこの条文の対象外ですが、委託保証金が必要です。同じ府令の第2条が率を30%と定め、第3条のただし書は通常の最低限度額が30万円に満たないときは30万円としています。

Q. 日計り取引をした資金はすぐ出金できますか?

A. 楽天証券は、日計り取引を行った場合に差金決済取引を防止するため概算金額を必要金額として受渡日まで拘束し、受渡日前に出金や他商品への振替をすると結果的に差金決済に該当することがあると説明しています。その場合は受渡日までの入金が必要になります。

出典・参考資料

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